Re: 即興三語小説 ―突然、気持ち悪くなって血の気が引いてました― ( No.1 ) |
- 日時: 2012/09/10 02:10
- 名前: 水樹 ID:sJDseHTI
お題は、「隕鉄」「芒野」「賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません」です。
プリンプリンプリン
食後に一個、お風呂上がりの一個のプリンを彼女は平らげる。一日四個が彼女の日課でもあった。 美味しい物を頬張る彼女を見ているだけで、僕も幸せを分かち合っている気がしていた。 「プリン、プリン、何て素敵な色形。プリン、プリン、何て素敵な響きの名前。プリン、プリン、あなた無しでは生きられない私。甘い甘い、私の私の、プリンS様」 彼女がプリンに捧げた詩は、二百は下らないだろう。 彼女の夢の一つは既に叶っている。プリン三百個のプリン風呂、彼女の誕生日に叶えた僕。 彼女の要望で、せっかくだからと一緒にプリン風呂に浸かり、ドロンドロンに愛し合った僕達。それはもう、凄かったプリンまみれの僕と彼女。 風呂場はプリンの匂いが一週間は消えず、燃えないゴミの日まで、プリンな匂いが部屋中に充満して、プリン酔いした僕と彼女。 そんなプリンな日々が懐かしい。酷暑な夏も終わり、芒野が風にそよぐ秋にプリンは、いや、彼女は僕の前から忽然と姿を消した。 テーブルの上の書き置きには、 「世界中のプリンを喰っちゃる。喰い尽くしちゃる。プリンが私を待っている」 追うにも手掛かりが何も無い僕は、冷蔵庫の買い置きのプリンを見て孤独を痛感するだけだった。減らないプリンがこれほど寂しく心に響くなんて思わなかった。世界のどこに居るのだろうとメールを送る。すると、すぐに隕鉄プリンゲットと写メとメールが送られてきた。真っ黒なプリンに感想はマズッ! だった。電話もメールも普通に返してくれる。聞くと隣町にプリン博覧会があり、そこに彼女は通っていた。だけだった。プリン愛好会なる会の人達とホテルに泊っているとも言っていた。メールと電話だけの二日間、二日彼女が居ないだけでも僕の寂しさは限界になり、 「すぐにでも戻って来て欲しい」と本心のメールを送ったが、返事はそれっきり無かった。 プリンに取り憑かれた彼女は僕の事など忘れているのだろう。仕事で疲れて帰宅した僕を癒してくれる彼女が狂おしくも愛おしい。秋の肌寒さが僕を一層切なくさせる。夜道を歩く僕の心を、澄んだ夜空が楽しい想いでを吸いあげる感覚に陥ると、何故か涙が溢れ、彼女と別れるとまで追いつめられる。諦めきれないまま、家に帰ると。部屋に明かりが着いてあった。部屋を覗くと、 「・・・グゥグゥ、プリン、プリン、賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません。プリン、プリン、あなたは世界で一番美味しいですが。プリン、プリン、私の愛する人には敵いませんよ・・・ グゥグゥ・・・」 僕はプリンを、いや、彼女をベットに運び毛布を掛ける。
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