やります三語。今回のお題は、以下の八つ。「清純派」「召集令状」「エニグマ暗号文」「スカトロ」「初経」「それはわしのじゃ。返せ」「賞味期限」「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」この中から三つ以上使用して、作品を仕上げて下さい。なお、縛りとして『奇人・変人・変態が出てくる』が今回設けられます。この縛りを踏まえて執筆して下さいね。ま、お題選びによっては、自動的にクリアされるかもしれませんがw。とりあえずの締め切りは深夜一時。多少遅くなっても問題ありませんので、楽しんで執筆してください。
《R18でっす》「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」 と彼女は言った。 彼女と僕は近所のコーヒー・ショップでコーヒーを飲んでいた。窓際の席で、西日がひどく射し込んでいた。彼女の顔の輪郭が、濃い陰に縁取られている。僕はそれを下痢を漏らしながら、ぼんやりと眺めていた。 僕はさいきん、アナニーのし過ぎで、肛門が緩んでおり、絶え間なく下痢を漏らしていた。しかし、僕はそれを気にしていないし、彼女もまた気にしていない。僕たちは時折、倒錯的なスカトロプレイに没頭する事があった。全身をウンコで塗りたくり、時にはそれを食し、性的に鼓舞するスカトロプレイ。僕は彼女の肛門からブリブリと排泄されるウンコを顔面に浴びながら、フェラチオをされたりした。 彼女が怒っているのは、僕が下痢を漏らし続けていることではない。そうではなくて、彼女が提案した、ここのコーヒー・ショップを強盗するということに、僕が乗り気ではないことだった。「なんで気が乗らないの?」 彼女はそう言った。「なんだろうね」 僕はそう答えた。「あなた、さいきん狂ってないわ」 彼女はそう言った。「なんでだろうね。歳かな」 僕はそう答えた。「狂っていないあなたには、何も残らないわ。カスよ」 彼女はそう言った。 彼女はまだ若い。22歳だった。僕は今年で30歳になる。この歳になると嫌でも現実的になる。僕はここ最近、慢性的な鬱状態にあった。 僕は、彼女のクレイジーなところに惹かれていた。彼女もまた、僕のクレイジーなところに惹かれていた。しかし、今の僕は、かつてのように狂っていないし、強盗に熱情を燃やすほどのロマンもない。「別れようか」 僕はそう言った。彼女と別れて、清純派のつまらない女とつきあってみるのもいいかも知れないと思った。つまらない女と結婚して、つまらない日常に埋没して、つまらない人間になる。それも良いかもしれないと思った。「別れましょう」 彼女はそう言うと、立ち上がって、コーヒー・ショップから出ていった。 不思議とあまり悲しくなかった。彼女と一緒に過ごしたクレイジーな日々も、やがてはセピア色をした、単なる思い出となるだろう。 彼女と別れた今日は、一つの節目になるだろう。今日までのことより明日のことを考えよう、そう思って僕は、とりあえずアナニーのし過ぎによる、下痢を何とかしようと思った。
お題は、「清純派」「召集令状」「エニグマ暗号文」「スカトロ」「初経」「それはわしのじゃ。返せ」「賞味期限」「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」から三つ以上です。縛りは『奇人・変人・変態が出てくる』です。『暗号文』「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」と言う内容のメールが男に届いた。いくつかの解読法を使い、エニグマ暗号文に辿り着く。それをさらに捻った内容は、「帰りに小豆買ってきてね」だった。男は司令室で苦笑した。