傷心の出会い(後編) ( No.3 ) |
- 日時: 2011/02/28 19:02
- 名前: RYO ID:Ev6uDkY2
「先輩、俺たちも酔っ払いでしたけど、先輩も酔っ払いだったわけで――」 「ん~、なに? 私に口ごたえするつもり?」 二人の男のうち置くに座っている方が、彼女とやりとりをする。 「いえ、そういうわけじゃ?」 「あーそこの加藤君と呼ばれた、実は加藤君でない人。こっちは気にしなくて大丈夫だから」 もう一人の男がにっこりと微笑んで、司をその場から遠ざけようとする。 「いえ……」 司は一瞬、どう答えるか迷う。まだ彼女が司の左手を掴んでいて、その柔らかい感触が伝わってくる。 彼女から覗き込まれる。いや、確かに、この人たちとは初対面だけど、もしかしたら、実はどこかで会っているのかもしれない。でも、なんか怪しいし――。 「まぁまぁ、座りなさいよ」 司は彼女に左手を引っ張られて、半ば無理やり座らされてしまう。正面の男が苦笑混じりに溜め息を吐く。 「坂崎先輩、そうやって見知らぬ人を巻き込むのはどうかと思いますよ」 「日高。先輩に対して、何、その言い方は?」 「はいはい。ちょっと彼に、俺たちを紹介するから先輩はちょっと黙っててください」 「むー」 坂崎はちょっとふて腐れてみせた。 「それにしても君も人がいいね。これも何か縁だろう。俺は日高俊也。工学部の三年な。隣のが、同じく工学部の三村大樹。一年」 日高と呼ばれた正面の男が、紹介を始める。三村と呼ばれた男が司に軽く頭を下げ、司もそれを返す。 「で、この人が、坂崎智世先輩。一見、中学っと」 日高が言おうとしていた言葉を止めて、ちらりと坂崎を見やった。 「日高、今、何を言おうとした。先輩、怒んないから、正直に言ってごらん」 坂崎が半眼でにっこり笑って日高を見る。 「まぁこれでも、教育学部の修士の一年生だ」 「これでも、ってなによ! これでもって!」 司の隣で、坂崎が日高の方に身を乗り出して、ぷんぷんと頬を膨らませる。その様子が、可愛くて、可笑しくて司はぷっと吹き出してしまう。 「何が可笑しいの?」 坂崎の目線がキッと司に向く。 「あ、い、いえ……はい。すいません」 司は反射的に謝る。 「よろしい。加藤は素直ね」 坂崎は満足そうに、司に笑った。 「それで、君の名前は?」 「日高、話を逸らそうとしてるわね」 「先輩、ちゃんと自己紹介してもらわないと話が進まないでしょう」 そんなやりとりを三村はニコニコしながら見て、何も言わない。 「えっと、俺は加藤で間違ってないですよ。加藤司。心理学部の一年です」 日高が目を見開いて、司を見る。三村はぽかーんと口を開ける。 「ふふふ。私の言った通りじゃない」 坂崎は胸を張る。 「そんな馬鹿な」 日高が打ちひしがれている。 「いえ、でも、俺、あなたたちとは初対面だと思うんですよ。どこかでお会いしてます?」 日高が顔を上げる。 「だよな。そうだよな。俺の記憶違いであるはずがない」 日高は一人うんうんと頷く。 「やっぱり、初対面なんですね。良かった。俺の記憶違いかと思いましたよ。やたらと新歓に誘われて出まくっていたので、初対面じゃないかもって」 司も胸を撫で下ろす。 「むーなんか面白くないわね」 坂崎がまた頬を膨らませる。この短い時間でどれだけ表情が変わっただろう。見ていて飽きないな――司が横目に坂崎を見て微笑む。 「加藤君よ。まぁ、聞いてくれ」 日高が身を乗り出して、司に耳打ちする。それにあわせて、司も上体を前にする。 「この坂崎先輩は、こういう性格なわけだから、誰とでもすぐに打ち解けるんだけど、酔っ払うと見境がなくなって、本人はあてもなくというか、誰彼かまわずなんだろうけど、この前やった新歓じゃ、新入生全員潰しちゃったわけよ」 「え、そうなんですか?」 