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RSSフィード [36] 金田家小説!
   
日時: 2011/09/02 22:04
名前: 片桐秀和 ID:BO2fx.UY

説明しよう。金田家とは、チャットで適当に設定された架空一家である、
これから12時までに、六人家族の誰かを主人公とした小説を書き上げるのである。
設定の抜け落ちた部分は各人が補完するのである。
設定としてどうしても使えないものは、取捨選択しても問題ないのである。
唯一の縛りは、六人(謎のペットを含む)が、どういう形でもいいので作品内に登場すること、である。
以上だ。健闘を祈るのである、


金田家家族構成

祖父 熔(とける)
父 冷(ひえる) 58歳
母 鎮(しずめ)
息子 蹴     11歳
娘  舞      17歳
ペット オリザノール

設定

成金一家。
東京世田谷区の一軒家に住んでいる。
金田家は鉄工所を営んでいる
祖父の熔は本気で錬金術をやろうとしたことがある
祖父の熔は隻腕(片腕だけ)。
祖父はタバコ好き。(エコーを吸う)
父親はまるいものに目が無い。
息子の蹴は金工作家を目指している
息子はスパイクの針フェチ
舞ちゃんはじつはもらわれっ子で血がつながっていない
オリザノール → 関西人でマイナス思考でストレスが極限に達すると首がもげる
しずめさんはお金持ちの家の生まれだがひえる父さんと駆け落ちして家を飛び出した

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まるくみちるもの ( No.6 )
   
