Re: 即興三語小説 ―五月病なんて幻想です― ( No.5 ) |
- 日時: 2013/05/14 22:37
- 名前: Azu ID:GmrIP7Go
軍人
俺は、船で孤島に向かっている。 休暇中、家で妻子と過ごしていると赤字の手紙で呼ばれてここに来た。 赤字は最重要案件だ。 不満を残しつつ、必要な装備をそろえて本州から来たのだ。 到着すると、若い男が歩いてくる。かなり美形だ。 早死にするんじゃないかと思ってしまった。 その男が、俺の前で立ち止まり敬礼する。 「お待していました。半野准尉」 「おつかれ」 挨拶だけで終わる。前線で無駄なことを話す暇は無い。 そして、長旅の疲労をいやすため、俺は――この島にあるのがとてつもなく不自然な――軍施設で休息を取る。 しかし、俺の安息はどうやら無いようだ。 けたたましい警報が鳴る。敵襲だ。 だから俺は、愛銃のSIG SG550をケースから取り出す。 まだまだ幼かった頃、父が「使いやすいから」と渡してくれた銃だ。 父はどの経路でこの銃を手にしたのかは不明だが。 しかも、特別使いやすいわけでもなかった。 でも今では、SIGは俺の手にしっかりなじんでくれる。 この銃をくれた親父は戦争で死んでしまった。 そんな回想をしている自分に驚く。普段はこんなことはないのに…… 戦場に到着する。戦闘に感情は不要だ。だから俺は、無の境地に入る。 昔、この状態で一騎当千してしまったせいで、『荒ぶる神』、『軍神』なんて言われるようになってしまった。迷惑だ。 また回想している自分を、小気味よいリズムの銃声が引きもどす。 どうやら戦闘が始まったようだ。孤島はジャングルが多い。 頭の中から必要な情報をピックアップし、戦況などを無線で確認する。 どうやら、敵は一個小隊ぐらいらしい。 散開して一対一に持っていくという、司令官の頭が悪いのか、奇襲によほどの自信でもあるのかは分からないが、まあ集団を相手するよりは楽だ。 俺は、森と同化する。訓練で俺が身に着けた気配察知法だ。 これで、奇襲なんてすぐわかる。 森の声に交じって人の気配もする。 おそらく敵だろう。俺は、大樹に身を隠しながらそっとSIGを構える。 どうやら敵は前者のようだった。 あまり経験のなさそうな兵士がきょろきょろしている。 俺は、そんな敵の頭を狙い撃ち。 銃声に気づいて、こっちを向いてももう遅い。 俺のSIGから発射された5.6mm弾が敵の脳を貫く。 敵を1人排除。銃声で気配を察知されただろう。 しかし、おそらく敵は弱いだろう思いそのまま構えて敵を待つ。 それが――慢心を生む。 背後で銃声がする。自分の体を確認すると、左の肩から血を流していた。 油断した。俺自身に舌打ちしながら急いでこの場を離脱する。 敵が追い打ちをかけてくる。動きに無駄はなかった。 一目見て熟練の兵士だとわかる。 傷は、幸い動きにあまり支障はなかった。 痛みは感じない。アドレナリンが分泌しているせいだろう。 今頃、休暇でなまった脳と体が覚醒する。 時間が延びる感覚。敵の動きが見える。 56mm弾を撃ち応戦しながら、一瞬のすきを見逃さずに何とか敵を排除することが出来た。 しかし、怪我をした。俺は、一応無線で連絡を入れておき、隠れておく。 応急処置セットも、あまり役にたたなかった。 そのあと、痛みであまり動けなかったことと、接敵しないよう気配を探り続けていたため敵には会わなかった。 無線で、敵軍を殲滅したことが伝わる。 ――戦闘終了―― 俺は、帰投して軍施設に行き応急処置を受ける。 ここは最前線だ。死ななかっただけよかったと思える。しかし油断したのは減点だ。 そのまま治療を受けた俺は、部屋に戻る道で傷の痛みに顔をしかめながら、本州にいる妻子を思い出す。 少しセンチメンタルになっているのだろうか。 俺らしくないと思いながら、妻子に気持ちを傾ける。 手紙でも書けば喜ぶだろうか。 そんなことをしたら妻が怒るだろう。 「まるで遺書じゃない!」と言いながら。 俺には、不甲斐ないが妻子を喜ばせる方法が思いつかない。 だから、せめて妻子に手がいかぬようこの最前線で耐え続けようと思う。 決意を新たにする。 そして俺は、妻子の笑顔を頭に浮かべながら、また新たな闘いの日々に身を投じていく。 ――――大切な家族を守り抜くために――――
Fin
あとがき
戦争物書いてしまいました。挑戦しました。
お題「荒ぶる神」「赤字」「無の境地」 縛り「美形を登場させる」 任意お題「孤島」
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