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RSSフィード [84] 即興三語小説 ―夏の終わりに、ちょっと切なくなってます―
   
日時: 2012/09/02 22:28
名前: RYO ID:k82d7/.s

 長い髪をかきあげながら智子が、私に耳打ちする。
「隣の不老不死のじいさんはオカメインコを飼っていたのよ」
 それは驚きの事実だ。智子はごくりとアイスコーヒーを飲む。ここは学校帰りに寄った行きつけの喫茶店。店内の人はまばら。注文したショートケーキは、もう異に収めた。
「いい、オカメインコよ。オカメインコ」
 いや、そこは強調するところじゃない。智子は見た目は綺麗だけど、思考はどこかおかしいけど、しゃべらなければ男子からは持てた。多分。この前、「あいつが私の作ったカレーを全部食べなかったから、振った」と言っていた。まぁ、カレーを全部食べても振っていたと思うし、そのカレーはきっと美味しかったんだろうけど、尋常じゃない量があったんだろうな。断じて智子のカレーが不味いということはない……はずだ。きっと「私の作ったカレーを、私の帰った朝に温めたら、きっととてもさびしい気持ちになる」とか思っていたに違いない。
「まったく、オカメインコはなんて残酷なんでしょう?」
「残酷?」
 思わず、聞き返していた。
「だって、そうでしょうよ」
 その瞬間に、ああ、帰り損ねたことに気が付く。しまった。智子への妄想が広がりすぎて防御ができていなかった。
「だって、じいさんは不老不死なのよ。じいさんなのに」
 じいさんであることはどうでもいいのではないか?
「じいさんで不老不死であるのに、唯一の友だちのオカメインコは、先に逝っちゃうの。なんて残酷なんでしょう?」
 智子は涙を流して力説する。
 とりあえず、不老不死に突っ込むべきか、いや、じいさんはどこの誰なのかを聞くべきか……ああ、そうか、何か用事を思い出すべきなんだろうけど、きっとそれはなんとなくしたくないのは、やっぱり私は智子が好きなのだろうと、こんな話題で気が付くなんて、それはそれでなんとも言えない気分で、「じいさん、寂しいよね」と泣く智子をどう慰めるといいのか考え始めた辺りで、多分今日家に帰れるのは夜の九時は回るんだろうな。私はにっこりと笑って、
「残酷なのは現実よ。誰も悪くないわ」
 そう言葉をつむいだ。
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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲お題:「不老不死」「じいさん」「オカメインコ」
▲縛り: なし
▲任意お題:なし

▲投稿締切:9/9(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

--------------------------------------------------------------------------------
 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ!
 それでは今週も、楽しい執筆ライフを!

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Re: 即興三語小説 ―夏の終わりに、ちょっと切なくなってます― ( No.1 )
   
日時: 2012/09/06 13:25
名前: 桐原草 ID:vfaYOVi6

「オカメインコになりたい」
 隣の席で彼がぼそっと呟いた。聞かせるつもりではなかったのだろう、思わず口から出てしまったという響きだった。

 彼が何年も片思いを続けているというのは大学の中で公然の秘密だった。相手は、中学校からの幼なじみと卒業したら結婚するという噂のある、学祭で準ミスになった彼女だ。
 隣の彼のことは当然その二人も知っているらしく、先日遠回しに断られたらしいが、それでも思いは止められないようだ。

「オカメインコになんかなったらコンサートにも行けないわよ」
 彼が大好きなバンドのチケットを入手したばかりだということを知っている私は、呆れた口調に聞こえるように気遣いながら言ってみる。むろん正面の黒板を見つめたまま。隣りの席をうかがったりはしない。
「それに先にじいさんになって死んじゃうでしょ」
 こちらは本当に小さな声で付け足す。
 彼はクスッと笑いながら、視線だけこちらに向けた。足を組んで、肘を突いて、シャーペンを指でもてあそんで、およそまじめに授業を受けていると思えない態度だ。
「それなら不老不死のインコになればいい」
「彼女は二羽も飼わないと思うわよ。チャッピィをかわいがっているみたいだもの」
「だめか、いいアイデアだと思ったんだけどな」
 彼は、どうってことなさそうに答える。
「あーあ、何か面白いことないかな」

 授業中のたわいない会話にすぎない。一時間もすれば忘れてしまうような。
 彼は知らない。オカメインコになりたいという言葉に締め付けられるような思いをしている私がいることを。
 そして彼は知らない。それだけの会話でも交わすことが出来て嬉しがっている私がいることを。


***
はじめまして、桐原草と申します。挑戦してみました。よろしくお願いします。
切なくなっています、とあったので、切ない系で……

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