ホームに戻る > スレッド一覧 > 記事閲覧
RSSフィード [85] 即興三語小説 ―突然、気持ち悪くなって血の気が引いてました―
   
日時: 2012/09/09 23:13
名前: RYO ID:ruwqzGP6

「賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません」
 ということは、きっと賞味期限が過ぎているんだろうな、という事実は目を瞑るしかないのだろう。とりあえず賞味期限が過ぎている、もとい消費期限がすぎていないことを祈るしかないこの現実はどうしようもないのかもしれないが。
「たーんと食べてね」
 にっこりと笑う彼女。ここで食べないとこの関係は終わってしまうのか?
 改めて目の前の鍋を見る。
「黒いな」
「黒わよ」
 彼女の微笑みは変わらない。
 これは罰なのか? 浮気はしたことはない。が、疑われてしまったのは、そう俺の過ちだ。嫉妬深い彼女であったのは分かっていたはずなのに。
 俺は震える手でレンゲを手に取る。
「取ってあげようか?」
 彼女の微笑が悪魔の微笑みに見える。俺はいつ悪魔と契約したのか?
「い、いや、大丈夫だ」
「そう。面白くないなー」
 面白くない? 安全圏から一体なにを言っている?
 手が震えて、スープはほとんどすくえない。それでも口元にもってくる。
「なんとも言えない香りだな」
 吐き気が喉を襲う。
「それって褒めてる? それより早くたべてよ」
 彼女の微笑みは変わらない。
「まぁ、まてよ」
 よくよくレンゲを見ると油は緑色をしている。
「死なないよな?」
 そう吐き気と共に出かけた言葉を飲み込む。手の震えでスープはほとんどなくなった。これくらいなら--
「あ、もうほとんどないじゃない。まったく」
 彼女はそう言って、レンゲをすくってみせる。
「はい、あーん。美味しくて死なないでね」
 彼女はやっぱりにっこり笑って、俺にレンゲを差し出す。こうなってしまえば、もうできることは限られている。
「分かった、分かった」
 俺は震えるあごを何とか開ける。開いた一瞬の隙を彼女は見逃さない。瞬時に、レンゲを俺の口に突っ込ませる。一瞬息が出来なかった。隕鉄で後頭部を殴られたような衝撃が走る。一気に意識が遠くに飛ばされて、芒野が目の前に広がる。
「ばあちゃん!」
 去年逝ったばあちゃんが、芒野の真ん中で手を振っていた。
「あんたはまだこっちに来るんじゃないよ」
 そう言ったかはわからなかったけど、そう言われた気がした。と、同時に意識が引き戻されていく。
「ばあちゃん?」
 そうつぶやいたときには、目の前に彼女がいた。
「だれがばあちゃんだ!」
 彼女の右ストレートが脳天を突き抜けていく。椅子ごと倒されて、目の前には部室の天井が広がる。
「ま、その様子だと無事、成功したみたいね。ねぇ、これ全部食べてみて、ちょっと体験レポート書いてよ」
 彼女はやっぱりにっこり笑う。
 ここは、黒魔術研究会の部室。目の前の彼女は俺の彼女、もとい部長だ。
「とりあえず、それが食えるものじゃないと、帰って来れ--」
 彼女の右フックでもう一度ばあちゃんには会えたことは、言わなかった。

時間的は25分くらい。書くのやめようかと思ってた。体調が悪くて。

--------------------------------------------------------------------------------


●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「隕鉄」「芒野」「賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません」
▲縛り: なし
▲任意お題:なし

▲投稿締切:9/16(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

--------------------------------------------------------------------------------

○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

--------------------------------------------------------------------------------
 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ!
 それでは今週も、楽しい執筆ライフを!

メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

Re: 即興三語小説 ―突然、気持ち悪くなって血の気が引いてました― ( No.1 )
   
日時: 2012/09/10 02:10
名前: 水樹 ID:sJDseHTI

 お題は、「隕鉄」「芒野」「賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません」です。

プリンプリンプリン


 食後に一個、お風呂上がりの一個のプリンを彼女は平らげる。一日四個が彼女の日課でもあった。
 美味しい物を頬張る彼女を見ているだけで、僕も幸せを分かち合っている気がしていた。
「プリン、プリン、何て素敵な色形。プリン、プリン、何て素敵な響きの名前。プリン、プリン、あなた無しでは生きられない私。甘い甘い、私の私の、プリンS様」
 彼女がプリンに捧げた詩は、二百は下らないだろう。
 彼女の夢の一つは既に叶っている。プリン三百個のプリン風呂、彼女の誕生日に叶えた僕。
 彼女の要望で、せっかくだからと一緒にプリン風呂に浸かり、ドロンドロンに愛し合った僕達。それはもう、凄かったプリンまみれの僕と彼女。
 風呂場はプリンの匂いが一週間は消えず、燃えないゴミの日まで、プリンな匂いが部屋中に充満して、プリン酔いした僕と彼女。
 そんなプリンな日々が懐かしい。酷暑な夏も終わり、芒野が風にそよぐ秋にプリンは、いや、彼女は僕の前から忽然と姿を消した。
 テーブルの上の書き置きには、
「世界中のプリンを喰っちゃる。喰い尽くしちゃる。プリンが私を待っている」
 追うにも手掛かりが何も無い僕は、冷蔵庫の買い置きのプリンを見て孤独を痛感するだけだった。減らないプリンがこれほど寂しく心に響くなんて思わなかった。世界のどこに居るのだろうとメールを送る。すると、すぐに隕鉄プリンゲットと写メとメールが送られてきた。真っ黒なプリンに感想はマズッ! だった。電話もメールも普通に返してくれる。聞くと隣町にプリン博覧会があり、そこに彼女は通っていた。だけだった。プリン愛好会なる会の人達とホテルに泊っているとも言っていた。メールと電話だけの二日間、二日彼女が居ないだけでも僕の寂しさは限界になり、
「すぐにでも戻って来て欲しい」と本心のメールを送ったが、返事はそれっきり無かった。
 プリンに取り憑かれた彼女は僕の事など忘れているのだろう。仕事で疲れて帰宅した僕を癒してくれる彼女が狂おしくも愛おしい。秋の肌寒さが僕を一層切なくさせる。夜道を歩く僕の心を、澄んだ夜空が楽しい想いでを吸いあげる感覚に陥ると、何故か涙が溢れ、彼女と別れるとまで追いつめられる。諦めきれないまま、家に帰ると。部屋に明かりが着いてあった。部屋を覗くと、
「・・・グゥグゥ、プリン、プリン、賞味期限は美味しく食べられる期限だから、きっと食べても死にません。プリン、プリン、あなたは世界で一番美味しいですが。プリン、プリン、私の愛する人には敵いませんよ・・・ グゥグゥ・・・」
 僕はプリンを、いや、彼女をベットに運び毛布を掛ける。



メンテ

(指定範囲表示中) もどる スレッド一覧 お気に入り 新規スレッド作成

題名 スレッドをトップへソート
名前
E-Mail 入力すると メールを送信する からメールを受け取れます(アドレス非表示)
URL
パスワード (記事メンテ時に使用)
投稿キー (投稿時 投稿キー を入力してください)
コメント

   クッキー保存