Re: 即興三語小説 ―GWはありましたか?― ( No.6 ) |
- 日時: 2013/05/05 04:02
- 名前: 霙 ID:i0CsPwwM
懐中時計は思う
スマホにアイフォンにテレビにパソコン、その他もろもろ。今は多機能が当たり前の時代。 ただ時間を進めるだけの私達の需要は低い。とは言え、それほど悲観しているわけでもない。毎日がそれなりに楽しいから。チッチッチと私達は小さな声で会話する。
黄色と黒の縞が鮮やかな、早口な彼が買われて行った。みんな元気でねと、ケースから出され、リボンを着けた包装紙に包まれて、外の世界へと出て行った。羨ましくも皮肉交じりに、誕生日に時計なんて、せいぜいデート三回がいい所ね、別れたら二度と使って貰えないわと。この店で、一番豪華な宝飾で綺麗なアンナさんは、自慢の鼻を震わせ笑っていた。私達の鼻と言えば短針。そんなアンナさんが売れ残りのお局様だなんて、秒針が折れても決して言ってはいけない。安くてそれなりのデザインのは入れ替わりが激しい。彼らを何個見送ったのか、そんな機能は私に付いていないので分からない。
飽きられて、どこかに仕舞われたら、二度と出してはもらえないだろう。闇の中で他に追いやられた小物に時間を教えるだけだろう。それならまだしも、止まったら、私達は無口になる。この思考も失うのだろうか、それを思うとちょっとだけ時間が狂いそうになる。 そんなとき、一番大きい百年時計の青柳さんの笑い声を聞くとホッとし、修正できる。これからも青柳さんとアンナさんの売れ残りは鉄板間違いなし。
なぜ蓋が付いているのかよくわからないが、私は閉じられるその日を夢見る。ああ、眠ることなんてなかった。その日まで、まだまだ死ねないと言い変えよう。私達は、秒針が止まるその時まで、小さな声で会話する。
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