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RSSフィード [16] リクエスト小説をやってみる。
   
日時: 2011/03/05 23:46
名前: 片桐秀和 ID:pO0i6JW6

今回は趣向を変えて、リクエストされた小説を各人が書いて投稿するという企画をやってみます。お題などは特にもうけていませんので、いつも以上に自由に書いてください。
あと、作品の巻末にでも、自分が挑戦した小説がどんなリクエストによるものだったか書いていただけるのもいいかな、と思います。
締め切りは午前一時。ま、やってみましょう。できるか否かは、今は考えない。進め進めー。

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そして僕は蹴りを放つ ( No.1 )
   
日時: 2011/03/06 01:12
名前: 片桐秀和 ID:bAHnLEhE

 海に出かけようといったのはピエスタで、僕は言われるままにその小旅行に付き添う荷物持ちの役をおおせつかった。男なんだからそれくらいしてよね、とピエスタは桃色の唇を突き出して言うが、僕が根っからのもやしだとはきみも知っていたはずじゃないか。それはもう分かりきったこと、ゆるぎなく明らかなことで、だから僕は昨晩降った雪のせいで足場の悪い海までの道を、なんども盛大に転び、頼むから休ませてくれといって休み、どうにかして彼女の背を追った。白く小刻みに吐かれる息の向こうで、彼女は僕に手を貸すことなく、けれど確認できなくなるほどには遠ざからずに、距離を置いて歩き続けた。情けないことだが、僕よりよほどピエスタの方がたくましい。僕らがまだ幼い頃、おきまりのようにからかいの標的になる僕を、近所の連中から助けてくれたのは、他でもないピエスタだった。よく出来た娘(こ)というのは僕らがすむ町の誰もが言うことで、そんなピエスタがなぜ僕のような情けないやつをかばってくれたのかは今になってさえよく分からない。
 僕らは目的の海を見下ろすコテージに辿り着くと、そこに荷を降ろして、すぐに浜へと向かった。積もった新雪に足跡はなく、寄せては返す波が雪の輪郭をさらっていく。到着するまで時間は掛かったが日が沈むまでにはまだ時間がある。雲間から差す光は脆弱だが、久しぶりにまとまって積もった雪を堪能するのにはむしろ都合がいいといえるだろう。
 身軽になった僕は子供帰りでもしたように、深雪を一人で踏みまわる遊びに興じた。神経がキリとするような雪の擦れる音が、気に障るようでいて、かえって僕を夢中にさせる。僕が一通り満足して、ピエスタは何をしているのだろうと振り返ると、彼女は思いもよらぬ行動に出ていた
 雪の上で回転する彼女に遅れて、金の髪が風を切る。彼女の白い肌が雪の背景の中でさえ際立って輝いている。雪の中でダンスをする少女、一見そう思えたが、彼女はどうも踊っているわけではないらしい。
「ちくしょーめ」
 そう言って、彼女はしなやかな足を鋭く蹴りだす。それはおそらく回し蹴りと言われるだろう行為で、では彼女が何を蹴っているのかというと、彼女の背後にある空気を蹴っているとしか言いようがない。彼女は何度も何度も彼女の後ろにあるものを蹴り、普段の彼女からは――少なくとも近所の連中が思う彼女からは――似つかわしくない罵詈雑言を繰り返していた。
「馬鹿親父、死んじまえ、クソ、どうして、わたしばっかり」
 僕の数倍も体力があるはずのピエスタがようやく疲れてくれてその場にたたずむのを見て、僕は彼女に歩み寄った。嫌なことでもあったのだろうか、それを思い出して腹が立ったのだろうか、僕はそんなことを思っていた。彼女はこれまで僕にそんな姿を見せたことはなかったし、誰の前でさえ彼女は自分の弱さを見せることを嫌う。とりあえず話でも聞こうと思って近づいた時、彼女はうずくまっており、震える肩をみるにつけ、彼女はまさか泣いているのだろうかという思いが過ぎった。
「ピエス――」
 僕が彼女の名前を言い終えるかどうかというとき、彼女は唐突に立ち上がり、背後に立っていた僕を蹴り飛ばした。
 唖然として雪の積もった浜辺に後ろ倒しになる僕に、ピエスタは慌てふためき駆け寄ると、ごめん、わざとじゃないの、とばつの悪そうな表情で告げた。
「何かあったの?」
 ピエスタに差し伸べられた手を受けながら、僕は問う。彼女は僕が立ち上がるのを待って、彼女は再び後ろを向き、あったよ、と言った。
「何かはあった。そして、これから何かがある。でもそれは、もう決まったことだしいいの。わたし、明日町を発つから」
 彼女は一人納得したようにそう言い放った。引き下がれるわけはない。
「どういうこと? 引っ越すの?」
「エイベルスボルンに行く。もう決まったこと」
 ――エイベルスボルン。
 それは、人買いの町と言われるはずのところで、そこに彼女のような歳の娘が行くということは、娼婦として娼館に売られるということで、だからそれは……。
「いけない! どうして? なんで?」
 僕は彼女が僕をからかっているのだということを期待して尋ねた。
「それはもう良いでしょう。決まってしまったことなんだし。リキとは付き合いも長いし、気もあったから、最後にこうして海でも見ようと思ったの」
「いけないよ。いけないよ。僕にできることがあるならなんでもするから、そんなことはやめようよ」
 言いながら、僕はなんと自分が情けないことを言っているのかと気づかざるをえなかった。それは僕の願望でしかなく、僕にできることなど何もありはしない。誰もが安定と程遠い生活を続ける中、僕自身があの町に行かねばならない保障さえもどこにもない。
「ありがとう。でもそれ以上は言わないで。お互いが辛くなるだけだから」
「でも、でも……」
 そういう僕をなだめるように彼女は僕を抱きしめ、そろそろ寒いから、帰ろう、とだけ告げた。

 溶け始めた雪というのはどうしてこうも醜いのだろう。その上を歩けば、泥に混じった水滴が跳ね、ズボンのすそはずぶぬれになってしまう。ピエスタは僕に挨拶を告げることなく翌朝町を発ち、僕は呆然と一日を過ごす。家にいると気がおかしくなりそうで、それでもあてどなく町をふらついた。
 果たしてそれは実際に聞こえた声だろうか、それとも幻聴だろうか。
『処女は高く売れるらしいぜ。へー、ピエスタは気立てもいいし、もうお手つきになってるかと思ったぜ。ほら、ピエスタがかまっていたもやし野郎がいたじゃないか。ダメダメ、あんなふにゃチン野郎じゃ。今頃もう客を取ってるのかな。俺も行ってみたい。ばーか、どこにそんな金があるんだよ。汚いことして金を集める守銭奴じゃなきゃ、あんな良い娘にありつけやしないさ』
 それは誰の声なのだろう。分からない。分からないから。
 僕は背後を振り返ると同時に蹴りを放ち、溶けかけた雪の中に転倒し、薄汚れるよりなかった。

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リクエストは、娼婦が出てくる、回し蹴りがテーマ、でした。

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