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RSSフィード [24] ニューカマーが来たら、やるしかない三語
   
日時: 2011/04/30 22:51
名前: RYO ID:RYrT6Amo

お題「ペルトン水車」「エアリア充」「気だるい午後の光」
縛り「誕生日を迎える」

というわけで、以上を踏まえて小説を書いて下さい。

締め切りは4/30 23時59分くらいでお願いします。

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僕の影は君の ( No.2 )
   
日時: 2011/05/01 00:16
名前: 羽田 ID:6ecca5GI


「ペルトン水車みたい」
 突然呟いた彼女が爪先でいじっているのは、丸まって死んだヤスデだった。汚い靴の先でつつかれ、ヤスデの死体は力なくほどけかけている。グロテスクな幾百もの足、メタリックな光沢を持つ黒い体、男でも腰が引けてしまう虫を彼女は平然と蹴っている。
「踏まないでくれよ、おい」
「私踏んだって平気だもん」
「そうじゃなくてさあ…」
 踏んだら、汚れるじゃないか。とは声に出さなかった。彼女の機嫌を損ねると後々面倒くさい。靴が汚れるくらいいいか、と彼女の好きなままにさせておく。落書きだらけの校舎裏で、汚い壁に凭れ、彼女と二人ひっそりと会話を楽しむ幸福感に少しでも長く浸っていたいのだ。自分から彼女の機嫌を損ねるなんて、そんな馬鹿げた事はしたくない…。
 不意にぐしゃりと嫌な音がした。
「うう」
 面積を拡大したヤスデの死体に思わず声が漏れ、彼女はその反応を楽しむように唇を歪めた。全く、やんちゃな性格をしている。
 可愛い容姿に似合わず、ひんやりとした陰の中で、陰険にヤスデの死体を痛めつけている。そんなギャップだって、好きだ。
「このあとの授業、どうするの?」
 ヤスデを蹴る靴は汚いだけでなく、ところどころ縁が黒く焦げた穴が開いている。靴紐は泥にまみれて、まるではじめからそうであったかのように深い茶色だ。その解れに気づいた彼女が屈みこんで、献身的に靴紐を縛り直してくれる。彼女の手は大きくて骨ばっているから、まるで男のそれみたいだった。それを指摘するとすっかり機嫌を損ねて、ひどくつねられた覚えがある。
 つねられた痕は、腕にまだくっきりと残っている。
「体育だろ、出たくないなあ」
「あは、苦手だもんね、体育」
「うるせーよ」
 小学生の頃から体育は大の苦手なのだ。他の教科も特別できた訳ではないが、こと体育となると目も当てられない様な醜い惨状を晒す羽目になる。ときにはクラスメートからの罵倒が飛んで来ることもあったが、休み時間になると彼女が必ず励ましてくれたので辛くなかった…。
「ていうか、おまえだって体育全然だめじゃん」
 苦手分野を共有しているのに、明るく上から笑ってくるのに苛立ってつい強い口調で彼女を責めてしまう。それが気に入らなかったのか、彼女は汚れた靴の先で煎餅のようになったヤスデの死体を思い切り蹴飛ばした。ペルトン水車に例えられたその形はあっけなく崩れて、パーツをこぼしながら予想したよりもずっと向こうへ飛んでいった。

 グラウンドにはたっぷりと春の日差しが差し込んで、柔らかく芽吹いた木々の下では仲の良い男女が肩を寄せ合っている。優しい光の満ちたなかで、彼らは幸福に微笑んでいる。
「ごめん。体育できなくったってさ、なんも悪くないよね」
「いじわる。きらいよ」
 すっかりへそを曲げた彼女はしばらく黙りこみ、不意に
「でも寂しいから、ぎゅってしてくれたら許してあげる」と唇を尖らせた。照れ隠しなのか、そっぽを向いて、小さく、ひっそりと。
 そんな彼女が愛おしくて、愛おしくて、たまらない。
「うん、ごめんな…ほら、さみしくないよ」
「うふ…」
 力いっぱい彼女を抱きしめたが、彼女の体はまるで抱きごたえがないのだ。だから、自分を抱きしめるみたいになってしまう。だらしのない余分な肉に彼女が押しつぶされて苦しくはないか、不安だった。


「あ…チャイムなったよ。行かなくちゃ」
 お互いの体温を補いあう幸福な抱擁を、電子処理された無粋なチャイムが遮った。彼女は恥ずかしそうに微笑んで腕を解く。愛おしいぬくもりを開放した胸に風がふきこんで、彼女のぬくもりの残滓を奪っていった。
 校舎の陰からでて、体育館に向かわなくてはならなかった。
 あの光の満ちた場所へでなくてはならないと思うと、彼女と離れなくてはならないと思うと、心臓が縮み上がり、顎が下がる。
「ね、元気出して。今日、帰ったら一緒に誕生日ケーキ食べようね」
 言われるまで気付かなかった。今日は、僕の…
「ていうか、誕生日一緒じゃん」
 でも、彼女の誕生日のことは思い出せた。
 それでよかった。



「またぶつぶついってる…キモッ」
「さっき自分で自分のこと抱いてたしな…」
 肩を寄せ合っていた男女がこちらに気づき、囁き合うように言う。ふたりとも綺麗な顔に不快気な皺を寄せて、残酷に笑って通りすぎていった。校舎の影が世界を二つに分けているようで恐ろしい。
 境界線を踏み越えて、向こうへ行かなくてはいけないのだ。
「ヤリマンビッチの言うことなんか、気にすることないよ」
 彼女は口汚く罵る。
「わかってるよ、気にするわけねえじゃん」
 そう、全く彼女の言うとおりで、あのヤリマンの言葉など気にする必要はないのだ。


(僕には彼女がいるんだ)


 グラウンドに一歩踏み出した途端に、彼女はいなくなる。
 気だるい午後の光は、なぜかひとり分の影だけをくっきりと照らし出している。 
 さっき蹴飛ばされたヤスデのそれと同じように、グラウンドにはたったひとつの影だけが落ちている。
「さみしくないよ」
 影のない彼女はそうつぶやいて、男のような手のひらで頬を撫でてくれた。その手には靴紐を直してくれたときの泥が汚くついていて、頬を汚したけれど。靴底に違和感を感じて足の裏を見ると、ヤスデのパーツがへばりついているけれど。

「さみしくないよ、だって君がいるじゃないか」



 
 またひとりごといってる、と、遠くで聞こえた。






 

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