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RSSフィード [386] 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します
   
日時: 2018/06/03 21:56
名前: 朝陽 ID:/DgOm3.I

●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。

▲必須お題:「火山島」「音信不通」「神髄」
▲任意お題:
▲任意縛り:

▲投稿締切:6/10(日)23:59まで 基本的に毎週日曜です。連休のときは連休の末日。投稿がない場合、延長することがあります。

▲文字数制限:6000字以内程度

▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

メンテ

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Re: 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します ( No.1 )
   
日時: 2018/06/04 00:11
名前: もげ ID:2c6.RTF2

 私の家族は周りとはちょっと違う。
 父はとても自由で天真爛漫な芸術家。たいていふらりとどこかに出掛けていて家にいることはほとんどない。
 小さい頃からそうだったので別段気にしたことはなかったが、会う頻度といったらそれこそ父親と言うよりは叔父さんといった方が一般的な感覚に近い。
 愛されていることは分かるし私の方も慕っているが、一等親の血縁としてはあまりにも疎遠な気はいささかしている。
 母はと言えば、典型的なバリキャリで、言わば『一人で生きていける人』だ。
 それだからこそ、ほとんどいるかどうかもわからない伴侶を得ても、特に不満を言うこともなく、自分自身で収入を得て、家を守り、子を育ててこれたのだ。
 もっとも、それは父方の祖父母の援助あってこそではあったが。(なかなか嫁の元に帰らぬ放蕩息子を育てた負い目か、おじいちゃんおばあちゃんは私と母には大変甘い)
 母は母で趣味多き人なので、亭主元気で留守がいい、ということなのかもしれない。
 私自身はと言うと、小さい頃はいざ知らず、今は母の教育の賜物か(母は父のことを悪く言うことはなかった)、そんな父母を愛しているし、常に音信不通の父をもってしても、それはそれ、楽しんで生きているんだろうなぁと微笑ましく思うばかりである。
 だが、当人達がそう思っていても、周りの目はなかなかそうは思ってくれないようで、父が家に留まらないのは外に女がいるからだとか、夫婦の間にそもそも愛がないのではないかとか、そこまでいかずとも、自分の好きなことのために家族を顧みない父の在り方は、何かと陰で噂される要因となっているのは否定はできない。
 『かわいそう』と憐憫の目を向けられるのは甚だ不本意だが、それで自分をかわいそうだと思ったことは一度もないので、それこそ他人のことは放っておいてほしいというものである。

 とは言え、自分の父親の、あるいは夫の、所在すら知らないというのは些か問題ではあった。それぐらいは知っておくべきだったのだ。

 それは日曜日の、麗らかな春の陽気が気持ちのよい朝だった。
 洗濯物を干し終えて何とはなしにテレビをつけると、緊急速報と共に煙を上げる山の映像が映し出されていた。
 あまり知らない名前の、伊豆諸島かどこかの島の一つのようだった。
 冷えた麦茶をすすりながら、恐らく噴火をしたのだろう山の、それを取り囲む海の綺麗さなんかに気を取られていた。東京都にもこんな綺麗なところがあるんだなぁ、なんて。
 なので、続いて見知った顔写真が画面に映し出された時は、本当に驚いてコップを取り落としそうになった。
『……なお、島へと向かうフェリーの乗船記録に、芸術家で陶芸家の望月尚記さんの名前が残っていたことから、現在も噴火の続く島内に取り残されている可能性があるとみて、災害対策本部が安否の確認を行っております』
 けたたましい音がして振り返ると、母が空になった洗濯かごを取り落として茫然と立っていた。
「お母さん……お父さんこの島にいるの?」
「……わからない……」
「電話は!?」
 母は慌てて携帯をポケットから取り出し電話をかける。
 父にかけているのだろうが、しばらく経っても誰かが出る様子はない。
 すると突然自分の携帯が鳴り、発信元を確認するまもなく私はとっさに出る。
 父かもしれないと、勢い込んで「もしもし!?」と出ると、電話の主は父ではなく祖母だった。
『香奈枝ちゃん、よかった、お母さんの電話が繋がらなかったから。ニュースは見た?いい?お母さんとすぐにうちにおいで。お父さんの安否が分かったらすぐ連絡を貰うことになってるから。電話を空けておきたいからすぐ切るけど、お母さんにそう伝えて』
 そう言って、すぐに電話は切れた。
 我が家に固定電話は無いので、そういった公的な機関からの連絡は祖父母の家に来たようだった。
 私は母に急いでそれを伝えると、着るものもとりあえずすぐ近くにある祖父母の家に向かった。
 正直、何が起こっているのかよく分からなかった。まるでテレビドラマを見ているような感覚だった。