「初経か…」口から漏らさず、もうそんな年頃なのだなと娘の事を思いつつ、六個のモニターに集中する。下らない仕事だった。過激派テロ組織の幹部が入国し、厳重監視すると言う指令。モニターに映るのは、清純派を売りにしているアイドルを玩具にしている人物、モスカ・トローン。腹の肥えた老人にこの国を脅かす力はない、「それはわしのじゃ。返せ、ガハハッ、頑張ろうニッポン」と、賞味期限切れのとろけるマンゴープリン風呂で少年のイチモツを頬張る老人。相手の男子の頬は紅潮している。何しに来たんだ? と男は問いたかった。「すまんな、こんな下らない事に、君達に召集令状を送ってしまって」「たまにはこんなお気楽な仕事も有ですよ。それより、踏みこみますか?」「もう少し待とう、決定的証拠にはまだだ」男は待っていた。既に総指令である妻にはメールを送っていた。「私を許してくれるなら、いくらでも硫酸を被ろう、爛れた私をどうか忘れないで欲しい」という暗号文、解読すると、「重要人を拘留次第、小豆を持って帰ります」「確認が取れました、相手の男は未成年です」全部のモニターが、行為を終えての、老人が少年を札束を渡す瞬間を捉えていた。「よし、A班突入せよ」未成年と言う事で少年は名前が伏せられる。要人のボディーガードを簡単にねじ伏せ、いともたやすく捕らえる。「作戦終了」と妻に送る男。すぐさま、「娘が彼氏も連れてくるわ」と暗号文で返信し、男を困惑させる。
地下牢に淀む空気には錆と胞子の匂いが入り混じっているというのに、一嗅ぎすると奇妙な甘味を感じて、喉元に唾があふれる。ここに来るといつもこうだ。我が家の内部でありながら、異空間でもあるこの場所。訪れるたびに倦怠感と焦燥感が入り混じった不可思議な興奮を覚える。 私は石の廊下を進み、目的の牢の柵に至った。そこには鎖で繋がれた男が壁に貼り付けられており、私の来訪を感じ取ると、うう、と喘ぎにも似たうめき声をあげて、こちらを仰ぐ。「また来たのか」 男は言う。その言葉から男の生存状況を判断しつつ、私は電灯のスイッチを入れた。改めて男を見る。「一週間ぶりだ」 憔悴していることは間違いない。男には生きるうえで最低限の食料しか与えていない。明かりが灯ると、頬のこけ具合がくっきりと浮かびあがり、男がすでに骨に皮が張り付いた餓鬼のようになっている姿が見て取れた。「何を考えていた?」 私は問う。私は聞きたいのだ。男がここで、一体何を考えて死に近づく己を感じているかを。「中井英夫という人は――」 男は古い作家の名前を不意に口走った。奇書中の奇書と呼ばれる、虚無への供物、という本を書いた作家だ。「中井英夫という人は、幼い頃、自分が張りぼての世界に閉じ込められており、いつかその裏側を覗きたいと思っていたらしい」「それで?」「相変わらず忙しないな。中井英夫はまたこうも思ったらしい。世の中で最も尊い行為は自分の足の裏をなめることであり、それ以外に価値のある行為など存在しない、とね」「つまりおまえが考えていたのは――」 私の言葉を継いで、男が続ける。「そう、人間性とは何か、ということだ」「それでおまえの答えとは?」「厳密にはそんなものはありはしない。人間のなす行為、ヒューマニズムだろうが、近親相姦だろうが、スカトロだろうが、快楽殺人だろうが、そういったあらゆるものの総体を人間性というよりない」 私は胸元のポケットからタバコを一本抜き取り、火を付ける。一息すって、紫煙を吐く。「つまらない答えだ」「そうだろうな。しかし、俺が俺である以上、そんな答えしか考え付きはしないさ」 男はそういって皮肉めいた笑みを浮かべた。やせ細った顔面の肉がわずかに歪んでいる。「そうだ、こんなことも考えた。人間はなぜクローン技術に嫌悪感を覚えるかということだ」「ほう」「それを説明するには、ドッペルゲンガーの逸話が有効と俺は思った。