日時: 2011/09/03 00:12
名前: ラトリー ID:xxwwXNWA

 つくづく、わが家はお義父さんを中心にして回っているのだと思う。
「いいか、お前ら。周りが誰も言わないからあえて言うぞ。カネは大事なんだ。貴重なんだ。重要なんだ。世の中をうまい方向へ転がす油なんだ。持つのは多ければ多いほどいい。たくさん抱えて、同時にたくさん流す。そこらじゅうカネだらけになる。カネでモノを買い、人は幸せになる。これでみんな住みやすくなるんだよ。よく憶えとけ。俺の言うことに間違いはないんだ。特にカネを語らせたらな」
 夕食の席でお酒が入ると、いつもこんな調子で熱を帯び始める。いったい何度こんな場面に遭遇したことか、とてもじゃないが思い出せない。だが、聞くたびにやはりひきつけられるのだ。それも話の内容ではなく、話しているお義父さんの姿に。
 なぜだろう。私もそろそろ夫に似てきたのだろうか。
「もちろん、幸せになるためには、カネで買うためのモノも必要だ。カネだけたくさんあってもどうにもならない。だから俺は、まずキンを作ろうとした。商売の原点は物々交換だ。今のカネはただのカナモノ、場合によっては紙くずだ。キンそのものが持つ価値には叶わない。キンをたくさん作ってモノと交換していけば、世の中きっと豊かになる。俺はそう確信したんだ」
「ふうん。それで、ものづくりはほかの人に任せたわけか」
 息子の蹴が冷静なツッコミを入れる。いかに小学生といえど、十一歳ともなれば物事を自分なりにかみ砕いて理解する力はかなりついてくる。まして酒が出た日は毎晩のように熔じいちゃんのお話を聞かされているのだから、当然のなりゆきか。
「こら、蹴。ねぶり箸は駄目だって言ったでしょ」
「えー、いいじゃん。おいしいんだから」
 蹴をたしなめたのは、母である私ではない。横にいる舞だ。何かと弟の世話を焼きたくなる年頃らしい。私ですら「何だっけ、それ」とたずねたくなる箸のマナーなど出して、姉の威厳というものを作りたがっているようだ。
 弟は弟で、さっきから箸の先っぽを口に入れたままである。お好み焼きに鰹節と青ノリをかけ、ソースとマヨネーズをからめた時についた混合物を味わっているようだ。私の方針で、わが家ではポテトチップスも箸で食べるようにしているのだが、その時も息子は塩のついた箸をきっちりとねぶっている。
「こら、二人とも俺の話を聞かんか。まだ全然終わってないぞ。キンを作ろうとしたのはいいが、実際には作れなかった。錬金術なんぞ現代に通用するはずもない! だが俺は愚か者だった。禁断の秘術に手を出した結果、片腕を失ったのだ……」
「どこかで聞いた話だね、姉貴」
「ちょっと足んないけどね。どうせなら片足も失くしとかないと」
 ブラックなジョークが飛びかう。そういう冗談が通用する程度に、わが家の食卓には自由がある。少なくとも、私が生まれ育った家に比べたら、ずっとたくさんの自由が。
「両足あって悪かったな! お前たちの読んでる漫画は絵がキレイすぎていかん。男ならもっと勢いを求めたらどうなんだ。時代の荒波にもまれながら、たった一人で立ち向かうのが男ってもんだろうが」
「あのーわたし女なんですけどー」
「違うな、舞こそ男だ。むしろ蹴のほうに男が足らん。男を磨け、男はいいぞ」
 耳の中で男がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。手先が器用で、靴の裏のスパイクに生えた針みたいに細かいものが気になる蹴は、確かにどちらかといえば女性的かもしれない。芸術家肌なのだ。「男らしさ」が見たくて蹴と名づけ、サッカーまでやらせたのにご覧の結果。お義父さんの欲しがっているものは、案外こちらの舞にあるのかもしれない。
 初めて舞が家に来た時は、泣き虫でいつも目をこすってばかりいた。それがお義父さんにすっかり鍛えられて、今では鉄のような落ち着きを宿している。
「男に生まれなくてよかったなー」
「男はいいから、早く話の続きを聞かせてあげてよ。お父さんとお母さんに」
「あいわかった。蹴よ、それでこそ男だ。でだな、俺は悟ったのだ。間違っていたのだと。必要なのはキンじゃなかった。キンに属するもの、すなわち金属こそが俺の求めるものだったのだ。モノであり、カネの素材ともなり、俺たちの近代的な生活を根っこから支えている偉大なマテリアル。もっと早く気づくべきだった」
 よく引きしまった片腕を器用に動かし、食う間に飲む、飲む間に食う。誰よりもしゃべっているはずなのに、誰よりも年上のはずなのに、いちばんよく食べ、飲み、笑う。どこから生まれてくるのか、この無限に思えるエネルギーがお義父さんを動かし、やがてかくもすばらしい鉄工所を作りあげたのだろう。
 いや。どこから生まれてくるのか、たぶん私も夫もよく理解している。
「俺は答えを見つけた。そこからは一直線だった。やることは決まっていた。鉄だ。鉄を作る。作り変えて世の中の役に立つものにする。ドロドロに熔けた真っ赤な鉄は、俺の心に燃える熱い炎が姿を現したのかと思うほどだった。これしかない。俺は走り続けた。そして冷が生まれ、鎮さんと結ばれた」
「途中えらい飛ばしてるじゃん。どうしたの」
「舞よ、聞くな。人よ、悲しむな。男には、口には出せない苦い記憶が一つや二つはあるもんだ。冷がこの世に生まれたのは俺がいたからだ。そしてもう一人、お前と同じ性をもつ者が俺の前に現れ、そして去っていったからだ」
 夫の子供時代について、私自身は多くをたずねないようにしている。もともと無口な夫が、ただでさえあまり話してくれない過去だからだ。とはいえ不幸だったわけではなく、語れるほど記憶していることがないのだという。
 かすかに憶えているのは、まるいもの。あったかくて、ぴかぴかしていて、見てると幸せになれるもの。初デートの時、静かな声で、そう語ってくれたのを思い出す。
「鎮さん、本当によく冷を好きになってくれたな。俺はうれしい。こんな、取り柄といえば頭がよくてパズル解くのが上手くて十ケタの掛け算を暗算できてわけのわからない数式を書いてばかりいるくらいの男を愛してくれたんだ。いくら感謝しても足りんよ」
「お母さん、おじいちゃんにモテモテだね」
「いっそじいちゃんと結婚したら?」
 娘と息子が口々に言う中、視界の隅で夫がゆっくりと立ち上がる。決して怒りを抱いたわけではない。これはいつもの習慣で、そろそろペットのオリザノールに餌をやらなければと思いだしたところだろう。
 何かにつけてもの静かな彼は、行動で自分の思いのほとんどを示す。破天荒でいつまでも若々しいお義父さんとは正反対の、数学者の道を選んだ夫。放っておいたらストレスで首がもげてしまう謎まみれのオリザノールをどこからか見つけてきて、誰よりも可愛がっている。関西弁でしゃべることもあるというが、本当だろうか。
「まったく、冷はいつでも変らんな。あいつの考えてることはさっぱりわからん」
 ――私にはわかりますよ、冷さん。
 玄関へと歩いていく夫の後ろ姿をしばらくながめてから、私はお義父さんへと視線を戻した。見事な禿頭が天井の照明に反射して光り、いよいよ語りも饒舌となる。
 家庭円満。「まるいもの」がここにある限り、わが家はいつまでも平和だ。

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