Re: 即興三語小説 ―GWはありましたか?― ( No.7 ) |
- 日時: 2013/05/05 18:48
- 名前: 葉月あや ID:CQBcgD1U
カエリタイ
青ちゃんが僕を捨てたのはついこの間のことで、僕にはこれが本当にあったことだとはまだ信じられない。 だって僕らが出会ったころ、彼女はいつでも僕を見て、微笑んで、時には撫でてくれていたんだ。彼女はあんなにも僕のことを好きだったのに。
「時間よ戻れ、時間よ、止まれ」 「もう止まってんじゃんねえ」 がらくたの上から腕時計が言った。 だから、俺らこんなところにいるのさ。いぶし銀の腕時計は一人ごちた。 僕の荒れ果てた心は一瞬、奇妙に澄んだ。 もう会えない、もう会ってはいけない。だけど会いたい。 僕はこれから死に損ないの爺にどうにかされてしまうのだから、一目、一目だけでも。 ああ、足があれば走っていくのに。 こんなところで分解されて、僕は、僕は……まだ死ねないんだ!
「で、どうすればいいですかねえ」 薄暗い時計店にて、店主である初老の男が、若い女性につぶやいた。 「ねえ。青柳さん。これ、いわく付きなんですかね」 「いや、そんなことは」 青柳と呼ばれた女性は店主の持つ懐中時計を震えながら見下ろした。 修理に出してていたその懐中時計からは、二本のひょろりと細い足が生えている。 それは無言のまま、彼女に向かおうと店主の手のひらの上で、ばたばたと不気味にうごめいていた。 店主と女性は神妙な面持ちで言う。
「捨てましょう」
完
飛び入りです。
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