Re: 即興三語小説 ―そろそろコメント考えるのが面倒になってきた― ( No.3 ) |
- 日時: 2014/01/19 21:38
- 名前: マルメガネ ID:pl3LEucw
冬のある日
冬とは思えない小春日和の暖かさに誘われて、とある港町へと出かけた。 そこには赤レンガの建物群が立ち並んでいて、ちょっとした風情がある。 散歩のための散歩ではないが、ぶらぶら歩いているとどこからともなく糖蜜の甘い香りが仄かに漂ってきた。 赤レンガの壁に挟まれた細い路地を進んでいくと、巨大なタンクが見えてきた。 糖蜜の香りに誘われてそのタンクから伸びるパイプをたどってみると近くのレンガ造りの立派な建物に行き当たった。 立派なレンガ造りの建物はかなり大きく、さらに興味をそそられて正面に回ると、立派な鉄の巨大な門扉に『株式会社 ラム酒蒸留所』と看板が掲げられていた。 ああ、こんなところにラム酒を製造している醸造所があったのか、とちょっとした発見だった。 甘い香りのする糖蜜よりどんな製法でラム酒ができるのか。それについて私は全く知らない。ただ、どこかでその原料となる糖蜜を貯蔵した九百五十万リットルの巨大なタンクが破裂して、貯蔵されていた大量の糖蜜が溢れ、想像を絶する津波になって町に押し寄せて町に大被害を与え、夏になると糖蜜まみれから復興した町に糖蜜の香りが漂うという伝説の事故が過去にあったということだけは伝え聞いている。 立派な蒸留所の門の前にいると、重い音を立てて門扉が開いたので慌ててその場を離れると、中から数台の大型トラックが走り去っていった。 完成したラム酒を運ぶのだろう。 私はそのトラックを見送った後、またぶらぶらと赤レンガの町を歩き、老舗と思われる酒屋に立ち寄ってみた。 なんとなくラム酒が飲みたくなってきたのである。 巷ではくさやバーガーが大ブレイクしているようなので、もしかするとそれに合うかもしれなかった。 ラム酒ばかりが並んだ棚を物色する。 どれもいいものばかりでかなり迷った。 アルコール濃度もほぼ消毒エタノールに近いものもあれば、果実酒を作るためのホワイトリカー程度の濃度までいろいろだ。 ようやく手ごろな物を見つけ出して買い求めて店を出ると、よかった天気は一変して冷たい風が吹き始めていた。 私はそのラム酒の瓶を大事に持ち、寒い風に震えながら暖かい我が家に急いだのだった。
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