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RSSフィード [62] 即興三語小説 ―とりあえずしばらく難易度低めでいきましょうか―
   
日時: 2012/02/19 23:20
名前: RYO ID:sBkrKukM

しばらく難易度低めにして、参加者を動向を把握してみよう。

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「ふきのとう」「革靴」「内緒」
▲縛り: なし
▲任意お題:なし

▲投稿締切:2/26(日)21:59まで
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週土曜日の22時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

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 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ!
 それでは今週も、楽しい執筆ライフを!

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名もなき影のうた ( No.4 )
   
日時: 2012/02/26 18:01
名前: HAL ID:YSEvtE6s
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

 なにか、ふきのとうの話がなかったっけ。教科書に……。

 ほとんどうわごとのように、哲哉がいった。
「あったね、いわれてみれば。低学年のころじゃなかったかな」
 わたしがそういうと、哲哉はいっとき黙り込んだ。それから、床にあおむけで転がったまま、悲しげにつぶやいた。「どんな話だったか、中身が思い出せないんだ」
 いっとき記憶の中をたぐろうとして、わたしは部屋の天井を見つめた。手抜き工事の産物か、天井板がひずんで、細く隙間が見えている。小さな子がこの部屋で寝たら、さぞ怖い空想に悩まされることだろう。
 たっぷり一分は考えんだと思うけれど、教科書にあった物語のかけらさえ、よみがえってはこなかった。
「さあ。教科書なんて、とっくにまとめて捨ててしまったもの。テツのお母さんなら、どこかにしまってるんじゃない? 几帳面そうだし」
 わたしがそういうのを、哲哉はまるで聞いていないようだった。酔っているのだ。寂しげに、ただただ繰り返した。どうしても思い出せないんだ。
 その声の語尾が、部屋のどこか湿った空気に溶けて、消えそこなって漂っているのを見つめて、わたしはため息をついた。
「一度、帰ったら?」
 そうだね、といって、哲哉はまた黙り込んだ。


 かえりたい。一度だけ、哲哉がいったことがある。
 帰る? あの町へ? わたしは口に出してはなにも否定しなかったけれど、沈黙は言葉よりもなお雄弁だっただろう。
 小さな漁港の町だった。日本海側の海は暗く、波が高くて、いつでも寒々した暗い色をしていた。町のどこにいても、生臭いにおいばかりがしていた。魚か、そうでなければ、昼から酒をくらっている酔っ払いの、息のにおいが。
 わたしは何があっても帰るつもりはない。親が死んだら、ここでひとり祝杯をあげるだろう、この都会のせまく薄暗いアパートの部屋で。
 故郷なんて美しい言葉とともに語りたくはない、いい思い出なんて、ひとつもない場所だ。二度と足を踏み入れたくもなかった。
 スローライフ、なんていう優雅な言葉で語れるような田舎は、いったいこの日本のどこかに、実在しているものなのだろうか?
 ひとはよく都会の孤独をうたうけれど、田舎には孤独がないとでも思っているのだろうか? たしかに小さな集落では、誰もが互いの何もかもをよく知っている。内緒ではない内緒話はあふれる水のようにまんべんなく浸透し、世話を焼くふりをして詮索の目を向ける人々は異分子をめざとく見咎める。悪いうわさが立てば、けしてそれは忘れられず、十年経とうが、五十年経とうが、繰り返し繰り返し、飽かず語られつづける。共同体の輪を乱すものは嫌われ、穢れたものは見て見ぬ振りをされる。たとえば実の父親とのあいだに子を産んだ、わたしの母親のように。