自分と同じ人間が世界には何人かおり、その人物と出会った瞬間に死が訪れる。この場合の死とは、自己同一性の崩壊に他ならない。クローンもまたドッペルゲンガーと同じだ。そんな技術がもし存在するようになれば、「私」は揺らぎ、ついには瓦解し、霧散する。そこにある嫌悪感は高尚な倫理からくるものではない。それよりもっと根源的な、自分は価値在るものであるではならないという生存本能に近い感覚なのさ」「やはりな」「ふふ、今回もそうか」「ああ、まったく私と同じ見解だ」「世間では清純派だの、モラリストだの言われているおまえが、俺のようなものを作りだし、時に殺し、時に食し、時に問答の相手とする。なぜそんなことをするかはあえて問わないさ。そんなことは手に取るように分る……」「そろそろ殺してほしいか?」 私は尋ね、目前の骸にはもはや返事することかなわぬと知って、牢の鍵を閉めた。かまいはしない。私にはまだまだ代わりがいる。私は多くの私を作ったのだから。
■ R18 ■ ミヤコは先月、初経を迎えたばかりである。そのミヤコをぼくは動画の中に発見した。友達の家に集まって、お酒を飲みながら「おじさん秘蔵」の動画を鑑賞していたときのことだ。 夏休みで、花火大会があって、ぼくたちの誰も彼女がいなかったから夜店で、焼き鳥とかじゃがバターとか買って集合した。そいつの家の二階からは花火が見える。そうやって、クーラーの効いた部屋で窓越しに花火を見ながら、「エニグマ暗号」「ういちょう」「そりゃ、しょちょうって読むんだぜ?」「なんかさ、カレンダーに意味ありげに毎月だいたい似たような日に青い丸をつけてあると、わくわくするよな」「死ねよ」「十歳が賞味期限」「ロリコンはきめぇ」「っていっても、俺たちまだショタだけどな」「きめぇ」 こっそりと買った焼酎は臭くて飲めなくて、ビールは苦い。ジュースみたいなチューハイは何だかプライドが許さない。我慢して飲むワインは頭がくらくらしてくる。赤ワインは血に見える。一口飲んで、先月あったお風呂場の惨事を思いだした。あれは見ちゃいけないものだった。 うちに親戚の家族が泊まっていた。家の建直しをしていて、その間だけのことだ。ミヤコは従姉妹で、昔はいっしょに遊んでいた。久しぶりに会ったミヤコはませた女の子になっていて、澄ましていた。ミヤコは初経を迎えた、お風呂場は淡い色の経血で赤くなっていた。見つけたのはぼくだ。おばさんの表情は忘れられない、母さんの顔も忘れられない。というか、ぼくもぼくで悪くない、と言いたかったけど仕方がない。ミヤコはぼくから距離をとる。ぼくに近づかない、逃げる。話しかけることもできない。 そうしたまま家の建直しが終わって、ミヤコたちは帰っていった。先月のことだ。いまは夏休みで、今日は花火大会で、花火は夜空にあがって、きらきらと大量の蛍が散るみたいに綺麗ではある。 ぶん、と鈍い音がする。部屋にあったパソコンが起動する。花火大会は終わって、家の外をぞろぞろと帰っていく観光客の気配がする。部屋のカーテンを一人が閉めた。いつものことで、手馴れていて、50インチの大画面のディスプレイに表示されるのは「おじさん秘蔵」のフォルダだ。ずらりと並ぶ動画ファイルは圧巻で、「ひひひ」 と誰かが笑う。ごくり、と、誰かが唾をのんで、それを笑う。バカじゃないの、と言いながら、ぼくも誰も固唾を飲みたい。目は画面に釘つけで、マウスのカーソルをじっと見つめる。「お」 と誰かが言う。 カーソルが一つのファイルをダブルクリックした。全画面表示にされたプレイヤーのタイトルは、「スカトロかよwww」「やめろよ」「見たい」「へんたい」「操作権は俺にあるし」「この叔父あって、お前ありかよ。ていうか、誰得だよ」「俺得」 ビニールシートの敷かれた部屋が映る。