今回は趣向を変えて、リクエストされた小説を各人が書いて投稿するという企画をやってみます。お題などは特にもうけていませんので、いつも以上に自由に書いてください。あと、作品の巻末にでも、自分が挑戦した小説がどんなリクエストによるものだったか書いていただけるのもいいかな、と思います。締め切りは午前一時。ま、やってみましょう。できるか否かは、今は考えない。進め進めー。
海に出かけようといったのはピエスタで、僕は言われるままにその小旅行に付き添う荷物持ちの役をおおせつかった。男なんだからそれくらいしてよね、とピエスタは桃色の唇を突き出して言うが、僕が根っからのもやしだとはきみも知っていたはずじゃないか。それはもう分かりきったこと、ゆるぎなく明らかなことで、だから僕は昨晩降った雪のせいで足場の悪い海までの道を、なんども盛大に転び、頼むから休ませてくれといって休み、どうにかして彼女の背を追った。白く小刻みに吐かれる息の向こうで、彼女は僕に手を貸すことなく、けれど確認できなくなるほどには遠ざからずに、距離を置いて歩き続けた。情けないことだが、僕よりよほどピエスタの方がたくましい。僕らがまだ幼い頃、おきまりのようにからかいの標的になる僕を、近所の連中から助けてくれたのは、他でもないピエスタだった。よく出来た娘(こ)というのは僕らがすむ町の誰もが言うことで、そんなピエスタがなぜ僕のような情けないやつをかばってくれたのかは今になってさえよく分からない。 僕らは目的の海を見下ろすコテージに辿り着くと、そこに荷を降ろして、すぐに浜へと向かった。積もった新雪に足跡はなく、寄せては返す波が雪の輪郭をさらっていく。到着するまで時間は掛かったが日が沈むまでにはまだ時間がある。雲間から差す光は脆弱だが、久しぶりにまとまって積もった雪を堪能するのにはむしろ都合がいいといえるだろう。 身軽になった僕は子供帰りでもしたように、深雪を一人で踏みまわる遊びに興じた。神経がキリとするような雪の擦れる音が、気に障るようでいて、かえって僕を夢中にさせる。僕が一通り満足して、ピエスタは何をしているのだろうと振り返ると、彼女は思いもよらぬ行動に出ていた 雪の上で回転する彼女に遅れて、金の髪が風を切る。彼女の白い肌が雪の背景の中でさえ際立って輝いている。雪の中でダンスをする少女、一見そう思えたが、彼女はどうも踊っているわけではないらしい。「ちくしょーめ」 そう言って、彼女はしなやかな足を鋭く蹴りだす。それはおそらく回し蹴りと言われるだろう行為で、では彼女が何を蹴っているのかというと、彼女の背後にある空気を蹴っているとしか言いようがない。彼女は何度も何度も彼女の後ろにあるものを蹴り、普段の彼女からは――少なくとも近所の連中が思う彼女からは――似つかわしくない罵詈雑言を繰り返していた。「馬鹿親父、死んじまえ、クソ、どうして、わたしばっかり」 僕の数倍も体力があるはずのピエスタがようやく疲れてくれてその場にたたずむのを見て、僕は彼女に歩み寄った。嫌なことでもあったのだろうか、それを思い出して腹が立ったのだろうか、僕はそんなことを思っていた。彼女はこれまで僕にそんな姿を見せたことはなかったし、誰の前でさえ彼女は自分の弱さを見せることを嫌う。とりあえず話でも聞こうと思って近づいた時、彼女はうずくまっており、震える肩をみるにつけ、彼女はまさか泣いているのだろうかという思いが過ぎった。「ピエス――」 僕が彼女の名前を言い終えるかどうかというとき、彼女は唐突に立ち上がり、背後に立っていた僕を蹴り飛ばした。 唖然として雪の積もった浜辺に後ろ倒しになる僕に、ピエスタは慌てふためき駆け寄ると、ごめん、わざとじゃないの、とばつの悪そうな表情で告げた。「何かあったの?」 ピエスタに差し伸べられた手を受けながら、僕は問う。彼女は僕が立ち上がるのを待って、彼女は再び後ろを向き、あったよ、と言った。「何かはあった。