いつもの地下室で。 ( No.4 ) |
- 日時: 2011/08/29 00:10
- 名前: tori ID:bmGzU3r6
さう、地下にあつた箱を開けると、そこには死んだ女の首をホルマリンに着けたのが入つてゐた。それを見て、下男の俊蔵は、 「前の旦那様は狂つてゐたからなア」 と呑気に構えた。ぼくは、 「さういう訳には行きません。これは立派な犯罪の証拠ぢやありませんか」 「ぢやあ、若様はこれを警察に届けられるのですか。然したら、私たちはみイんなブタ箱いきだ」 「法は法で、それに、ぼくは父様と違うんです。悪いことは悪い」 カリ、という音がした。ふり返ると、妹が地下室の入り口のところにゐて、爪を噛んでゐた。カリ、カリ、カリ、と妹は爪に噛みついて、血が破瓜したやうに流れて、じわり、と、妹の着てゐるレエスのある白い服に染みをつくる。 「だうした?」 さう問うと、妹は爪を口から離して、冷たい目を瓶の中にある女の首に向ける。 「お兄様は、そのお首に心当たりがないのですか」 「心当たりも何も、これは父様のやらかした犯罪の証拠ぢやないのか」 「さうですか。なら、最終的に私は喜んでよいのですね」 「何が?」 妹は階段を下りてきて、俊蔵の脇に立つと、彼のことを小突いた。すると、俊蔵は妹のことを一瞥した。怖気づいたやうな怯えを一瞬間だけ彼はみせて、地下室の、この狭い空間に所狭しと並べられた箱で、まだ開けていないものの一個を選んで開けた。箱の中には、足が入つてゐた。首と同じ然うにホルマリンに浸けられてゐる。 俊蔵は次々に箱を選んで開けていく、どこになにがあるのか全て熟知してゐる人間のやうに。それで、ぼくは思わず声を荒あげて、 「おいおい、お前はこの惨事を知つてゐて、ぼくに黙つてゐたのか」 「お兄様は黙つてゐてよ」 妹がピシヤリと言う。常と違う厳しい口調に、ぼくは一瞬ひるんだ。 いつのまにやら、地下室の床にはバラバラにされた女の体のそれぞれ瓶に詰められたのが並べられた。ぼくはその全体像が顕になるにつれて、一つの事実に気づいた。 女の乳房、その特徴的に乳輪の広いのには見覚えがある。ぼくが子供のころに家庭教師として着ていた女の、確か名前はスミレだつたか、その女の乳房に瓜二つなのだ。 妹はぼくの腕に絡みつくと、艶つぽくしながら、 「俊蔵、これは誰の死体かしら」 「スミレ様の死体です」 やつぱり! とぼくは思うと同時に父様が憎らしく思つた。スミレは、ぼくが始めて好きになつた女性で、ぼくが思いを遂げると同時に失踪したのだ。その悲しい出来事の真相が、これか、とぼくは心の中に吐き捨てた。 「警察に言わねばなりません。然うでなければ、ぼくの気が済まない」 妹は凝うとぼくの腕を自分の体に押しつけた。それから、 「俊蔵、他にも同じやうにバラバラにして保管してゐるのは何個あつたかしら」 「ちようど五個あります」 え、とぼくが思つて妹を見ると、妹はぼくの唇に唇を押しつけた。触れるだけではなくて、舌を絡めやうとする深い口づけをして、 「お兄様の恋した女を、私が俊蔵に命じて、ここにコレクシヨンさせたのよ」 いつか私も、と、妹は付けくわえた。
---- 書きっぱなしだ。。。
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