手ぶれが酷くて、素人が撮ったのかな、と思う。いざ始まりだすと、急に静かになる。何もない部屋で、窓から白い光が入ってきていた。ボイスチェンジされた声が、『ミヤコ』 と呼んだ。一瞬、ぼくは身構えた。同じ名前だろうし、こういう動画で本名ってことはないだろう、と、緊張を解くけれど、実際に画面に出てきた女優はミヤコだった。 服は何も着ていない、一糸纏わない姿で、下に毛も生えていない。異様な熱気が部屋を包んだ。誰も身じろがない、声をあげない。裸に目をうばわれている。西洋人のきつさとは違う、大人の女とは違う。頭の芯のところが痛んでくる。動画の中で、ビニルシートに四つん這いになったミヤコはお尻をカメラに向ける。何もかも露出していて、隠すモザイクすらない。 動画の流れは、浣腸して、愛撫して、何だか色んな液体がミヤコの下半身から垂れる、というものだった。本番はなし。見終わったあと、一人がトイレに行った。「鬼畜だなあ」 と誰かが言う。それに誰も返事をしない。 マウスカーソルは画面をすべっていき、今度は違うファイルをダブルクリックした。今度はアイシャドウのきつい金髪の白人がでてきて、ティバックを股間のところで前後させていた。指をなめて、下半身に持っていく。 おお、と歓声がもれる。ぽっかりと広げられた陰部の暗い穴は、色んなものを吸いこんでいる。 そうやって夜が明けるまで動画みたり、お酒を飲んだり、深夜のお笑い番組みたりして時間が過ぎていった。 昼過ぎまで寝て、みんなでラーメンを食べにいった。そうして解散する。今日も夏休みの一日だ。眠さがじっとりと残っている。昨日連続して見た動画の内容が頭にこびりついている。そわそわする。別れて、それぞれの家に帰ると、トイレにはいった。トイレの中で目を閉じると、色んな光景がうかぶ。ミヤコの姿がちらついて、それが離れない。他にも色々と見たはずなのに、忘れてしまったみたいに。 一度、抜いてみると色んなことがどうでもよくなる。トイレを出て、シャワーを浴びて、自分の部屋のベッドに飛びこむ。母さんの小言が聞こえてくる。まぶたを閉じる。誰があの動画を撮ったんだろう、と、いまになって疑問に思った。
「たっちゃん、赤紙が届いたよ」 と、帰って来るなりの第一声がそれで、僕はやれやれ、とため息をついた。それから、部屋に篭もって、ひとり、こっそりと泣いた。窓は開け放しで、びゅうびゅうと風が吹き込んで、それでも暑い夏の夕暮れのことだった。入道雲がもくもくと大きくて、ふちが朱色に染まっていた。僕のことを「たっちゃん」と呼ぶ少女は、なにもかもを諦めたような眼でにこにこと笑っていた。 ○ 宇宙人と戦争をしているらしい。ちょうど去年の今頃のことだ。政府の中でも一番偉い人が、何百人もの記者の前で、真剣な顔をしながら重々しい口調で言った。「我々は侵略を受けております」多分、テレビの前で吹き出したのは僕だけじゃないはずだ。そして後々の虐殺を見て、自らの甘さに後悔したのも、また。 しばらくして、赤紙と呼ばれる召集令状が世界中の女の子のもとへ届くようになった。宇宙人と戦うための兵器は十四歳から十六歳の少女しか動かすことが出来ないらしい。「思春期の多感な脳髄が必要なのだ」と本で読んだ。アメリカの、頭がよくて人もいい、長い肩書きをもった博士が流布したとある告発本に書いてあった。博士はその後死んだ。自殺、らしい。誰もいない部屋でこめかみを撃ち抜いた、らしい。葬式は行われず、遺体は政府が引き取った、らしい。 少女達は次々と戦いに駆り出され、次々と死んでいった。笑っちゃうくらいにあっけなく、死ぬためだけに死んでいった。宇宙人と戦うための兵器は、宇宙人に勝つことのできる兵器ではなかった。レーザー光線の雨には耐えられなかったから。だから、ただ、戦う。