そして、これから何かがある。でもそれは、もう決まったことだしいいの。わたし、明日町を発つから」 彼女は一人納得したようにそう言い放った。引き下がれるわけはない。「どういうこと? 引っ越すの?」「エイベルスボルンに行く。もう決まったこと」 ――エイベルスボルン。 それは、人買いの町と言われるはずのところで、そこに彼女のような歳の娘が行くということは、娼婦として娼館に売られるということで、だからそれは……。「いけない! どうして? なんで?」 僕は彼女が僕をからかっているのだということを期待して尋ねた。「それはもう良いでしょう。決まってしまったことなんだし。リキとは付き合いも長いし、気もあったから、最後にこうして海でも見ようと思ったの」「いけないよ。いけないよ。僕にできることがあるならなんでもするから、そんなことはやめようよ」 言いながら、僕はなんと自分が情けないことを言っているのかと気づかざるをえなかった。それは僕の願望でしかなく、僕にできることなど何もありはしない。誰もが安定と程遠い生活を続ける中、僕自身があの町に行かねばならない保障さえもどこにもない。「ありがとう。でもそれ以上は言わないで。お互いが辛くなるだけだから」「でも、でも……」 そういう僕をなだめるように彼女は僕を抱きしめ、そろそろ寒いから、帰ろう、とだけ告げた。 溶け始めた雪というのはどうしてこうも醜いのだろう。その上を歩けば、泥に混じった水滴が跳ね、ズボンのすそはずぶぬれになってしまう。ピエスタは僕に挨拶を告げることなく翌朝町を発ち、僕は呆然と一日を過ごす。家にいると気がおかしくなりそうで、それでもあてどなく町をふらついた。 果たしてそれは実際に聞こえた声だろうか、それとも幻聴だろうか。『処女は高く売れるらしいぜ。へー、ピエスタは気立てもいいし、もうお手つきになってるかと思ったぜ。ほら、ピエスタがかまっていたもやし野郎がいたじゃないか。ダメダメ、あんなふにゃチン野郎じゃ。今頃もう客を取ってるのかな。俺も行ってみたい。ばーか、どこにそんな金があるんだよ。汚いことして金を集める守銭奴じゃなきゃ、あんな良い娘にありつけやしないさ』 それは誰の声なのだろう。分からない。分からないから。 僕は背後を振り返ると同時に蹴りを放ち、溶けかけた雪の中に転倒し、薄汚れるよりなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーリクエストは、娼婦が出てくる、回し蹴りがテーマ、でした。
お題は「エログロ」と「四人の男女の四角関係と失恋」です。----「しょせんおんななんて穴なんだよ、穴。つらぬくの。つらぬかれるの。それだけでいいの」 と、腰を振りながら松が言う。彼のやけに甲高い声はくちゅぽん。くちゅぽん。という音に吸い込まれ消えていく。私はそれを横からみている。おんなは、つまり梅は、不満げな目で松をみている。なにそれ、わたしのこと馬鹿にしてんの、それとも自分の頭の悪さ晒してんの、どっちよ。「どっちも、だ。俺は馬鹿だし、お前は阿呆だ。つうか、そういうのはこの問題に関係ないんだよ。つらぬく俺がいて、つらぬかれるお前がいて、それだけ、それだけ」 差別主義的ね、わたしがのみこんでるの、あなたがのみこまれてるの、おっけー? 棒にばっか血液まわってるから脳みそ動いてないんでしょ、ちょっと考えればわかることじゃない。「ま、それもありだよ」 鼻で笑って、腰の抽送がはやくなっていく。梅のむねが、ぴんと張ったまるいむねが、動きにあわせて揺れる。ん。とあまえた声がもれる。ぐ、不覚。呟いて、拍子にもうひとつ、ん。と音がする。彼女は口を押さえようとして、そこで自らの腕がないことを思いだす。肉の露出した肩先が、ふよふよと宙にうごく。半ばで断たれた太ももが、おなじようにふよふよ、ふよふよ。 やっぱりこれ、不便よ、だるま女なんて、あんた責任とってくれるの、ねえ。 