「常々、焼き物の神髄は土にあるって言って……火山島には興味があるって言っていたけど……まさかそんな」
 なんの音沙汰もなく、じりじりとした時間を祖父母と過ごしていると、母が泣きそうな声で言った。
「もっとちゃんと行き先を聞いておけば良かった。危険な場所なら止めれば良かった……」
 例えその場所を聞いていても、危険かどうかはきっと分からなかっただろうが、何か家族として出来ることかあったのではないかという後悔の念は自分にも心当たりがあった。
「……大丈夫だよ、きっとお父さんのことだからふらっと何食わぬ顔して帰ってくるって」
 それは気休め以外の何物でもなかったが、母の顔を見たら言わずにはいられなかった。実際、自分自身もそれが言霊となり父を救ってくれるよう祈る気持ちった。

 祖父母も母も、だんだんと口数が減ってきて、一体何時間こうやってリビングでテレビにかじりついているだろうと思い始めたころ、突然母の携帯が光と共に電子音を発した。
 早押しクイズのごとく瞬時に母は電話に出ると、「お父さん!?」と叫びに近い声を挙げた。
 それからしばらく興奮した様子で相槌を打っていたが、やがて落ち着いて涙声になってくる。
 私たちはそれを固唾を飲んで見守っていたが、ようやく母がこちらを向いて大きく頷いた。
「お父さん、無事だって。島には渡ってたけど、噴火の前に地元の漁船に乗せてもらって違う島に移動してたんだって」
 それだけ言うと、再び電話口の向こうとの会話に戻っていった。
 私と祖父母は顔を見合わせて大きなため息を吐いた。知らず肩に入っていた力が抜ける。私は机につっぷした。

 それから、父はきちんと行き先を告げて出掛けるようになった。
 私たちの家族は相変わらずだったが、「帰ってくることが当たり前ではない」という事を肝に銘じて、なるべく些細なことでも伝えあい、一緒にいる時間を前より大切にするようになった。
 このことは私達に家族というものを考えさせられる一件となった。
(おわり)

--------------
こんばんは。
うーん、いまいち終わり方がすっきり行かなかった。
でももう一週推敲する元気がないので投稿させて頂きます。
内容はともあれ、話を書き切るというのはとてもいい勉強になりますね。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します ( No.2 )
   
日時: 2018/06/09 23:00
名前: ナカトノ マイ ID:.iHyBUuc

もげさん、こんばんは。
この作品を読んでとても優しくてほっこりした気持ちになりました。
勝手に家族をとやかく言う人たちに少し腹を立てたり、お父さんを心配したり、家族と一緒になって、ハラハラドキドキしました。
終わりの方に関して、もげさんご自身も仰っていますが、私もすっきりしないような感じがしました。何か余韻に浸るような文章がもう少しあるといいのかなと思いました。曖昧な助言しかできませんが、参考になれば嬉しいです。
素敵な作品をありがとうございました。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します ( No.3 )
   