残された人々が、少しでも長生きできるように。一分でも一秒でも、宇宙人の向ける銃口をそらしていく、それが少女の役割だった。 それはもう、あっけなく死んでいくのだ。 そんな戦場に、僕の妹が、行かなければならない。八月十四日、つまり一週間後に、彼女は十四歳の誕生日を迎える。 ○「たっちゃん、キスしよっか」 夕食の途中、ぽつりと漏らした。賞味期限ぎりぎりのレトルトカレーが気道にはいって、思わずむせてしまった。父と母も慌てていた。僕らの狼狽を気にもせず、妹は続けて言った。「もちろん続きもしよね。すっごく変態的なやつがいい。SMとか、スカトロとか、サドとかバタイユとかが描いてるような、すっごくいやらしいやつ」「……あいにくだけど、僕にそんな趣味はないんだ」 やっとのことでそう言った。妹は微笑んだ。あの諦めたような目つきがじっと僕をとらえていた。「初経前の女の子を犯す趣味はあるのに?」 母がお皿を取り落として、陶器の飛び散る派手な音がした。父は無言だった。さっきから僕はふたりの顔色を伺ってばかりだったが、妹のあの目つきは、僕だけを見つめている。 筋肉が硬直して、動けないままでいた。震える唇になにか柔らかいものが触れて、遅れて、それが妹の舌なのだと気づいた。「部屋に行こう?」 媚びるような上目使いで聞いてくる妹に、僕はうなずくことしか出来なかった。 ○ 熱を抱擁していた。嬌声をあげる小柄な熱に、ひたすら腰を叩きつけていた。熱は十分に湿っていて、くちゅぽん、と卑猥な音の響きがした。注挿に力をこめると、背中にまわされた熱が爪をたて、僕の皮膚を破った。「こうして傷をつけるのはね」 熱は、すなわち妹は、ぜいぜいと荒い呼吸をしながら言った。「たっちゃんの処女膜を破ってやりたいからなんだ。だって、わたしだけが破られるのなんて、そんなの不公平じゃない」 爪がより深く食い込み、冷たさにも似た痛みが走った。流れ出る血がわきばらを伝って垂れ、ふとんに赤いしみを作った。「小学校を思い出すね、えへへ」 ふたたび嬌声があがる。僕は腰の速度をはやめた。首筋にキスをした。熱い。とても熱い。あまりに熱いのでなんだか涙がこぼれてしまい、困った。「きみに死んで欲しくない」「大丈夫だよ」 そう言って、妹は笑った。「わたしはたっちゃんのために死ぬんだ。たっちゃんが少しでも生きてくれるなら、それでいいんだ」「きみを失いたくない」「……ねえ、そろそろイキそう?」「うん」「わたしもなんだ」 破裂するような感情と共に、彼女の中へ僕の存在を注ぎこんだ。一週間後、妹は十四歳になる。彼女を犯した僕の罪も、それを受け入れた彼女の罪も、すべてレーザー光線の熱にとけて消える。ふとんにしみた血だまりだけがあとに残る。 一週間後、ピストルを買おう、と思った。こめかみに当てて、ぎりぎりまで引き金をひいて、止めて、それから思いっきり笑おう。そう思った。 妹の汗が腹におちる。その熱さに、僕は最大限の賛美を送った。
わたしが土手を走るようになったのは、二ヶ月まえのことだ。からだを動かすことが嫌いではないからか、飽きっぽい性格の割に長続きしている。おかげで、チャリに10分跨がっていても息があがらなくなった。 さて、ちょうどわたしがランニングを始めたころ、一人のおじいさんに会うようになった。一人、土手のベンチに腰かけて感慨深そうに黄昏どきの川面を眺めて、その右手にいつも小さなパック牛乳を持ったおじいさんだ。 毎日ランニングしているが、そのおじいさんに会うのはきまって日曜日だけで、だからわたしは心のなかで「日曜のおじいさん」と呼ぶようにした。 ひときわ木の繁ったベンチが、日曜のおじいさんの指定席。日曜日にそこを過ぎるとき、小さく口元を動かしてフガフガ言っているのを聞く。