松はなにも答えず、ただうっすらと笑うだけだ。やさしいかお。きゅんとする。下腹部とか、胸とか、つまりそういったところがいい感じになる。「ねえ、私もそっちいっていい? だめ?」「だめーだよー」 首をふって、松は梅に口づけする。前戯で傷口を舐めまわしていたから、彼のくちびるは真っ赤に染まっている。その色素が梅の肌にうつって、ひどく羨ましいようなどうでもいいような、いやな気分になる。「ねえ、竹、松にふられたんだけど!」 空振りの勢いで竹にふる。彼は部屋のすみでじっと小説を読んでいる。声をかけたいまだって体勢をかえるどころか、視線すら動かそうとしない。ただ意識だけをこちらにむける。「あっそ、ふーん」 それきり。「あ、おい、おまえもそんなか。え、私はどうすればいいんでしょうか、え、おしえて梅姉さん!」 よしよし、わたしが抱きしめてやるから、この胸に飛び込んできなさいな。「いや、そもそも抱きしめる腕がないですし」 と、けっきょく松が腰を振り続けるのを眺めるしかないのだった。彼が動きをはやめればはやめるほど、私の時間は間延びしていく。松、松。こころのなかでよびかける。返答はない。ノットテレパシーだから。超能力がほしいな。そしたら松の心に潜って、なにかとっても大事なものを愛撫したりキスしたりしてやれるのに。エスパー、エスパー。SとP。へむう。「さて」 ふいに一息ついた松が、竹にかばんをとってくれ、と頼む。放り投げられたアルミ製のスーツケースをひらくと、なかからは大振りなナイフがでてくる。梅のテアシを切ったばかりの、血糊も脂肪もぬぐっていないぎんぎら刃が照明をうけ光がひとすじ反射する。「そろそろいくぜー」 ういすういす、こい、うけとめてやるぜえ。 松が右手を下ろすと、ナイフは梅のおなかにもぐりこむ。なんの抵抗もない。なんだかあっけないくらい。ほう。梅の息。右手がこんどは下腹部に落ちていって、彼女の子宮一歩をちょうど半ばまで切り裂いたくらいのところでくちゅぽん、という音と一緒にひきぬかれた。 瞬間、鮮やかな赤色が空間をみたす。綺麗だ、と思ってしまう。ぐ、不覚。 返り血をあびて、松はふたたび笑った。やさしい、どこまでもやさしいその表情は、梅の開かれた腹部、深紅の血の海と、黄色い脂肪の島。そしてその中心の心臓に向いている。ナイフを放りだした手が、おそるおそる伸びていって、まだどくどく動いている右心房を、そっと愛撫した。や、ん。と、梅がひときわ大きい声をあげて、そこからさきはもう見ていない。見たくもない。「ねえ竹」 声をかけてみたけれど、やはり返事はない。ぴちゃぴちゃなにかを舐める音と、梅の喘ぎ声と、聞こえるのはそれだけ。いや、あとひとつ。くちゅぽん、くちゅぽん。耳に粘り着いた音がとれない。 エスパー、エスパー。もしも超能力があったら、この音を消してみせるのに。「穴だよ、穴」 と、松がつぶやく。私は耳をふさぎ、こころのなかでなにかとっても大事なものを抱きしめていた。やわらかくてひどく心許がない。松、松。そっと呼びかける。SとP。へむう。------遅刻ですごめんなさい(ω)なんというか、これだけの分量に4にんも詰め込んだのははじめてです難しかった><竹は犠牲になったのだ……。
帝都はもとから霧深い場所にあった。それが産業革命以来は蒸気機関の排きだすスチームとあいまって一年中白く霞んでいるような印象がある。 街中に取りつけられたガス灯のオレンジ色の光は太陽のにように強かったが、霧の夜では足りず、白い霧を照らしあげて、その存在をいっそう引きたてていた。 今夜はとくに酷い、とぼくは思った。 一寸先は闇とは言うけれど、ほんとうに先が見えない。 泳ぐような心地で、ぼくは歩いている。空気は湿っぽいし、冷たい。呼吸をすればするほど、身体の内側まで染みこんでくる。 職場から家までの距離は近いわけではない。乗合があるような時間であったら、迷わず使っていただろう。