Re: 即興三語小説 ―五月病なんて幻想です― ( No.4 ) |
- 日時: 2013/05/14 00:33
- 名前: しん ID:M1UiF52c
無の境地
みなさん『無の境地』って知っています? 私、最近知ったんですけど、これって満ち足りているということらしいんですよ。 全く逆のイメージ持っていませんでした? でも、逆ってわけでもないんです。現在の状況を満足しているということであって、お金や物質的に満たされていなくても、それでも心が満ち足りていれば、それが『無の境地』って言うらしいですよ。 偉いお坊さんしか、到れないのかなって思ってたんですけど、そうでもないんですよ。
私は息を切らせて、廊下を走る。 時折、先生の注意の喚起を促すけど、私はそれに大声で謝罪しながら走った。 なんせ向かっているのが、職員室だから、近づくにつれて、注意は増えていくのでいちいちかまってられない。 職員室の前につくと、大きな掲示板があり、名前が貼り出してある。 名前の一番上に一つだけ、赤字で書かれているのが目当ての名前だった。 思わず歓喜の声をあげてしまう。 嬉しくて、一緒に喜ぶ相手を探して、周りを見回すと、名前の当人が近づいてきていた。 「神(じん)!」 思わず駆け寄って、抱きしめたいけど、最近は嫌がるので、それはやめておく。 「すごい一位だったよ! 学年でだよ!」 「……知ってるよ。それより、ミキはどうだったんだよ」 貼り出す前に、本人には成績の書かれた小さな紙が配られて、本人には順位などが書かれているのだ。 神は貼り出された紙の名前を嘗め回すようにみて、 「のってないぞ」 当然だ。 貼り出されているのは三十位までで。私の順位はそこまで優秀じゃない。 えへへと笑いながら、誤魔化す。 「大丈夫。赤点はないし、普通だよ」 「大学とか考えているのか?」 何か呆れながらいってくる。 「まだ高一だよ! 大学入試とか全然わかんないよ!」 「ミキはバカなんだから、今からちゃんと考えないとダメだって」 この言葉にさすがにむっときた。 ちょっと自分が勉強できるからって。 ぷんすか腕をくんで、神に背を向ける。 そこに、榊くんがいた。 「やぁ、痴話喧嘩かい?」 「そんなことないもん! 神が悪いんだもん!」 榊くんは同じクラスで委員長。 涼しげなイケメンで、クラスの女子の殆どが『いいよね』って褒める。 「そうか、なかたがいするっていうことは、まだぼくにもチャンスはあるのかな?」 最近何故かこの調子わ私に声をかけてくる。 「榊くん、いこ」 「喜んで、お姫様」 そのまま神をほおって、二人で教室へと歩をむける。 「お、おい、ミキ」 心配そうな神の声が聞こえてきたので、少し嬉しくなったけど、振り向いてやんない。 「教室にもどるんですぅー、違うクラスの人はついてこないでくださいぃ」 嫌味な言い方をしてその場を去った。 かわいそうだったかな?
教室に戻ると、榊くんは適当に挨拶して、いつもの席について、みんなと喋る。 榊くんは女子に人気あるから、みんなが聞いてくるけど、なんでもないよと、いつも通り答えておく。 ねぇ何喋ってたの? と聞くと、 「もしさ、無人島に一つだけ何か持っていけるとしたら、何を持っていく?」 船だよね。帰れるように。 絶海の孤島だから、船で帰れません。 そんなこと最初にいってよ。 携帯電話、パソコン、モバイル機器。 電波も電気もないから電池きれると動かないよ? だから、そういうことは最初にいってよ! みんなが、こういうことを喋っているのを聞きながら、考えた。 何持っていこうか。ダメ。全然わかんない。 水、食料、地図、電話帳、ガラスの仮面全巻。 みんなは次々いうけれど、私は休み時間のチャイムが鳴るまで、一つも思い浮かばなかった。
学校帰り、神と一緒に帰る。 学校で待ち伏せすると、嫌がるから、帰り道ではって、つかまえる。 「お前、あの榊くんって、どうなんだ?」 あ? 気にしてくれている? 妬いてほしくて、心配してほしくて、言ってみる。 「かっこいいよね」 「……ああいうのが、いいのか? あまり良い評判きかないぞ」 ふーんと、曖昧に相槌をうっておく。 「いいでしょ、神に、関係あるの?」 あってほしいけど素直にいえない。 「関係ねーよ」 「神の、バカ」 怒ったように、黙ってしまった。