 一緒に、ここを出よう。この町にいたら、佑子はだめになる。
 いつか哲哉がそういった、あのときまで、わたしには町を出るという発想はまるでなかった。なぜだろう。わたしこそ真っ先に、それを考えてもいいはずだったのに。
 哲哉は間違っていた、と思う。わたしはだめになろうとしていたんじゃなくて、とっくにだめだったのだ。
 わかっているのに、二人で見ないふりをした。
 町を出て、都会にしがみつくように暮らしはじめた。借りたアパートは古く、狭く、早足の雑踏にはいつも気分が悪くなったけれど、何があっても二度とあの場所に戻るよりはいい。
 知らない人ばかりの中で、不安がなかったといったら嘘になるかもしれない。知らない町、ちっともおいしくない高いばかりの食べ物、嘘くさいぴかぴかした建物と服と革靴、よそよそしい言葉づかい。まるでものを知らなくて、人に笑われても、わたしはそれを些細なこととして受け流すことができず、くだらないことで羞恥心に焼かれることが日に何度もあった。だけど、自由だった。
 その自由を孤独と呼ぶ都会の人間に、どうしてもなじめなくても、そんなことはかまわなかった。わたしは名前のない一人になりたかった。
 そこにいてもどこにもいないのと同じ、いてもいなくても変わらない、消えても数日後には忘れられる影になりたかった。


 だけど哲哉は違う。
 わたしを助け出そうなんて思うくらいだ。他人との距離が狭く、底抜けに人のいい哲哉には、都会の喧騒はいっそ、毒だった。
 わたしはそれを知っていた。はじめから、知っていたように思う。だけど見ないふりをした。そのほうが自分に都合がよかったからだ。
 一度帰ったら、きっと哲哉は、もうこっちには戻ってこない。予感があった。哲哉の両親も、お兄さんも、正直で面倒見のいいひとたちだ。周りから頼りにされて、愛されていた。
 哲哉のお兄さんは、足を悪くして、漁にはもう出なくなった。酒の量が増えたらしいと、田舎からの電話を切った哲哉がいった。
 心配なら、一度、戻ったら。わたしはそういったけれど、自分のその言葉が嘘だということに、とっくに気付いていた。
 うん、そうだねと、哲哉はいった。それもまた、わかりやすい嘘だった。


 わたしは名もなき一人になりたい。ひっそりと死んでも誰からも顧みられず、三日後には忘れられて名前ものぼらないものになりたい。だからわたしに哲哉は必要ない。上京した初めのころはともかく、いまなら一人で働いて、自分の食べていくだけならなんとかできる。いまの会社の給料はあまりよくはないけれど、余分なものを欲しがらず、家族を持とうとさえ思わなければ、あんがい少ないお金で暮らしてゆけるものだ。
 わたしに哲哉は、いなくていい。いないほうがいい。そのほうがよほど気楽だ、こうやって鬱々と顔を突き合わせているくらいなら。お互いに気遣いあうふりをして、それでかえって傷ついたりしているくらいなら。ひとりきりのほうが、ずっといい。
 嘘ばっかりだ。


 哲哉は眠ってしまった。鼾の音を数えながら、電気を消す。今日は月明かりだけでも、部屋の中がよく見える。暗くよどんだ雨の日よりも、よく晴れて月の明るい晩のほうが寂しくなるのはなぜだろう。
 わたしはとっくにだめだったんだよ。胸のうちではもう何百も、何千も繰り返してきたそのつぶやきを、哲哉に向かっていったことはない。悲しい顔をさせるだけだから。だけど哲哉も、ほんとうはわかっている。わかっていて、気付かないふりをしている。
 哲哉は帰ったほうがいい。
 だってあなたがいると、わたしはいつも、あの場所のことを忘れられない。生まれた土地で自分がどんなふうに見られていたか、人の噂にどんな形でのぼり、どう避けられてきたか、口に出さなくても、意識の表層に上らせなくても、ずっとそのことから逃げられない。
 わたしはひとりがいい。もしも孤独に耐えられなくなって、また誰かと一緒に過ごすことがあるとしたら、その相手は、わたしのことを知らない人がいい。わたしの心の奥のふかいところなんて、何一つ知ろうともしない人のほうがいい。
 いつも嘘ばかりだけど、本当はちゃんとわかっている。今度はわたしがいう番だ。
 テツ、帰りなよ。一緒にいたら、わたしたちは、だめになる。
 たったその一言を、わたしはいつも呑みこんで、押し黙ってしまう。
 けれどいつまでも、そうしてはいられない。わかっている。だからいまは、じっと勇気をたくわえている。この古くて狭い部屋のなかで、月明かりを浴びながら。


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 久しぶりの定例三語参加です。しかし、えらいこと暗い話になってしまいました……。
 3000字ちょっと、2時間弱でした。

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