辻馬車は高いし、最近でてきた蒸気機関製の馬車も高い。歩けないような病人でもないし、歩けない距離でもない。 そうやって歩き出したものの、いまでは後悔していた。本当に寒くて歩くのを諦めたい。街を流している馬車に出会わないものか、と期待するけれど、すれ違うのは夜警のもつカンテラばかりだった。 そうやって身を縮めて歩いていると、霧のなかにぼんやりと浮かび上がった看板があった。真夜中のこの時間、まわりの店はすでに閉じているのにそこだけ開いている。こんなところにお店なんてあったっけ、と思うぐらい目立っている。 暖かそうな雰囲気がしていた。 蒸気機関が登場してからというもの全てのものは工場で作られるようになった。それはそれでとても便利だと思っているし、ぼくは工場のものより手作りの品のほうが優れているとも思っていない。ただ、その看板の手で書かかれた決して上手ではない字が、しっかりとレタリングされたのと違って暖かく感じられたのだ。 気づけば、お店のなかに入っていた。 明るい店内だった。酒場のように照明を落としていない。お酒のにおいもしない。コーヒーのような香ばしい匂いがしている。「いらっしゃいませ」 という声がした。カウンターにいつのまにか一人の女性が立っていた。白いシャツに黒いタイをしていた。 なんとなく彼女の前に座った。メニューが目の前にさっと置かれる。といってもコーヒーとサンドイッチしか載っていなかった。「コーヒー」 と注文した。「はい!」 と彼女は元気に返事をした。カウンターの向こうの簡易なキッチンで作業をはじめる。 カップを用意して、フィルターをつける。コーヒー豆の匂いがさっとあたりに広がった。彼女が密封した容器からコーヒー豆を取り出したのだ。それを手際よく潰して、フィルターに移す。彼女は少しずつお湯を垂らしいく。そのたびにまた、香ばしい匂いが散る。 ぼんやりと、彼女の指の動きに見とれているうちにコーヒーが目の前に、とん、と置かれる。彼女と目があう。 彼女はにっこりと笑って、「どうぞ」 ぼくは黙って一口、コーヒーを飲んだ。味はよく分からなかった。ただ、温かい液体が喉を落ちていくのが気持よかった。気分が落ちついていく。そうすると、少しだけ眠くなった。コーヒーを飲んで眠くなるのはおかしい、と思って自然と頬がゆるんだ。 彼女はカウンターの隅にいき、後片付けをしていた。その背中に何となく、「遅くまでやってるんだね」「開店が遅いですから」「そうなんだ」 彼女はぼくに振り返り、「開店は日付を回ってから。うちは深夜営業の喫茶店です」「なるほど、それじゃあ、いままで気づかないわけだ」「ええ、ですから、お客さんもめったに来ないんですよ」 ぼくは黙って残りのコーヒーを口に運んだ。 時間が止まったみたいに、ゆっくりと飲んだ。時間を忘れたみたいにゆっくりと飲んだ。 コーヒーはだんだん冷めていき、酸味が増していった。彼女が近づいてきて、そっと机のうえにミルクのポットを置いた。冷えたコーヒーにミルクを足した。酸味がまぎれる。彼女はまた、ちょっと離れた位置にいって、扉の方に視線を向ける。「今日はもう誰も来ないかもしれないですね」 と彼女がぽつりと言った。「もう少し早く開店すればいいんじゃない?」「それはできませんよ」「どうして?」「そういうものだからですね」「そう」「ええ」 ぼくは残ったコーヒーを飲みきると立ち上がった。彼女にコーヒーの代金を渡して、お店をでた。出ていくぼくの背中に、彼女の「ありがとうございました!」という元気な声がかけられる。 外にでると、もう空が白んでいた。 今日は徹夜か、とぼくは思いながらも少しだけ足取りは軽かった。明日は無理だけど、明後日からはあのお店の常連になってもよいかもしれない。 ぼくはそんなことを思いながら、家に帰った。----リクエストは「ほんわかするお話」「スチームパンク」です。ちょっと消化不良だ・・・!