日時: 2018/06/09 23:06
名前: ナカトノ マイ ID:.iHyBUuc

書き上げるのに60分以上かけてしまいましたが、投稿します。

どこかの火山島が噴火した。何気なくテレビを付けるとそんなニュースが流れていて、私の耳の奥では、ぼんやりと、彼の言葉が蘇ってきた。
「僕はさ、山へは畏怖を感じていたけれど、それ以上に人って恐ろしいものなんだって、今日、思ったんだよ。」
それは、山岳信仰を語る、彼らしい言葉だった。彼は何を思ってそう言ったのだろうか。彼の言う「人」には私も入っていたのだろうか。色々考えてしまうけれど、彼とはもう連絡を取っていない。しかし、日常生活のふとした瞬間に、彼のことが思い出される。彼がこのニュースを見たら何を感じるのだろうか、と意味もなく思いついて、私は過去からその答えを探し始めた。

彼と私は高校3年生の5月頃、席替えで隣の席になった。その席が決まるや否や、他の女の子たちが私の元へ来て「頑張ってね。」「可哀想に。」などと、私を哀れんでは声をかけてきた。初めはよく意味が分からなからなくてただ戸惑っていたが、後からそれが、彼と隣の席になってしまったことへの慰めだったのだと気づいた。
彼は所謂「陰キャラ」と呼ばれるような人だった。この呼び方は便利だけど、差別的で、でもその通り、彼はほとんどのクラスメイトから距離を置かれていた。私は彼に、あまり目立つ人ではない、といった印象しか持っておらず、実際はどんな人物なのか全く知らなかった。それだから、なんて失礼な女子達なのだろうかと思ったけれど、そうやって善人ぶっておきながら、私はすぐに彼と隣の席である現実を呪うことになった。
ある日、倫理の授業を受けているときだった。彼が妙にそわそわし始めたのが視界の端で分かって、どうしたのだろうかと思った。 彼の反応を見ていると、どうやら先生が板書した人物の名に反応したようで、彼は1人で何かをブツブツ呟き始めた。そして先生が「隣同士で話し合ってください。」と話し合いの場を設けると、彼は私に、堰き止めていた水を一気に流し込むかのように、その板書された人物についての思想や逸話などをベラベラと語り始めたのだ。
「二コマコス倫理学は読んだことがあるけれど、あれは面白いよ。アリストテレスの神髄に触れることができる。君も読んでみなよ。」
具体的な内容は覚えてないけれど、最後にそう言っていたことは何故か覚えていて、なんとなく宗教の勧誘みたいだな、当時の私は思っていた。
彼の声は小さく、だけど早口だったから、周りが騒がしいと何を言っているか分からなくて、適当に相槌を打つことが度々あった。さらに彼は哲学や思想が好きで、まるで知識をひけらかすようにマニアックな話ばかりをするから、私は内容をてんで理解できなかった。そんな彼の不遜な態度が周囲を不快にさせていたのだ。私も初めこそ真面目に話を聞いていたけれど、だんだん嫌になってきて、終いには、早く席替えをしないかな、と考えるようになっていた。
しかしある休み時間のことだ。その時間は世界史の授業を受けた後で、相変わらず彼は私にご自慢の知識をペラペラ語っていた。その時にはもう私はほとんど話を聞かなくなっていて、適当に相槌を打ってやり過ごすようになっていたのだが、その日は珍しく、彼が私に質問をしてきたのだった。
「中山さんは、世界史は好き?」
突然のことでとても戸惑った。いつも一方的に自分の話しかしない彼が、私に質問するだなんて!そう驚いた。今思えばその時の私も大概失礼な人間だったと思う。とにかく私は返事をしなければと焦った。
「うん。中国史とか面白いよね。三国志とか好きだよ。」
そこまで言って、はっとした。中国史が好きなのは嘘ではなくて、そのために大学に進学をしたくらいだから何もまずいことは言っていない。しかし、自分の趣味はあまり人に知られたくないと思っていた私は、無駄なことまで話し過ぎた、と感じたのだ。それを聞いた彼を見ると、それまで見たこともないくらい明るい笑顔をしたいた。そしたハツラツとした声でこう言ったのだ。
「僕もだよ!中山さんも好きなんだね。嬉しいなあ。」
