今回のお題。「綿毛」「紅い」「境界線」まあ、だいたい一時間後が投稿しめきりです。なんとか完結を目指しましょう。
ふと窓の外に目をみやると夜の暗闇に白い粒子が降り注いでいる。月光に照らされ蒼く透き通ったその物質は、風にやられて縦方向に横方向に、統一性もないまま回転している。 雪か、ふむ。 呟いて肩の力を抜いた。眼球の疲労感をどうにかして追いやろうと瞼を何度も開け閉めし、ついで周りの筋肉を指でほぐしてやる。ため息をつけば、くすんだ色合いをしている。深呼吸がしたくて窓際に寄った。ちゃちなアルミサッシを開けると、安っぽい音と一緒に冷たい空気が流れ込んでくる。目を閉じる。風がたんと吹き、一杯の雪が全身に、いや。 雪ではなかった。ならばなんだ。私は目を開ける。途端、天空になにかひどく怖ろしい気配を感じ、視線をめいっぱい下に、つまり両のつま先に向けた。床には綿毛が積もっていた。明らかに見覚えのないものであった。なればこそ、それは空を覆うあの白い粒子に違いないのであった。耳をすますと音がする。それを形容する術はもたない。すり潰すような、引き裂くような、断末魔のような、溶けるような、不可解な音。 もう限界だった。反転し背を向け逃げ出した。パソコンの前へすがりつくと、何事もなかったかのように仕事の続きをはじめた。窓はまだ開いている。漂う綿毛が部屋を満たす。私はひたすらにキーボードをタイプしている……。 しばらくたってふいに気付く。月光の色が変わっている。流れる血のように紅い。その薄明かりに濃密な手触りを感じる。深紅は蛍光灯を塗りつぶすように差しこみ、白と赤の層に境界線が出来ている。なんの気もなしに後ろを振り向いた。開いた窓の向こうには工場がある。煙突から出ている煙が月光に照らされてひどく紅い。さらにその上空に人影があった。それは天使であった。対の翼がはためいていた。綿毛も音もそこから湧いてきていた。あれはなんだろう。不思議と恐ろしさは消えていた。なにもかもがどうでもいいような、しかし投げやりというのでもない、静かな心地であった。私の視線に気がついたのか、天使が微笑みかけてきた。彼(もしくは彼女)とはかなりの距離があったが、笑った、とはっきり分かった。薄いむねにちいさな乳首が可愛らしかった。 ちくびーむ。私はいった。 ちくびーむ。天使はジェスチャーで返してくれた。わずかに恥じらいがあったところを見ると、あるいは女性なのかも知れない。そう思った。 へい、おまんこしないかい、べいべー。 オーケー、いいわよ。 やはり女性だったらしい。彼女はふんわりと綿毛のように私の部屋へと降り立った。 電気、消してくれる? おやすいごようさ。 スイッチを押すと蛍光灯がぷっつり消え、紅い光が天使の身体を照らしている。陰影の加減が美しく、綺麗だ、と思った。 ちくびーむ。もう一度言った。 ちくびーむ。その動きにはやはりどこか恥じらいがあった。私は笑い、彼女は笑わない。綿毛につつまれながらキスをした。メロンの甘い味がした。------久々にちょっと固めな文体(当社比)に挑戦したのですが、どうにもこうにも上手くいきませんでした。後半は完全にヤケはいってます。ごめんなさいんぽ。
不吉なほどに紅い空。 彼は十字架に吊るされていた。「は?」 思わず、間の抜けた声があがってしまう。目を開ければそこは緑の広がるのっぱら。いまいる場所は少し盛り上がって丘になっているようだった。 そのてっぺんで、彼は十字架に吊るされていた。「おや、おはようございます」 と、後ろから声が聞えた。吊るされている不自由な状況で後方は見えなかったのだが、声の主は正面にまわってきた。 高校生だろう自分と同じ位の年の女だ。何故か二メートル以上はある槍を持っている。「えっと、ここはどこ。俺、何で吊るされてるの?」 とりあえず、聞いてみた。「ここは地獄の入り口です」「……」 地獄とは、また。状況はわからないが、わかったことがひとつだけある。