せつないラブコメは無理でした。なのでせつない話を目指して。明日完成させたいと思います……。----------------------------------------「隣、いいですか?」 夏公園の一角にある大きな樹の下で、俺は彼女と出会った。 真っ白い日傘に白いワンピース、肌は陶器のように滑らかで色白で儚げで優しい雰囲気のとても綺麗な女性だった。 思わず口に咥えたタバコを落としてしまいあわてて消す羽目になった。「ど、どうぞ」「ありがとうございます」 ニコリと笑いながら彼女は日傘をたたみ俺の横に腰を下ろした。「涼しいですね、ここ」「そ、そうですね。夏に重宝しますよ」「よく、ここにはいらっしゃるのですか?」「ええ、まぁ……、仕事がない日は電気代節約のために」「……、電気代、ですか?」「あ……。す、すみません聞かなかったことに」「くすっ……、面白い方ですね」 幾ぶりだろうか。こんな無垢な笑い顔を見たのは。 幾ぶりだろうか。こんな邪気の無い声を聞くのは。 幾ぶりだろうか。こんなに心の奥が痛いのは。 ――蝉が鳴く夏の昼下がり俺たちは出会ってしまった。 ――ああ、俺はどうして彼女と出会ってしまったのだろう。 ――どうして彼女と言葉を交わしてしまったのだろう。 ――どうして彼女を好きになってしまったのだろう。 ○ 蒸し暑い夏の夜。紅の月が見下ろす中を俺は黒いロングコートに身を包み目的地へと足を運ぶ。 今日は久しぶりの仕事だった。 懐で携帯が震えた。「はい、もしもし」『……NO.2、久しぶりの仕事はどうだ?』「……まだ移動中ですよ、バーガンディー」『ああ、それはすまない。君ならもう終わっているものだと思っていたよ』「はぁ。買いかぶるのも止めてくださいよ。俺はそんなに仕事が出来るやつじゃないですよ」『ふ……、こちらは期待しているということだよ』「……。何ですかそれは。あなたの言葉とはとても思えませんが?」『……守護神殺し(フェネクスキラー)。頑張ってくれよ。今回はかなり警備も厳しい。そして、大物だからな』「はいはい、わかってますよ。……っと、そろそろ着きそうなのできりますよ」『ああ。……期待してるぞ』「……全く、思ってもいないことをすらすらと。よく言えるもんだ」 携帯をしまい、代わりに俺の相棒を取り出す。黒く重厚なそれは――拳銃だ。オートマチック45口径の名も無き我が相棒。「……さて、行くか」 目の前に広がる豪勢な屋敷を見ながら気を引き締める。 ……俺の仕事。 それは――殺しだ。 俺が所属するのは名も無い組織。日々殺しの依頼を引き受け遂行する、ただそれだけの組織。今日もそう。名も知らぬどっかの金持ちの女を殺しに行く。 ただそれだけだった。 ○ 屋敷に忍び込むのは簡単だった。あらかじめ敷地の図面と監視カメラの位置や警備員の徘徊時間を知らされていた、あらかじめ屋敷の鍵を全て受け取っていたということもある。依頼人はよほど目標を殺したいらしい。何はともあれ、俺は簡単に今回の目標のいる部屋へとたどり着けた。 ドアに近づき耳を澄ます。気配は確かにあり物音は無い。----------------------------------------せつない話を(ry。
お題:恋愛物 和物 おっさんが活躍する こんこんと白雪が降り積もる世界に赤い椿はどこか浮世離れしていて、まるで美しいあなたのようだった。 木の塀で囲われた入り組んだ路地で初めてあなたを見た。音もなく降る雪が赤い番傘を滑って落ちる。その下に見えるゆるく結われた黒髪は艶やかで、口許の黒子が彼女の色香を濃密なものにしていた。旅籠の下で休んでいた私は一気に彼女に魅せられてしまった。 朝になると体を伸ばし、身なりを整えると、周りのヤジも気にせず私はあなたのところへ行く。