「この小さい体で、胃の中はブラックホールなんじゃないかと――」 「ひ、だ、か、くーん。何、いたいけな新人に吹き込んでいるのかしらね」 と、坂崎がいつのまにか、司と日高の間に割って入るように顔を近づけていた。ふっと、坂崎の吐息を耳に感じて、司ははっと坂崎を見る。 「いやー事実を言っているだけですよ。っと、もうこんな時間ですか?」 日高が店内の時計を見上げ、席を立つ。その視線にあわせて、司も振り返り、時計を見上げる。歪んだ秒針の回るシンプルな丸時計が、二時半を差していた。 「三時から約束があるんで、僕はこれで」 「やば。俺もこれからバイトの面接があるんで」 三村も日高に合わせて席を立った。 「何、二人とも。私というものがありながら」 坂崎はテーブルを駄々っ子のように叩いてみせる。それを見て三村と日高が苦笑する。 「残念ながら、私には彼女というものがあるのですよ」 日高が眼鏡を上げながら、混ぜっ返す。 「どいつもこいつも、彼女、彼女と。一人身の前で良い身分ね」 「先輩、俺はバイトの面接なんですけどね」 時間が押しているのだろう、三村が時計を二度見しながら呟く。 「そう言いながら、お前は女に不自由してないだろうが」 日高が三村のこめかみを小突く。三村は悪びれる様子もなく微笑む。 「いいわよ。いいわよ。私には加藤がいるもの」 坂崎が司を見上げて、にっこり笑う。 「そういうわけで、司君だっけ。先輩のことは任せた。君になら安心して任せることができる」 日高が司の両肩を両手で意味深にぽんぽんと叩く。 「え? え?」 戸惑う司を尻目に、日高と三村は店を出て行った。司はこれでは話しにくいと、坂崎の前に席を替えた。 「そう言えば、加藤君には、彼女はいるのかしら?」 悪戯ッ子のように坂崎は目をくりくりと輝かせて、聞いてきた。 「え、まぁ、なんというか……」 司は話すのをためらう。話そうとして、自分の中に抵抗感が生まれたのをはっきり感じた。「いない」と言ってしまえば、別れたことを認めてしまうようで、言いよどむしかなかった。 「あ、聞いちゃいけなかったか」 坂崎が先に口を開いた。司ははっとして顔を上げる。悲しそうな表情の坂崎がそこにいた。 「私もねぇ……」 坂崎が不意に司から視線を外してどこか遠くを見る。表情に憂いが宿っていた。さっきまでのむくれてみせたり、怒ってみせたり、笑ってみたりとは違って、それは別人を思わせて、司は瞬きさえ忘れて引き込まれていた。瞬間、司は唐突に理解した。この人も、別れたばかりなのだと。司は目を閉じて、息を吐いた。 「ああ、加藤君はまだ、注文してなかったわね」 「そう言えば、そうでしたね」 「ここはね。ラーメン屋だけど、サブメニューのつくねが美味しいのよ」 「つくね?」 「っていうか、ハンバーグ?」 坂崎はもう楽しそうに笑っていた。さっきまでの表情は嘘のように見えなくなっていた。 司はこのコロコロと表情が変わる坂崎に、惹かれだしている自分を感じていた。
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遅刻、了解しました。 って、投稿は私も明日になりますが。
投稿遅刻掲示板でも作ろうか(笑 締め切り、自己決定板。うーん……
記事を修正して投稿してください。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― というわけで、とりあえず投稿。 上手く行きませんね。相変わらず説明不足です。何のサークルだよ! なんでラーメン屋なのか、とりあえず先週の自分を問い詰めたい。
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