Re: 即興三語小説 ―桜散る季節― ( No.2 ) |
- 日時: 2015/04/06 00:40
- 名前: 星野日 ID:0/aUwkuI
今夜、桜に行かないかとロボットの輝号は言った。夜桜? お墨は首を傾げる。 薄白い桜が照らされて淡く黄色づいてきっと美しい夜桜だぞ。確かに良さそう、でもお父さんが許してくれるかしら。なに、熊吉は昼間の花見で他所から吟醸をくすねてきた。きっと今夜はそれを飲んでぐっすりと寝てしまうだろう。でもおばあさまも今夜は外に出てはいけないと。なに、昔の人間は夜を恐ろしがるものなのだ。 その夜は春にしては冷たい夜で、お墨は待ち合わせの場所で輝号を見つけると腕の中に飛び込んだ。 二人は去年の暮に籍を入れたが、二人だけの新生活がはじまるわけではなく、妻のお墨は祖母、父と共に住み、夫の輝号は一人別居を与えられているというようだった。父と輝号が不仲のためだ。 満月が照らす桜を、互いの体温で暖を取りながら見上げる。ふと雲ひとつないのに、月が欠けはじめた。驚いて言葉を失うお墨に安心しろと輝号が笑いかける。あれは月蝕というただの自然現象だ、と。ほらいま流れ星を見たか。ふたつ一緒に見えるのは珍しい。駆け落ちとも、空の泪とも言うのだ。 そんな話をしながら、夜空とも、桜ともいえず、二人は石の上に腰を下ろし、見上げるのだ。 お前の父は、と輝号が呟いた。
お前の父は昔から、子供には見せられないとよく言って何もかもをお前から遠ざけた。そうやって見せるもの見せないもの、教えるもの、知らせないものを選んで育ったのがお前だ。私の父もそういう人であった。私はその境遇を特に厭わず、明日も明後日も一年後も、死ぬまで今日の続きだとでもいうように同じ毎日を送っていた。父が死んで初めて、私はは私が信じるべきものを知らず、私が望むべきものを知らず、私がすべきことを知らなかったのだと気がついた。
そんな話をしているうちに、お墨には悪気がなかったのだがあくびがでた。 年寄りの話を聞かせて悪かったなと輝号は苦笑いをする。そんなことはない、輝号の話はいつも面白いとお墨は言った。 互いに離れがたくてしばらく無言で抱き合ったのだが、お墨がうとうととし始めるともう帰ろうということになった。 ロボットは永遠に生きることができるそうだ。 人間と恋をする、最高の幸せを得るという。その恋人が死ぬと最大の不幸を味わい、死ぬのだという。
**** やはり落ちがない
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