あなたはいつも庭の椿の花をとりに来るから、私はその時間に合わせて庭が見えるところまで近づいてあなたをこうして見つめにくる。名前は知らない。でも家は知っている。見せられたあの雪の日に後を付けたから。断じてストーカーなどではない。純粋な愛故だということは知っておいてほしい。 通ってはいるがまだ一度だって彼女の眼に私は映ったことはない。会話さえ、挨拶さえしたことがない。 あなたは美しい。しかし、私はどうだ? もう成熟した子供がいたっておかしくない年齢だ。なにより背も低い。あなたはスラっと美しい、白樺のよう。私はよくいってもそれにくっついたキノコのようなものだ。ずんぐりとした体も、太々しいこの顔も私は大嫌いだった。 あなたと出会った冬が過ぎ、桜が舞い始めたある日。私はいつものように家の門の近くまで行った。すると、いつもは居るはずの姿がなかった。おかしい。彼女がいつも漂わせている香の匂いもしない。家の中にいるのだろうか。 諦めてもう少し日が高くなってから出直そうと来た道を振り返ると、彼女の家から物が割れる音がした。籠って聞こえにくくはあったが、怯えるような彼女の悲鳴が聞こえた。「……っ」 私は無我夢中で駆けだした。あんなに硬く大きな壁に見えた門を一瞬でくぐり、襖の開いていた縁側をよじ登り、和室に入ると必死で目を動かし、耳を澄まし彼女を探した。「いやぁ! こないでぇ」 今度ははっきり彼女の声が聞こえた。何かに襲われているのか、嫌な汗が出た。また駆けだすと、私は唯一の取り柄である足の速さをこの時は良かったと深く思えた。彼女の声のほうへと進むと、ひどく怯えた様子の彼女いた。彼女の目線の先には一匹の鼠がいた。私はホッと胸を撫で下ろした。鼠なら私も退治くらいできる。「え?」 ふと鈴を転がしたような彼女の声が聞こえた。 息を切らした私があなたの美しい目に映る。足が震えた。何度夢見たことだろう。彼女に私の存在を知ってもらえた喜びに体が震えた。「あなた、どこから入ってきたの?」 首を傾げると乱れた髪が肩から零れた。私はそれを見ただけで胸が脈打ったのを感じた。不法侵入なのは分かっていた。でも一度でもあなたの眼に映りたかった。意を決して彼女を無視し、私は躊躇いなく鼠に襲いかかった。鼠はいとも簡単に始末できた。慣れたものだった。「すごいわねぇ。私は鼠が嫌いなのよ」 彼女は安心したようで柔らかな笑みを私に向けてくれた。天に昇るような気持ちになれた。「ねえ、あなた、私の家に住む?」「なーご」 私は嬉しくなって声をあげてしまった。私の返事に納得したのか、彼女はにっこりと笑い、よっこいしょと私を持ち上げて頭を撫でてくれた。 幸せだと言いたくて、ゴロゴロと喉を鳴らして椿のように美しいあなたに愛を伝えた。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――恐ろしいほど雑な仕上がり;付け焼刃にもほどがある一応最初書いていた途中のものも載せておきます…↓仕舞いこんでいたビー玉が弾けたような音がした。志穂は、またか、と思った。 先程まで頬を染めていた女子(おなご)は顔を歪め、ぽろぽろと泣いている。その顔を見ると志穂の耳には薄い和紙がくしゃくしゃに丸められるような音が聞こえるのだった。 座敷が二卓とカウンター席が六つしかない、狭い店内で女子のすすり泣く声はひどく響いた。現にさっきまで話し声にあふれていた茶屋の中は、奥に座る二人の男女に意識が集中し静まり返っている。ふと、お抹茶とぜんざいの乗った丸いお盆を握る手に力が入る。志穂はこの時間が嫌いだった。人々の顔が複雑に歪むこの時は苦痛だった。耳の良い志穂にとって沈黙は沈黙ではないからだ。志穂は通常の人間では感じないことを感じる、音に関する共感覚を持っていた。目に入ってきた情報が聴覚と連動し、風景に音を感じるというものだった。