黄昏の刻 ( No.7 ) |
- 日時: 2013/05/12 22:03
- 名前: マルメガネ ID:lj6qrXDs
残照がオレンジ色の物憂げな夕焼けとなって、画面から出てきたような町の光景を醸し出していた。 そのまま干されてカエルのミイラができそうなむせかえる熱気の立ち込めた国民総合病院の屋上のフェンスに掴まってその光景を見やり、雑草がきれいに抜き去られた中庭に視線を移したタツキは、小さくため息を漏らした。 奇跡の救出劇とさえ言われた事件から一ヶ月が経った。 あまり思い出したくもない極限の状態から生き延びられたことだけは彼も実感している。半分しかない視界にも慣れてきたし、傷も良くなってきている。今のところはリハビリテーションの毎日だ。 しかし、彼には復帰できるのかどうかという不安がつきまとっていて、 「それは病気です!」 と、宣告されそうなほど病んでいた。 「あら、ここにいたの?」 あれこれと思い悩み佇んでいると、不意に後ろからマダムの声がした。 日は落ち、すでに薄闇が広がっていた。それでも照り返しで温気がコンクリートから上り、少し息苦しい。 我に返り、振り向くとマダムと看護師が立っていた。 ああ、巡回検診の時間だ、と気づく。 慌ててタツキは病室に戻った。 「何してたんですか?」 そっとマダムに似た看護師がさりげなく聞いてきた。 「ぼんやりと夕焼けを見ていました」 タツキがありのままに答えた。 「そう」 口調までそっくりだ。 そこまで似ると、マダムは一体何者なのか、という疑念が湧いてきた。 一番近しい存在であるのに、一体何を考えているのだろう。 「もうじき退院できますよ」 彼女はそう言って病室を出て行った。
|
|