それからというもの、彼は暇があると私に世界史の話をしてくるようになった。世界史の話なら私も多少受け答えができたから、彼は以前1人で喋っていた時よりも楽しそうだった。多分その時から私は、彼に同志として認識されたのであろう。
なんだか面倒なことになってしまったなと思っていたが、一方的に話を聞かされるのとは違って、自分が話をできるようになってからは、彼との会話も悪くないと感じた。世界史の話で盛り上がれるような友達はいなかったから、自分の趣味について遠慮なく話せることが嬉しかったのだ。彼は自分の好きなことを好きなだけ話すから、それでやはり嫌な気分になることもあったけれど、私もその分、負けないくらいに好きなこと喋った。お互いに気を使うことがなくて楽だった。しばらくして私たちは、趣味以外の他愛のない話もするようになった。その時には彼への印象はかなり良くなっていて、彼はよく自分の話をしたがるところはあるが、他人の話もしっかりと聞けるし、よく気を遣える人だということも分かった。仲良くなってくると、私たちは連絡先を交換して、携帯でもやり取りをするようになった。
彼の山岳信仰の話を聞いたのはちょうどその頃だった。確か何かの流れで将来の話になって、そこで初めて彼が進学を目指す理由を聞いたのだ。メールでのやり取りだったから『明日詳しく聞かせてよ。』とメッセージを送ると、『オッケー^ ^』と嬉しそうな返信が来た。そして次の日になると、
「中山さんが興味を持ってくれるなんて!嬉しいなあ。」
と言って、山岳信仰について教えてくれた。山岳信仰は、山を神聖なものとする自然信仰の一種らしく、それを研究したくて彼は大学を目指しているらしい。彼のおじいさんがそういった思想を強く持っているそうで、その影響だと言っていた。
「信仰対象は沢山あって、水源としての山に対してだったり、火山に対してだったりするんだ。他にも色々。」
彼の山岳信仰に関する話は、いつもの哲学や、世界史の話をするときよりも熱が入っていた。そんな彼を見て、もしかすると、彼が哲学や思想の話を好むのは、宗教に熱心だからで、私が考えている以上に、彼は山に対して深い信仰心があるのではないかと思った。ただそう考えると、何だか少し不安になった。そういったものに無縁だった当時の私は、宗教に対して偏見があり、あまり良いイメージを持っていなかったのだ。勝手に私が不安がっていると、彼はこんな話をし始めた。
「かつて、山は女人禁制だったんだ。」
彼がそう言ったのを聞いて、少し、どきりとした。
「女の人は入れなかったってこと?」
「そうだよ。」
「何で?」
私は反射的にそう尋ねた。するといつもより声高らかな彼は、こう言った。
「何でって?女性が穢れたものだからだよ。」
——思わず、固まってしまった。そして「は?」と間抜けた声が出てしまった。その時私は、聞きたくないことを聞いてしまったと思った。
「何それ。」
そんな私の反応を見て彼は、少しキョトンとして、それから、あっと小さく声を上げると、焦って申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん。誤解しないで」
彼がそう言いかけたところで、私の斜め前の席から鋭い声が飛んできた。
「女性差別?」
声のした方へ顔を向けると、クラスの中心的な女の子の水谷さんがいた。彼女は明らかに不機嫌な顔をしていた。
「最低だね。」
彼女は強い言葉で彼を突き放した。彼は小さな声で、何かを言っていたが聞こえなかった。そしてそんな彼に追い討ちをかけるように、彼女はこう言い放った。
「そんな話ばっかりで、中山ちゃん、嫌じゃないの?」
何故そこで私が出てくるんだろう、と単純に思った。はっとして、彼の方を恐る恐る見ると、彼は少しうつむいて、黙り込んでいた。
「私は、別にそんなことないよ。」
私がそう答えると、水谷さんは難しい顔をして、
「本当に?」
と聞き直してくた。そんなこと、聞かないでほしかった。彼女の視線が真っ直ぐで、耐えられなかった私はポロリ、
「本当はちょっと、怖かった。」
と言葉をこぼした。