そして、行きあたった橋を折り返して戻ってくると、ちょうどかごに洗面器とタオルを入れてチャリを漕ぎ出したおじいさんとすれ違う。そのタイミングがずれたことは、まだ一度もない。何とも不思議なことである。 はたして、日曜のおじいさんは今日もまた指定席に座っていた。わきに止めてある自転車には、いつもながら洗面器とタオル。でも、今日は色が違った。 わたしは足を止めた。急に止まったから、しばらくは呼吸で手一杯になる。そんな奴がすぐ隣にいても、日曜のおじいさんは関心を示さなかった。「あのー、そのミルク、賞味期限切れてますよ!」 これが、呼吸も気持ちも落ち着いてからつくった取っ掛かりである。 パックはまだ未開封だった。日曜のおじいさんは、問題のミルクをしげしげと眺めたのち、ゆっくりわたしのほうに顔を向けた。これが、帰るときにはしゃきしゃきチャリを漕いでゆくのだから不思議だ。「そんなの飲んだらお腹壊しちゃいますよ」「刺激があってよい、よい」 耳はしっかりしているくせに、感覚がおかしい。気づいているなら、なおさらだ。「まだ封を開けてないんだし、早いとこ捨てちゃったほうがいいです」 わたしがミルクを右手から取り上げて近くのごみ箱に捨てようとしたところ、「それはわしのじゃ。返せ」 静かに怒られた。ミルクはまた、日曜のおじいさんの手にわたる。「いや、でも、」「風呂上がりの一杯の尊さが、あんたには解らんのか」「いや、だから…」「ええか? よう聞け。わしはな、手は紫になるまで洗わんと気が済まん質で、清純派なんじゃ。でもな、ミルクは、ミルクだけは蝿がわいても飲むぞ。一滴たりとも無駄にはせん!」「なんか、説教されてる……」 途端、わたしは駆け出した。でも、一言いってやりたくて、はたと立ち止まる。「おまえなんかな、硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ! そんなに腐ったミルクが好きなら好きだけ飲め! 腹壊しても知らないんだから!」 な、なんとか、書けた……。お題は無理にぶちこみました。「清純派」とか使い方不自然でも、無理してでも書くこともときには必要なんだ。 そんなお題は四つ、「清純派」「それはわしのじゃ。返せ」「賞味期限」「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」を選びました。 奇人を登場させるの、楽しかったです。たのしく書けたからまあ、いいっか。 とりあえず…、酷評待ってますm(__)m
(R18)タツキのもとへ影の伝達者によって召集令状なるエニグマ暗号文が届けられたのはある昼下がりのことだった。「また、仕事?」 封筒を開いて暗号文を解読機にかけるタツキにキリトが聞く。「そうだよ」 こともなげに、さらりとタツキが答える。 暗号文そのものは「スカトロ 初経 賞味期限 清純派」とある。 そのまま読めば、その道にはまっているような代物だ。「もっとましな暗号にできなかったのかよ」 タツキがため息交じりにぼやく。「なんだか、卑猥で素敵な暗号だね」 ちらりと暗号文を覗き見したキリトが目を輝かせる。 それにタツキはどきりとする。 しまった、と彼は後悔するがもう遅いかもしれない。「今日の夜のプレイは、これで決まりぃ」 その言葉に、タツキは死刑を宣告されたような気分になって、暗く沈む。「どんなプレイだ」 何かしら恐怖を覚えつつも何かしら期待している自分に嫌悪しつつ、キリトに聞くタツキがいた。「今日のプレイは、浣腸プレイ。そしてタツキを犯すの」 もうそれだけでスイッチが入ってしまって嬉々としているキリト。 しかも最初は嫌々だったのだが、やがてそれに慣れてしまった自分も怖い。 深いため息を漏らし、机にタツキは突っ伏した。