それに別に霊的な意味とか真理とか、魔法染みた事ではなかった。ただそう感じる。砂糖を舐めて甘いと感じる、ただそれだけの意味しかなかった。ただし人の表情は特殊な音が聞こえる。悲しそうな顔をしていれば悲しい音が聞こえるし、癇癪を起こす人を見れば激しい音が鳴り響いた。彼女の感覚は人の理解が得にくいものだったので、志穂は説明も面倒だからと家族以外にはそのことを秘密にしていた。だが、今はそれを言いたくてたまらない。「本当にうるさい」 志穂がぽつりと虫のような声でそう言うと、奥に座っていた男と目があった気がした。凛とした切れ長の鷹のような眼をしたその男は、テーブルの上にお茶代を置いて立ちあがった。壁に寄った志穂を見ることもなく、男は店を後にした。「ありがとうございましたー」引き戸の音に反応したのか、厨房から響く父の声が彼を見送った。それを合図に店内は再び話し声で溢れだした。「御待たせいたしました。お抹茶とぜんざいでございます。ではごゆっくり」 品物とともに営業スマイルを置いてくると、志穂は厨房の暖簾をくぐった。「全く何なの、あの人。毎度毎度女の子泣かせて帰って行くなんて。お客さんの顔がうるさくてたまらないわ」 厨房に入るや否や不機嫌そうないつもの顔になった志穂を見た父は苦笑した。白あんを丸めていた手を止めると、漆塗りのお盆に半紙を乗せ、その上に季節物の上菓子を品よく盛り付け、志穂の前に差し出した。「またあの色男が来てたか。ほれ、これを娘さんに出してやれ。お茶はお菓子を食べ終わってからだぞ」 木綿の手ぬぐいを頭に巻き、藍の着物の上に白の前垂れを着た父は、がっちりとしていて、手も大きく顔もどちらかといえば厳つい。とても上菓子を作っているようには見えない人だが、誰よりも心優しく繊細なことは志穂が一番よく知っていた。「わかったわ」 志穂は慣れた手つきでそのお盆を受け取り、まだ肩を震わせている女子の元へと向かった。「季節の上菓子でございます」「……え、え? あの、頼んでいません」 まだあどけなさの残るその泣き顔は戸惑っているようだった。志穂の耳にはざわざわと風の強い日の葉擦れの音が響いていた。桃色の上菓子をそっと女子の前に出し、志穂はゆっくり安心させるように微笑んで見せた。「サービスですのでご心配なく。お客様の頬が乾く頃にお茶もお持ちしますね」 女子は俯き、小さく「ありがとう」と言った。お茶が届くころには元気が戻っていた。帰り際、ご迷惑をおかけしました、と志穂に頭を下げ、ごちそうさまでした、と外の夕日と混じって美しく笑っていた。序盤で終わってしまったものふえぇぇ 精進します;とりあえず楽しかったですではまた
>「SとP」 弥田さん 今日もう一度読ませてもらって、どう感想書いたものかと改めて思っています。エログロでもあるのだけど、やっぱりどこかかわいらしさというか、素っ頓狂な感じがあるなって。なんか不思議な気分です。へむう。 人物相関が分かりにくいというよりは、この尺で人物が出すぎていて把握する前に終わっちゃうというのが正しいのかも。でもま、そもそものリクエストに応えたわけで、 それに僕の脳みそスペックの問題もあるだろうし、これはこれでいいのかな、と思いました。 だるま、という表現にはぞっとしました。なるほど、だるま、か、って感じ。 不思議な読書感の作品でしたよ。 また遊んでくださいね。>「霧の町と喫茶店」 とりさん この話、いつエログロでてくるの? なんて思いながら読んでしまったのは半分冗談、半分本気です。情景描写が妖しい感じで、そっちをつい期待してしまったのですね。 で、後半にリクエストに応えてこういった展開をしてくれるのですが、まさにほんわかできました。とりさんにリクエストしてみてよかったなって思います。