確か、そこでチャイムが鳴って、会話は途切れた。それからは気まずくて、私たちは一切口をきかなかった。しかしその日の夜、彼からメールが来た。
『今日はごめん。』
直接言えばいいのに、と思った反面、私は彼からメールが来たことにとても安堵した。私はすぐに返事を返した。
『そんなことないよ。誤解だったんでしょ?』
少し遅れて返信が来る。
『うん。昔は女性に対して差別的な考え方があったってだけで、今は無いし、僕も差別はしてないよ。ただ、誤解させるような言い方をしたことは、嫌だったよね。ごめん。』
『私は気にしてないよ。』
そう返信すると彼は短く、
『うん。』
とだけ返事をした。
何の「うん。」か分からなかった。私にそれは「う」と「ん」と句点にしか見えなくて、遠距離での会話で表情が見えないことを、もどかしく思った。私が彼への返事を考えていると、それより早く彼からのメッセージが届いた。
『もう馬鹿みたいに話したりしないから。安心してよ。』
その文面はなんだか別れ話をしているみたいで、私の心臓は大きく、どくん、と跳ねた。
『私は2人で話すの楽しいよ。』
私は勢いでそうメッセージを送った。その言葉は自分の率直な気持ちだった。今後も今までのように彼と付き合っていくつもりだった。しかし、彼は違った。
『でも、嫌だったんだろ?そうならそうと言ってくれれば良かったのに(笑)。気を遣ってくれてありがとう。おやすみ。』
その文を読んで、気づいたら私は彼に電話をかけていた。コールが3回くらい鳴ってから、彼は電話に出た。
「もしもし。中山さん、どうしたの?』
電話越しで彼の声を聞くのは初めて、なぜか少し緊張した。
『私は、本当に気にしてないよ。なんでそんな…。』
私は次に言う言葉を見つけられなかった。ただ、今の状況は良くなくて、漠然とここから抜け出したいと思った。でも何をしたら良いのか分からなかった。私が沈黙すると、彼はゆっくり、と言っても十分早口だが、彼にしては落ち着いた声でこう言ったのだ。
「なんでって?僕はさ、山へは畏怖を感じていたけれど、それ以上に人って恐ろしいものなんだって、今日、思ったんだよ。それだけ。じゃあ、おやすみ。」
ブツリ、と彼は会話を終わらせてしまった。耳元には、彼の言った、ジャミジャミした機械越しの皮肉が、薄く残っていた。私は悲しくなって、もしくは怒りで、泣きそうになった。
それから私と彼は、必要最低限のことしか話さなくなった。しばらくすると席替えがあって、私と彼は席が離れてしまった。彼は他の人にも同じような態度で、もう自分の趣味の話を語らなくなってしまった。それが良いのか悪いのか分からないが、クラスの人達は彼が大人しくなったと内心で喜び、水谷さんを持ち上げた。水谷さんはそんな周りに、自分は言いたいことを言っただけだと、別に得意になることもなく、クールな対応をしていた。それが私にとってせめてもの救いだった。