目の前にいる彼女は、どうやら相当にイタイこらしい。 憐れみの視線を送る。「おれの知り合いに良い精神科医が」「えいや」 お終いまで聞かず少女がいきなり槍で突いてきた。「うぎぇえああ!」「おや、うまくかわしましたね」「何だお前! その刃物本物か!?」 目には見えないが感覚でわかる。彼をつるしてある十字架に、さっくりささっている。反射的に身体を曲げて避けてほんとによかった。「もちろん本物ですよ。だから刺さると結構痛いですよ鈴木栄治さん」「は?」 ポカンとする彼に、少女は語りかけてきた。「どうしました鈴木栄治さん?」「いや、俺の名前は鎌田和史だけど」「くだらない嘘はいいです」 困った。うそつき呼ばわりされてしまった。「さて、あなたの罪状は……おや、これはひどいですね。読み上げる気にもならない、犬畜生にもおとる所業ですね。困りました。変態がわたしの目の前にいます」「え、いやなにまじで」「ということで私のこのやりをぐさっと食らってください。痛みに悶え苦しみながら地獄に落ちれますから。どうぞいい悲鳴を上げてください」「うわあ、正直ぃ」「そもそも罪を逃れようと偽名を使っても仕方がないんですよ。地獄の使いたるわたしには、人間の血液からその人の個人情報を読みとる能力が備わっているのです」 言いながら、彼女は見事な所作で槍を振るう。穂先がかすめたのか、腕に微かな痛みが走る。そして槍についた血液をぺろりとなめる。「まったく無駄なあがきをして……ふむふむ、十七歳の血液型はA型。両親は存命で、兄妹はなし。性癖は……うわ、ひくわ……友人はそこそこいると」「うわぁああああ! やめてくれぇえええ!」 個人的な趣味をのぞき見され大声で叫ぶ。「幼馴染あり……しかも女の子ですか……家族ぐるみの手伝い……家族仲は意外と良好……反抗期はもう過ぎている……お名前は鎌田和史……あれ?」 きょとんと、言葉をとぎらせた。「え、あれ? 本当に?」「ほら言っただろうが! ロクに確認もしないで人を串刺しにしようとしやがって――」「うっさいですよ。ぐさっといきますよ?」「ごめんなさい!」 槍をおさめてふうむ、と腕組みをする。「いや確かに何かの行き違いがあったみたいですがね、鎌田和史さん。でもですね、ここは、ある一定以上の回数女を泣かせたクソ虫が堕ちてくる場所なのです。そうでない人間がここに来ることはありえません。そしてこの槍は間違いなくあなたのものです。そればっかりは、間違いようはありません」「……」 最後の言葉が、よくわからなかったので黙る。「心当たりはないですか? ふむ、そうですか。確かにそんなお顔で女を泣かせるなんて、せいぜい強姦ぐらいしか手段が――」「はいストップ。まじでそういう冗談はやめてください」 聞いていて気持ちいいものではない。「いやでもちょっと心当たりはあるぞ」「おやマジですか」 敵発見、とばかりにちゃき、と槍を持ち上げた。和史は慌てず騒がずそれを制する。「いや、そういのじゃないんだ。俺の幼馴染がな、とてつもないドジっ娘なんだ。しかもそのドジの被害は狙い澄ましたように俺に向かってくるんだ。それで、やつのとんでもないドジが俺に向かって炸裂する度に、あいつは泣いて謝ってくるんだよ」「妄想は地獄でお願いします」 突きの構えに入った。さすがに恐怖心が煽られ、ちょっと焦る。「てかさっき俺の記憶だか記録だかを読みとっただろう! ちなみにここに来る前の俺の記憶は、床に落ちていたシャーペンを拾おうとして、何故だか足を滑らし前転してごろごろ転がってきたあいつにぶつかられ、その衝撃で階段へ落とされたというものなんだ」「…………」 沈黙。しばらく胡散臭そうに見ていたが「……ちょっと失礼」 再度振るわれた槍が腕をかする。また、ぺろりとひとなめ。「……うそじゃないんですね」 半ば信じがたいといった表情で呟く。記憶を読みとったのか、それとも嘘発見機のような能力もあるのか、ともかくどうやら無実は証明されたらしい。 