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|  Re: 即興三語小説 ―夏の終わりに、ちょっと切なくなってます― ( No.1 ) |  | 日時: 2012/09/06 13:25名前: 桐原草 ID:vfaYOVi6「オカメインコになりたい」隣の席で彼がぼそっと呟いた。聞かせるつもりではなかったのだろう、思わず口から出てしまったという響きだった。
 
 彼が何年も片思いを続けているというのは大学の中で公然の秘密だった。相手は、中学校からの幼なじみと卒業したら結婚するという噂のある、学祭で準ミスになった彼女だ。
 隣の彼のことは当然その二人も知っているらしく、先日遠回しに断られたらしいが、それでも思いは止められないようだ。
 
 「オカメインコになんかなったらコンサートにも行けないわよ」
 彼が大好きなバンドのチケットを入手したばかりだということを知っている私は、呆れた口調に聞こえるように気遣いながら言ってみる。むろん正面の黒板を見つめたまま。隣りの席をうかがったりはしない。
 「それに先にじいさんになって死んじゃうでしょ」
 こちらは本当に小さな声で付け足す。
 彼はクスッと笑いながら、視線だけこちらに向けた。足を組んで、肘を突いて、シャーペンを指でもてあそんで、およそまじめに授業を受けていると思えない態度だ。
 「それなら不老不死のインコになればいい」
 「彼女は二羽も飼わないと思うわよ。チャッピィをかわいがっているみたいだもの」
 「だめか、いいアイデアだと思ったんだけどな」
 彼は、どうってことなさそうに答える。
 「あーあ、何か面白いことないかな」
 
 授業中のたわいない会話にすぎない。一時間もすれば忘れてしまうような。
 彼は知らない。オカメインコになりたいという言葉に締め付けられるような思いをしている私がいることを。
 そして彼は知らない。それだけの会話でも交わすことが出来て嬉しがっている私がいることを。
 
 
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 はじめまして、桐原草と申します。挑戦してみました。よろしくお願いします。
 切なくなっています、とあったので、切ない系で……
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