演習と実戦 ( No.5 ) |
- 日時: 2013/05/25 23:11
- 名前: マルメガネ ID:JXlolSQk
自由都市エレクを統括する人工知能HAL9000がタロットカードの女帝の姿を借り、グラフィックとしてオルティア帝国大総統府のメインコンピュータ室のモニターに現れた。 白いドレスを纏って王冠をいただき、手に王笏を持った清楚で凛とした顔立ちの女帝は、厳しい皇帝の姿を取った帝国を統括する人工知能HAL9120にゲームを申し込む。 そのゲームとは、実戦部隊の演習。 組み込まれた「深い穴」というコードネームの軍事演習プログラムによって、それは定期的に実施される。 女帝は直属の電子機甲師団を持っている。皇帝は陸海空全ての部隊を持ち、その中から選択している。 「女帝は直轄の電子機甲師団から戦車中隊、皇帝は陸軍機甲師団から戦車大隊を選んだようだ」 「どう見ても、俺は皇帝の戦車大隊に賭けるね」 「俺は、女帝が選んだ部隊だな」 抽選結果が通知された軍司令部ではそんな会話が聞かれる。 「おい貴様ら、勤務中であるのに何をしておるのだ?」 賭け事を始めた部下を叱責し呆れる上官の声がする。 演習の行方、そして結果はひそかな楽しみの一つになっているのだが、抽選された部隊は慌ただしい。 あくまで演習といえども有事を考えなくてはならない。 実弾と演習用のペイントマーカー模擬弾を用意して演習に望むのだ。
朝陽にきらりと最新鋭のジェット戦闘機の翼が光る。 広い野外演習場を招集された鷲のマークが描かれた戦車団と隼が描かれた黒塗りの戦車団が砂煙を巻き上げて疾駆する。 鷲のマークは陸軍機甲師団。隼のマークは電子機甲師団である。 合図の狼煙が打ち上げられ、演習が始まった。 重戦車、中戦車及び軽戦車で構成されるチームでフォーメーションを築きながら、それぞれに実戦さながらに撃ち合い攻撃をし、結果はペイント弾の着色と機体に取り付けられた衝撃感知センサーによってそれらは判定される。 その模様はライブ放送で一般市民にも流された。 「鷲も隼もかっこいいね」 「うん」 砂煙を上げて走行する戦車に子供たちが目を輝かせる。 重厚な重戦車にあっては速度があまり出ないが、援護で砲撃するさまは注目をひく。 いつかはこの子供らも戦車兵になるのだろうか。 「よっしゃ。隼が大鷲を仕留めたで」 「軽戦車も、重タンク相手にようやるよなぁ」 演習が進むにつれ、大人たちも熱気を帯びてきた。 結果が電子機甲師団と陸軍機甲師団ともに引き分けに終わると、夢から覚めたようにその熱気は健闘を称える声に変わる。 軽戦車は、高速移動はできるが火力は小さい。しかし、重戦車や中戦車と連携した動きと作戦によってはその特性を活かすことができる。 ライブ放送が終わった直後、臨時ニュースが流れた。 いままで停戦状態にあった隣国ミリティアと接する国境紛争地帯で戦闘が始まったらしい。 今度は演習ではない実戦である。付着したペイント弾の後処理をすることもなく実弾を装備し、直ちに現場に向かう。慌ただしいことこのうえなく、砂煙を上げて演習場から戦場へ向かう。 「先ほど演習していたのになんたる機動力。我が国もこうあってほしいものだ」 その戦車団を偵察していたミリティア偵察兵が驚き感嘆する。 「皇帝の鷲と女帝の隼が飛んでいった」 直ちに情報が暗号として隣国の軍司令部に伝達された。 「私たちの思惑は当たったかしら?」 「うむ。しかし、こうなるとは誰が予想できただろうか?」 誰もいないコンピュータルームで皇帝と女帝が囁く。 「ミリティアの電撃鳩ポッポ大作戦の機密情報が流れてくるとはね」 「しかし、貴方はなかなかの策士だな。実戦においてゲームの勝敗を決するなどとは」 「実戦に使えなければ意味ありませんもの。いずれにせよ、神の賽は投げられたわ」 女帝は静かにそう言い沈黙した。
==================================== わ~ん。中途半端になったよう。
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