ほっと息をついてから、しかし気がつく。「あれ、そういえばここ地獄の入口っていってたよな。もしかして俺死んだの?」「……いえ」 しかしそれは否定された。「ここはあちらと地獄の境界線。死にかけの人間がくる場所です」「死にかけの?」「あ、いえ間違えました。ここは死にかけのクソ虫がくる場所です」 この子は何か人類の男全般に恨みでもあるんだろうか。「生きるか、それとも地獄に落ちるか、それを裁定する場所です。ちなみにわたしはここに来たクソ虫をみんな地獄に叩きこんでやりましたが……」 ちらっとこっちを見る。和史は全力で首を振った。「まあ? ほとんど? 冤罪? みたいですし? 戻しても? 良いかなと?」「もちろん! 戻すべきだろ!」 何故か疑問符を多用し、非常に残念そうに言うが、逃さずとばかりに食い付く。「そうですね。面倒ですけど……心の底からたまらなく面倒なんですけれども……一応この仕事に誇りはもっていますし……決まりですし……めんどくさいです……それでは」 えいや、といって彼女はパキンと槍を折った。「これは、あなたが泣かせた娘の涙でできていました。これを裁定官であるわたしが砕くことによって、今までの罪は清算され、あなたは現世に戻ることができます」 あれだけ長大だった槍がはらはら、と綿毛のように宙に浮く。すこし幻想的ですらあった。 それと同時に和史の意識も遠のいていった。「ああ、まったく面倒――いクソ虫でし――おかげで仕――増え――」 最後のほうは切れ切れになってほとんど聞こえなかった。 ぱちり、とまぶたが上がった。「うわぁあああああん! 和ちゃんが死んじゃったよぉおお!」 目を覚ますと、幼馴染がおお泣きしていた。和史が目を覚ましたのにも気がつかず、わんわんとおお泣きしている。 勘弁してくれ、と思う。何せ、彼女が泣くたびにあの凶悪な槍がにょきにょき伸びるのだ。「止めろ、泣くなよ」「あれ!? 生き返った!?」 なんで驚くんだよ、と苦笑いする。 これまでの罪は清算されたらしいが、これからは別だろう。またあそこに飛ばされ問答を繰り返すのは敵わない。和史は幼馴染の頭を撫でる。「う、うん!」 彼女がぱぁっと顔を輝かせる。 和史はそれにつられて笑おうとして「ああ、やっぱり……女たらしの片鱗が。あそこで地獄に叩き落しておくべきでしたか」 その声に、笑顔が凍った。 ぎぎぎ、と油の切れたロボットのような動きで振り返ると、そこには見覚えのある女がいた。長大な槍こそ持っていないが、間違いなく、夢の中で出会った女である。「お、お前、なんで……」「あそこから現世に舞い戻ったクソ虫には、責任を持って現世に戻した裁定官が監視することになっているのです、ああまったくめんどくさい。わたしもあなたがもう女の子を泣かすことのないようわざわざ現世に出張しにきましが……」 はあ、と嘆息。そうして彼女が手のひらを開く。 そこには、小指ほどの大きさのアレがあった。せいぜいつまようじをちょっと大きくしたものだが、しかし紛れもなくあの地獄の入口で見たものである。「さっそくあなたの罪ができましたよ? どうしましょうか。これが前の大きさに戻ったら、あなたは迷わず地獄行きですよ?」 首を傾げて言う彼女に、思いっきり顔がひきつった。「和ちゃん、その可愛い子、誰……? なんで仲よさそうなの……?」 何故か知らないが幼馴染まで泣きそうになっている。そういえば、彼女は和史が他の女子と、とくに容姿端麗な女子と話していると、何故だかいつも情緒不安定になるのだ。「おや、また罪が……」 地獄の使いは、非常に不吉なことを言う。「もう勘弁してくれぇ!」 悲痛な叫び声が、平和な昼下がりに響いた。-------------------------------------- 走り書きはしりがき