まだ謎を残した物語って感じではあって、ググ!っとまでは来ないのだけど、ほんと、ほわーん、としてくれる終わり方がツボでした。たまにはこういうのも書いてくださいよ。 うれしくなる読書でした。 また遊びましょう。> 紅月 セイルさん 大作予感パターン。とでもいうのだろうか。設定を細かくしすぎているかなあとは思っちゃうのですが(時間制限的には回収しきれないほどの)、一方でやろうとしていることは理解できて、うーん、悔しいだろうなって思いました。 完成版が投稿されたら改めて感想書かしてもらいますね。>李都さん やられた! こう来ますか。りとさんがこういう作風のものを書くとは予想外で、なにー!と最後に叫んでしまった次第です。前半の女性を褒めちぎるような描写で上手くミスリードされちゃったな。そういえば、りとさんの文章って久しぶりに読んだような気がしないでもないですが、上手いですね。落ち着いてるっていうか。もうちょっと磨きが掛かると、かなりの書き手になってしまいそう。 それと。枠外作品、準備が必要な感じの内容になってるから梃子摺ったんでしょうか。面白そうな予感はありますが、一時間で書くのはきついかなって。ま、機会があれば仕上げてみてくださいね。 >自作 まあ、こんなもんかな。 ご参加くださった皆様、ひとまずお疲れ様でした。また遊んでください。
>片桐さんなんというか、こうやるせな重いですね。>汚いことして金を集める守銭奴じゃなきゃ、あんな良い娘にありつけやしないさこの一文、好きです。また遊びましょん。>toriさんほんわか! 超ほんわか!!wやっぱりtoriさんにはもっとなにか別のものを期待してしまうのですが、こういうほんわかも書けてすげえな、とも思うのでした。ほんわか!>紅月さん背景が壮大! ですね。完成楽しみにしてます。>李都さん昨日読んだときはふつうにおっさんだと思ってました……!(ぁどういうSMだよw って感じですね。いま読んでみるとちょっとほんわかしててまた違うよさがあります。やっぱり文章きれいでいいな、とか思いました。椿とか番傘とか、もう字面からきれいでいいね、と。こういう言葉選択できるようになりたいな、と。>自作中途ハンパーン。
感想です*片桐さん*なるほど 娼婦になる前か 切ないですね男の無力さが何んともいいなぁピエスタさんいいですね 回し蹴りが踊ってるように見えるくらい可憐な人なのに「ちくしょー」ってセリフいいですね諦め半分 行き場のない怒り半分の感情がよく伝わります1時間でこれだけ書けるの良いなー さすがです感想の返信ですミスリードありがとうです^^よかったぁ モロバレだったらどうしようかと思いましたふむ そうか私はあまりこういうの書かないイメージでしたか色んな人に「らしいね」と言われたことがないです あれれ?頑張って磨こうと思います 有り難うございました*弥田さん*ぎゃは 文章のグロいものは自分の頭の中で脚色しすぎる癖があって少々苦手名前の松竹梅には笑っちゃいましたがwひえ ぞくぞくしました状況がもっと分かったら良かったなと思いますなんか(自分でもよくわからないが)背景がわからないので宇宙空間みたいに浮いてましたなんでか分からないけど… 自分の頭がぁ唐突だけど 不思議な少し狂気的な雰囲気がグッドでした^^感想の返信ですほほほ おっさんなにゃんこなのですよ綺麗ですか なんか照れますね(違う)感想有り難うございましたぁ*紅月さん*なんかハードボイルドな感じ…(あってるかしら…?)1時間という時間配分難しいですよね 1時間でかける作品を思いつくっていうことと1時間でまとめるということが必要で むつかしいですよね完成頑張ってください(他人のこと言えないけど)*じぶん*うーん もっとがんばりましょう楽しく遊ばせていただきました 有り難うございました