時が流れるのは本当に早くて、私と彼はどうにもならないまま、受験を迎え、卒業式を迎え、今はもう、大学生になってしまった。
あれから彼は音信不通で、春休みに一度だけ「最近、元気?」とメールを送って見たけれど、彼からの返事はまだ来ていない。私の送った短い文章が放置されて、時間が経つにつれ、諦めの気持ちは次第に強くなっていった。
そして今日、実家に帰ってきた私は火山島噴火のニュースを見た。モクモクと煙を上げる島がテレビに映し出される。私は、あの夜電話で彼が言っていたことは、彼の怒りだったのだと、今更になって思った。この火山島のように、彼は怒った。そんな気がする。私は何も見たくなくて、テレビの電源を切った。
私は気持ちを紛らわせたくて、高校時代に繁く通った本屋へ行った。別に何を買うわけでもないけれど、取り敢えず「歴史」と分類された棚を探した。するとそこには先客がいて、そのことを確認すると、私はすぐに踵を返して別の棚へ行こうとした。
「中山さん?」
ふいに、そう声をかけられた。振り返ると、棚の前にいた人がどうやら私を呼び止めたようで、こちらに向かって近づいてくる。まさか、と思った。
「葉山君?」
「うん、久しぶり。」
そう言って少し戸惑ったような笑顔を見せるのは、彼だった。
「元気だった?」
彼は私にそう尋ねた。彼の声を聞くのはあの電話以来で、心なしか高校時代より声が大きくなったような気がする。
「うん、元気。葉山君は最近どう?」
「僕もそれなりに元気だよ。」
「そっか。」
私の中では嬉しさと気まずさが入り混じっていた。私は言葉に詰まってしまって、それを察してか、彼はゆっくりと口を開いた。
「あの時のこと、やっぱり怒ってる?」
少し、返事に困った。だけど私は正直に、
「ちょっとだけ。」
と答えた。しかし本当に怒るべきは誤解を受けた彼で、私ではないのだと思った。
「『怖かった。』って中山さんに言われて、恥ずかしいことだけど、僕はそこで初めて自分のことを反省したんだよ。」
「……そうなんだ。」
「ネガティブなことって考え始めると止まらなくてさ。僕はあの時、女性差別なんてしてないって言ったけど、刷り込まれて身についた思想のせいで、本当はどこか他人を差別したり、自分は他人より学があると勘違いして馬鹿にしていたり、していたのかなって、そうやって思ったら、人と話すのが恐くなった。」
「……。」
何を言えばいいか、分からなかった。彼がそんな風に考えていただなんて、思わなかった。そして私は、山岳信仰について話す彼を無意識軽蔑していた私に、そこで気づいて、どうしようもなく恥ずかしくなった。そんな私に、彼はとても優しかった。
「中山さんが良ければなんだけどさ。」
「……うん。」
「また、連絡してもいいかな。」
彼は少し吃りながら言った。
それは私にとって最高の救済だった。なんだかその言葉が、私のいちばん欲しかった言葉だったのではないかと思ってしまうくらい、嬉しかった。
「もちろんだよ。」
声が裏返ってしまった。顔が赤くなるのが自分で分かった。でもそんなことはどうでも良かった。止まってしまった彼との時間が、再び動き始めたのだ。そのことが私には何より嬉しかった。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します ( No.4 )
   
日時: 2018/06/17 16:48
名前: もげ ID:TaC.xMq.

ナカトノ マイさん
とても引き込まれました。おもしろかったです。
青春時代ってこういうのあったなぁと思いました。
こういうひりひりした感情みたいなもの私も書けるようになるといいな。
ついついキレイゴトばかり書いてしまうので……。勉強になります。

一つだけ。段落の初めは一段下げたほうがいいかもしれません。
私はあまり気にしませんが、そういうのを気にされる方もいるので
それによって作品自体の評価に影響があるともったいないかと。
――とはいえ、私も段落を変えるタイミングがいまだにわからず……
文章を書くって難しいですね。

メンテ
Re: 即興三語小説 ―「火山島」「音信不通」「神髄」 〆切を6/10に延期します ( No.5 )
   
日時: 2018/06/19 21:22
名前: ナカトノ マイ ID:SxvueTsw

もげさんへ
ご感想をいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます。
「ひりひり」という言葉がとてもしっくりきました。私が物語を書くと、感情が先走ると言いますか、登場人物の言動が感情的で、冷静でなくなってしまうので、それが課題ではあるかなと思います。
段落に関して、ご指摘ありがとうございます。実は前回に書いたものも段落が空いていなくて、またやってしまったなと思いました。以後気をつけます。

メンテ

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