人は飛べる。人は病まない。人は死なない。そんな、当たり前のことがたまに不思議になる。では僕たちはどうしてここにいる。どうして生きていく。男も女もなく、老人も子供もなくなったのは、いつのことだろう。それは僕が生まれるはるか前のことではあるのらしい。何十年か、何百年か、という昨日。「やあ、アサマオ、変わりはないかい?」 僕の友人であるトルクカの挨拶に、僕は首を振って答える。僕はいつも通り。世界もいつも通り。ただ蒼い。「トルクカ、きみこそ変わりはないかい?」 トルクカも首を振ってそれに応えた。いつもどおりの挨拶。この世界で、アオの世界で誰もが毎日何度と交わす挨拶だ。「アサマオは今日も向こうの世界を見ていたのかい?」 僕は頷く。「トルクカも向こうの世界を見ていたのかい?」 彼は頷く。 それだけ会話を交わし、それ以上の言葉を失った僕らは、遥か西方の境界を眺めた。 僕らは東のアオに住んでいる。アオは蒼い世界。空がそのまま地面に被さったような澄んだ色の世界だ。花も木も、人も動物も、命を持たないものも、全てが蒼く澄んでいる。僕らは歳を取らず、子供を生まず、ただ今日を過ごすために生きている。悲しむことは少ないが、笑うことも少ない。酷く退屈だが、絶望には至らない。そんな日々をもう何十年と生きてきた。 僕らが住む世界は半円型をしていて、半円の直線にあたる部分には、紫の境界線といわれる長い一本の道があった。境界線とは言われるが、一方で道でもあるその一帯は、僕らを西の世界を分かつ絶対不可侵の領域だった。 僕もトルクカも毎日そこを見て暮らす。それ以外にすることもしたいこともありはしないのだ。境界線のさらに向こうに広がる、彼方の世界をただ夢見る以外には。 西のアカと呼ばれるその世界は、全てが紅い世界なのだという。僕らはそれを推測することしかできない。蒼い世界からものを見るしかない僕らは、向こうの世界が紫色に見えてしまうのだ。それはきっと向こうの世界から見ても同じことだろう。 完結した存在であるはずの僕らが、それでも生き続けていくには、届かぬ場所が必要なのだとトルクカは言った。死をなくし、性別の意味さえなくしてしまった僕らは、届かぬ場所があるということそのものが、生きる意味なのだと。 だから僕らは夢を見る。いつか、絶対不可侵の境界線を越えて、向こうの世界の人と触れ合うその日を。 その日がようやくやってきた。その日がいつか決まっていたわけではないが、誰もが今日がその日だとはっきり悟った。 何百年とアオの世界に生きてきた僕らが、一斉に境界線目指して、歩みだす。誰にも笑顔があった。そりゃそうさ、僕らはこのために、この日のために生きてきたんだから。 死がないはずの世界で、唯一命が消えてしまうことがある。境界線を越えようとすることだ。僕らの身体が境界線に触れたとたん、僕らを支えている何かが終わる。生が終わったものは、その場にくずおれ、たちどころに砂に帰る。僕らはそれだけに気をつけ、また、いつか自分もそうなるということだけを夢見て生きてきた。目指すべき向こうへは、命を賭してさえたどり着くことは叶わない。 それでも、僕らは歩みを止めない。歩く。進む。駆ける。歌う。 僕らが境界線に至ろうとした時、西のアカの世界からも、人々がこちらを目掛けて駆け寄ってきていた。 ほら、やっぱり。そうだ。これが、僕らの約束の日。 長い長い生を終え、届かぬ彼方をついに目指す。 僕らが死ねば、世界は終わるだろう。アオも世界も、アカの世界も。 でも、でもさ。 多分僕らが事切れた境界線の上では、いつか花が咲き、綿毛を纏った種子を実らせ、やがてそれは天に昇る。高く高く、僕らが飛べぬはるか空の果てまで飛んで、そこできっと芽を伸ばす。 それが夢想に過ぎないのだとしても、もはや誰も歩みを止めはしない。境界線の向こうに見える、アカの世界の人々に向けて、僕らは「こんにちは」と、不思議な響きの挨拶をした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あー、物語にしきれなかった。残念。