「それはわしのじゃ。返せ」「え、でもこれ賞味期限切れてるわよ」 それが私たちの最初の会話だった。 甚平の上にフードつきパーカーを着、狐の面を被った変な子供と、夜の学校に現在進行形で侵入中の私の。 わし、と自分のことを変な一人称で呼ぶその子供は、この学校の守り神だと名乗った。「守り神がゼリー欲しいの?」「欲しいものは欲しいのじゃ」 ふん、と鼻息を荒くしながら、それでも守り神は私が渡してあげたゼリーをおいしそうに頬張っていた。「して、お前は何故このような時間にここにおるのじゃ?」「何でだと思う?」「質問に質問で返すない」「飛び降りるつもりだったの。屋上から」「何じゃと?」「だってさ、こんな月夜なんだよ?飛び降りるときに月を見て死ねるなんて最高じゃない」「何故飛び降りたいと思ったのじゃ?」「何でって……当たり前じゃない。月が見えたからよ」「お前は生粋の変人じゃのう」 ため息をつきながら守り神は私のほうを振り返った。「お前は良い。死ぬのに理由などいらんからな。わしには羨ましくてならん」「誰が死ぬって言った?」「誰が……って、お前がじゃ」「でも私、屋上から飛び降りたぐらいでは死なないわよ?」「ふぬん?」「だって私、飛び降りる地点にたくさんマット敷いてきたもの」「なーんじゃ」 守り神は落胆したようにため息をついた。そして私の手に空になったゼリーの容器を手渡してくる。「だめよ。自分で食べたのだから自分で片付けなさい」「持ち込んできたのはお前ではないか」「いいえ、それはもともと学校の宿直室にあったもの」「……ぐぬぅ」 少し拗ねたように、守り神はゼリーの器を自分の服パーカーのポケットに入れた。「じゃあ、私は屋上に行くから。守り神も来る?」「無論じゃい。あとわしのことを守り神と呼ぶな。良いか、わしの名はヒサモリじゃ」「わかった。じゃあヒサモリ、行こっか」「うむ」 私は守り神――ヒサモリと並んで歩き出した。「硫酸頭からかぶって皮膚がただれて苦痛の中、悲痛な叫びをあげて死んじゃえっ! もう私知らないっ!」「ま……待ってくれユミ!これは違うんだ!」 そんな声が聞こえたのは二人並んでゆっくりと、屋上の一歩手前である三階まで来た時だった。「またどこかのかっぷるが密会をした挙句破綻しよるのう」 ヒサモリはその声とその声に混じる破壊音、何かが焼け爛れる音やそれの後の断末魔の悲鳴を耳にしても平然と言い放った。慣れているのだろうか。「そうね。大抵のカップルは自業自得的に関係を破綻させるわ」 勿論私も気にしない。そんなことをいちいち気にしていたら限りある人生きりがない。「理科室のほうね」「そうじゃな」「私たちはどうしてもその前を通らないといけないのかしら」「それ以外に道はないぞい」「……そうね」 ヒサモリが言った通り、理科室の前を通らないと屋上には行けない。「まあいいでしょう。焼け爛れた死体一つ見るぐらい、どうってことはないわ」「その通りじゃ」 私たちはのんびりと歩いていくことにした。「あのねヒサモリ」「何じゃ?」「廊下に死体が二つ転がっている場合、どうすればいいのかしら」「そのまま踏み越えるがよかろ」「実に的確且つ倫理観から限りなく遠い答えね」「神にヒトと同じ倫理観を期待するない」「その通りね」 ヒサモリに言われたとおり、私は死体を踏み越えた。 しかし片方の白衣を着た先生らしき死体はともかく、片方はまだ初経も迎えていないような幼女だ。「変態の変死体ね」「言うてやるない、そいつも最後は愛する者と一緒に逝けて幸せかろ」「それもそうね。バイバイ、変死態さん」「お前、漢字が交じっておるぞ」「いいじゃない別に。的確でしょ?」「まあそうじゃが」 私はついに屋上にたどり着いた。そして柵を乗り越える。「じゃあね、ヒサモリ」「ああ、さよならじゃ」 ヒュウ 私の身体は、月の光を浴びて落下していった。