それから数日後。 学校帰り、神と帰りたくて、外で待ち伏せするために、早めに下駄箱につくと、 神と榊くんが連れだって、校舎の裏の方へと歩いていった。 妙な胸騒ぎがするので、後をつけた。 学校に通っていて今まで知らなかったというくらい、辺鄙な道なき道を進み、人気がなく、喋り声などが一切きこえてこないような、学校内の僻地へとたどり着く。 「話ってなんだい」 榊くんがきいている。 つまり、神が呼び出したってことだ。 「ミキのことなんですけど」 自分の名前をきいて、おもわずどきっとする。 「ふむ」 「きいたんですよ」 神のどすの聞いた声。 「なにをだい?」 「賭けとかのことですよ」 ふーっと息をはき、肩をすくめる榊くん。 「本当に好きなら、いい。ただ賭けの対象や、もてあそぶだけなら、やめてください!」 「ふんっ、きみにいわれる筋合いはないね」 この言葉に神が反応した。 一気に榊くんにつめより、襟をつかむ。 榊くんは、そんな神の行動を予想できなかったようで、凄いあせっているのがわかった。 神は、成績も学年上位の優等生。スポーツはできなくて、がり勉。 私でもそんな荒ぶる神のイメージはもっていないのだから、榊くんはなおさらだと思う。 「いいですか? おれは本気ですよ。きみの言うとおり、ミキはおれのものじゃないから、言う筋合いはないから、本気で好きなら、仕方ない。ミキもまんざらじゃないようだし、でも賭けの対象や、もてあそぶだけに口説くのなら……」 神は榊くんの襟首をつかんだまま、壁にどんと背中をあてた。 榊くんがうめいた。 「わかった、わかったよ……」 それからしばらく、壁にぶつけたまま、睨んでいた神は、手を離した。 「約束ですよ」 「大丈夫だよ。心配しなくても、おふざけだよ。かわいいし、きみにべったりだったから、あの子をなびかせれるかって言われてね。売り言葉に、買い言葉だったんだよ。でも、あまりに無理だったから、あんなにボクに無関心な子なんて初めてだったからね。思わずムキになってしまっただけだよ。ぼくの好みじゃないし、彼女は、ぼくのことなんて好きじゃないよ」 そこで、私は我にかえって、ここにいると、二人が戻るときにみつかるので、急いで逃げた。
神を校門のとこで、捕まえた。 ここで待ち伏せると、みんなに見られまくるので、神が嫌がるのだけど、今はそれでいいと思った。 「神、かえろ!」 神に飛びついて、腕をからめる。 「おい、みんなみてるだろ」 「いいじゃん!」 口で嫌がる神だけど、決して早く歩かず、ゆっくりと私の歩調にあわせて歩いてくれる。 神の横顔をみていると、先ほどの神と榊くんとのやりとりを思い出して、幸せがあふれだして、頬がゆるんでしまうのが自分でもわかる。 「なにわらってんだよ、気持ち悪いな」 「気持ち悪いってなによ!」 「理由なく、笑っているからきもちわるいんだよ」 「理由、あるもん! ちゃんとあるもん!」 「はいはい、そうですか」 「ねぇ、神、勉強おしえて」 「は? いいけど、突然どうした?」 「今から、がんばるの」 「そっか」 「うん」 今なら、あの質問をされたら、答えが一つだけいえる。 無人島に一つだけもっていけるなら、神にする。神をもっていく。どんなとこでも神がいれば生きていけるけど、無神島では生きていけない。 だから、私は神と一緒にこれからもずっと生きていけるようにしようと思うの。 例えば大学とか。一緒のとこ行くためには、成績あげないといけない。だから勉強する。 神さえいれば、私は満ち足りているの。 これが私がいたった『無の境地』。
―――――――――――――――――――――――――――― 少し言い訳をば。 みなさんとは関係ない、自分のルールがあるのですが、完全に自分ルールをやぶっています。 三題の言葉をこじつけのようにつかっちゃっています。自然に使えるストーリーも思いついたのですが、「ラブなもの」が書きたいということで、こじつけまくりました。 無の境地は、意味は大体あってると思うのですが、彼女がいたったのは無の境地ではないでしょう。意味は検索しましたが、正直ちゃんと説明できていると感じる場所はありませんでした。 言い訳でした。
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