幸せの綿毛を探しに行った少年の話。 少年は、綿毛を探しに行った。 といっても、普通の綿毛ではない。 不死鳥が落とすという紅の綿毛。 不死鳥というのは、炎の鳥で、この世とあの世の境界線なんてとっぱらっちゃうくらい凄い鳥。その尾羽さえあれば死者をよみがえらせることができるという。 でも、少年は死者をよみがえらせることになんて興味はないし、綿毛くらいあれば十分だと思って旅に出た。 それから十年後。 少年は青年と呼べるくらいのときになり、ふと気付いた。 不死鳥は再生の鳥だから、綿毛がぬけても再生しちゃうんじゃないのかな。 じゃあ、不死鳥の綿毛は永遠に生え続けるわけだから、世界は不死鳥の綿毛だらけじゃないのかな。 そんなことを考えていると、彼は不死鳥のいる島をようやく見つけた。 そして、その島は、不死鳥の綿毛でいっぱいだった。 青年は歓喜した。 そして、絶望した。 こんなに綿毛があるとすると世界は、何百年後、何千年後、もしくは何万年後かには不死鳥の綿毛で覆い尽くされてしまうのではないかと。 青年には関係のない話だけど、未来が怖かった。 でも、不死鳥の羽を燃やしても、再生してしまう。だって、不死鳥なんだし。 まぁ、青年には関係のない話だから、とりあえず売れるだけの羽を持って、彼は島を後にした。 どうせ、彼もいつか死ぬんだし。 あ、でも不死鳥の羽があれば死なないのかな? じゃあ、やっぱり綿毛を売ろう。 人間は死ぬから楽しいんだと、改めて思ったよ。
黄昏時の風に吹かれてたんぽぽの綿毛が一つ、また一つと飛んでいく。風の吹くまま、何にもとらわれずただ自由に。 ふわふわふわふわただよって、空と大地の境界線を描いてゆく。 そんなたんぽぽの綿毛達が無性に、羨ましい。 この部屋から出ることが出来ないからだろうか。 今のわたしには、世界に飛び立つたんぽぽの綿毛にさえも憧憬の念を抱かずにいられなかった。 心の奥底からの羨望、渇望。 これはきっと普通に過ごしていれば、絶対に気付けなかったもの。 ――広い世界に出て、ただ世界の中を歩きたい。 ああ、何気ない日常(もの)というのは、失ってから恋しくなるのか。 開いた病室の窓から、黄昏時の風が流れ込んでくる。 紅い空にただよう綿毛が一つ、わたしのところにやってきた。 わたしはそれを両手で受け止め、そっと優しく抱いた。 ○ その夜、わたしは夢を見た。 わたしは、空と大地の間をただようたんぽぽの綿毛だった。 心地よい風に乗って、ふわふわふわふわ。 どこに向かうかもわからず、ふわふわふわふわ。 太陽が昇って、沈んで、月が昇って、沈んで。 ある日わたしは、ひび割れたアスファルトに落ちて、芽吹いた。 わずかな隙間から降り注ぐ太陽の日差しと雨粒を受けて、わたしはどんどん成長した。 やがて春を迎え、大きな黄色い花を咲かせた。 誰の目にもとまらない、どこにでも咲いているたくさんのたんぽぽの一つになった。 太陽の日差しを受けて花を開き、月の光を浴びて眠る日々を過ごした。 そうして、黄色い花はいつしか枯れ、わたしもまた真っ白な綿毛を付けた。 幾百の綿毛たちが、わたしと同じように風に乗って飛んでいく。幾百の綿毛たちが空に向かって並んで飛んでいく。 親たんぽぽであるわたしはそれをただただじっと見上げる。 連なり空へと向かう綿毛たちが天国へと上る真っ白な階段みたいに思えた。 ○ ある病室で一人の少女が息を引き取った。 彼女は14歳で病に倒れ、18歳という若さで亡くなった。 生前は外に出ることも叶わない体だったため、窓から外の景色を眺めることが彼女の日課だったという。 彼女の最後は、穏やかな死に顔で眠るようだった。----------------------------------------大それたタイトルをつけてる割には内容は薄いですね……。
