Re: 即興三語小説 ―「錦鯉」「ミッドナイト」「あこがれ」―締切8/30に延長しています ( No.3 ) |
- 日時: 2015/08/29 18:50
- 名前: マルメガネ ID:ArVVMI.o
R-18
一夜
ミッドナイトの色町は、今も昔も変わらない華やいだ賑わいを見せる。 道行く雑多な人の群れ。欲望とあこがれに満ちためくるめく夜の世界。 色町のシンボル的な存在になっている八角楼に明かりが点ると、色町はいっそう華やかさと賑やかさも増してくる。 八角楼に住み込みで働いているシンは、あてがわれたシンプルで小さな部屋に暖かみのあるぼんやりした明かりを点すと、窓の外に輝くネオンを眺めため息をついた。 とても男とは思えない少女に似た可愛らしい顔つきをした彼は、これから夜の営業をしなくてはならない、と思うと、外でうごめく雑多な人がうらやましくなってくる。 嫌、という仕事でもない。ただ池の中に飼われている金魚か錦鯉のように自由がない、ということになるのだろう。 しばらく窓の外を眺めていると、不意に業務用の携帯が鳴った。 ため息をついてその携帯に出ると、一階フロントからだった。客からの指名があり、対応できるか、という連絡だった。 「準備は整っています。どうぞ」 彼が了承し、携帯電話を切る。 数多ある八角楼の部屋の中から、自分の部屋を探し出すことはできるのか、という心配はいらない。 そこはフロントがしてくれるし、客が間違ってしまって来ても、案内できる自信が彼にはあった。 業務用携帯が鳴ってしばらくすると、部屋に設置されている呼び出しベルが鳴り、部屋のドアを開けるとラフな格好をしていて長い髪を後ろで束ね、偏光サングラスをかけた背の高い青年が立っていた。 それにシンは一瞬たじろいたが、 「ボクを指名された方ですか?」 と、立っているサングラスの青年に聞くと、 「ここだと思ったんだけど…」 と、少し困った様子でいた。 「どちらの部屋を指名されたのですか?」 「五階の西の端の部屋なんだが…」 「それなら、合ってますよ。ここの部屋で。どうぞ」 シンがそう答えて、サングラスの青年を部屋に入れた。 サングラスの青年は、シンの部屋のシンプルさと小ささに驚いた様子だった。 「小さくて、驚きました?」 「でも悪くはない」 そんなやり取りをする。 青年がかけていた偏光サングラスを外すと、美形で右目に黒い簡易眼帯が貼りついていた。 「では、始めましょうか」 シンが言うと青年がこくりとうなずき、下着一枚だけ残して裸になる。 ぼんやりと点った明かりに照らされた青年の体は、見かけによらずがっちりした筋肉質で、ところどころ大きな傷跡があり、背中には鯉の入れ墨があって、妖艶に見える。 その道の人かなぁ、と思いつつ、その青年の体にシンは見とれていた。 「驚いた?」 ベッドにうつ伏せに寝ころんで顔をこちらに向けた青年が聞いてきた。 「いや、そ、その…」 シンがあいまいに答える。心臓が高鳴り、ときめきを覚える。 震える手にアロマオイルを取り、寝ころんだ彼の鯉の入れ墨が躍る背中のマッサージをする。 シンが華奢な手を背から足に向かって滑らせると、青年は安堵に似た溜息と微かにうめき声をあげた。 「お兄さん。こういうところ好きなの?」 シンが聞く。 「というよりは、こういうところで働いていたことがあるんだ」 「そうなんだ」 そんなやり取りをする。 仰向けになった彼の発達した胸筋と腕とをマッサージしていると、彼は心地いいのか軽く寝息を立て始めた。 「終わりましたよ」 そっと耳元でささやいて彼をシンが起こすと、何か物足りないようなそうでもないような顔を彼がする。 そのあとで青年とシンはセックスをしまくって、何度もシンは昇天した。 ほんの数時間の短い間だったが、シンにはそれが一晩続いているような錯覚にとらわれ、コースの時間がきても気づかなかった。 青年が帰る。 彼の背を見送りながら、また来て欲しい、とシンは願う。 その晩はその青年の指名だけだった。 もう少し楽しい夢を見ていたかった、ともシンは思う。 そしてまた日にちが過ぎ、シンは色町の八角楼からいくつかの交差点を過ぎたところにある喫茶室で、やって来た青年と出会った。 青年はその道の人ではなくて、喫茶室の店員だったことをシンが知ると、ほっとしたようなちょっと残念な気がしてならなかったが、店員の青年は、くすり、と笑って耳元で、また今度行くよ、とささやいた。
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珍しく自分としては長文になりました。 しかし、内容が無いよう(泣)
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