「生まれる線」ふと、私に目ができた。口ができた。耳ができた。首が、肩が、腕が、胸が……最後に足の爪ができた。綿毛のようにあたたかく、這いずりまわるように気持ち悪い、くねくねとした、どくどくしたなにかが私を形成していった。まっすぐな線が私のつま先から延びていた。寸分違わない真っ直ぐな美しい透明な線だった。その線を隔てて右と左ができた。 右からはもわっと熱気が伝わってきた。とても高い塔が見えた。その上には強い光があって、その下には濃く長い影が延びていた。雄たけびが聞こえたかと思えば、歯を食いしばって泣く声、何かがぶつかり合う音、楽しそうに狂気的に笑う声が聞こえた。楽しそうだと思ったけど、恐ろしくなる音もあった。ときどき胸のあたりに重く圧し掛かる何かを感じた。 左からは華やかな香りがした。時々ツンと嫌な匂いがした。こちらには大きな深い穴があった。穴からはこぽこぽと水音がした。きらきらと水の玉が跳ねている。その水玉の中で時折紅が見えた。囁くような優しい声が聞こえたと思えば、金切り声が、陰湿な声が、高笑いが、物を壊す音が、甘美な喘ぎ声が聞こえた。艶やかで美しいと思ったけど、恐ろしくなる音もあった。ときどき胸のあたりをぐしゃぐしゃに潰す力を感じた。 私はどちらか選ばなくてはいけないのだ。知っている。この線を見た時から知っている。 どちらも楽しいのだろう。嬉しいのだろう。でも、どちらも苦しいのだろう。痛いのだろう。 さて、どうしたものか。とりあえず、転ぶまでこの線の上でも歩いてゆこう。どちらでもいいけど、どちらがいいとは言えないから、私は選ばないことにする。だから、あなたたちが選んでほしい。私はあなたたちのためにそこに行くのだから。「おめでとうございます」 血と消毒液と汗と電気の匂いで頭がくらくらする。痛みの中で夢を見ていた。ぼやける視界の中で目しか見えない白い女が私に話かけている。「よく頑張りましたね。元気な……の子でしたよ」 紅いそれを怖々抱きしめると、あたたかくてまた私は眠りに落ちた。********************************昔似た作品を書いた気がするこの話題好きなんだなあと思う
>弥田さん「天使ちゃんマジ天使。」 前半と後半の乖離はある感じですかね。前半は繊細な情景描写。後半は、不条理会話。面白いというか、とらえどころがない作品になっている気がします。でもま、やっぱり弥田さんの文章のおかげで、これでもついつい読んじゃう力があるきがします。 頑張って、念で小説書く練習してくださいね。>とりさとさん「臨死体験」 軽く書かれてるんだけど、その分会話に勢いはあって、その面白さにやられたな、という感じです。地獄の門番(?)の子の、どSっぷりが上手く表現されていると思います。まあ、こういうのは、どっかで見たことある感じってのがどうしても出ちゃんだろうけど、それはそれとして、しっかり面白さを出せるというのは強みだろうなって。 とりさとさん、また遊びましょうね。>ウィルさん「不死鳥を探して」 まあ、適当っちゃ適当な話なんだけど、適当なりの良さ(?)は出ていると思いました。肩の力抜いて、あんまりややこしく設定やらを考えないで、おりゃー、と書いた良さ、とでもいうんでしょうか。ウィルさんとしても、この作品は特例的なものでしょうね。 次は時間が合えばいいものです。>紅月セイルさん「たんぽぽになった少女」 まさに習作、といった作品でしたが、ついに、ついに完結した!と喜んでおります。そりゃ、話としてはちょっとシンプルすぎるけど、三語を練習として捉えるなら、十分ありな作品。ちょっとずつ完結を前提とした上での話の広げ方を覚えていけばいいと思いました。 僕の誘いに乗ってくれて、ありがとうございました。>李都さん 一体なんの話ー? と思いながら、ああそうか、と読者が気づくことで面白さが出る話ですね。文章は李都さんのとして読むなら、ちょっと急いている感じが出ちゃってる気がしました。でもま、三語でしたねw。 李都さん、また遊んでください。>自作 いまいち頭が働かなかった。設定紹介になっちゃってるのが残念。強引に仕上げちゃったなあ。