Re: 即興三語小説 ―金メダルじゃないといけないんですか? 銀メダルではダメなんですか? ( No.2 ) |
- 日時: 2012/08/17 01:30
- 名前: 水樹 ID:zH2lCF5Q
お題は、「倦怠」「ドーナツ」「悔恨」です。
ドーナツ化現象
火照った身体をアイスコーヒーで冷まし、甘さを抑えたドーナツを齧る。冷房が効きめを顕わにさせると、汗で滲んだ私の背中を乾燥させる。今日も暑いねと思うが口には出さない、聞いてくれる人が居ないのもあった。
一人でいるのに若干の飽きを感じ、かと言ってただ騒がしいだけのテレビを見る気にもなれない、耳に音を入れたくないのもあり、ふと何かを思い出したかのように小さい世界を覗くが、当たり前にドーナツの穴の先には誰もいない。買い過ぎたかなと食べきれない半分は冷蔵庫に仕舞う。こうして残りの半分は明日にし、無味無臭の簡素な一日を私は繰り返す。 ドーナツの穴の中にいる人、買い過ぎたドーナツを食べてくれる人は私の前から消えてしまった。
少しの間、距離を置こう、そう言って彼はこの小さな空間から出て行った。悔恨の情念も湧かない私は彼を引き留めなかった。些細な口論すら、彼との生活には生じなかったのを覚えている。何が倦怠なのかなと、日常を巻き戻すといつも思い当たるのは、過剰にお互いを求め合う事をしなかったせいだなと、それに突き当たる。 触れ合う事など決して出来ないのは最初から分かっていた。所詮はドーナツの穴からお互いを窺う関係。
彼とは違い、私は何かを諦めきれないのだろう。 私は未だ彼に依存し、心は脆く穴の空いたドーナツと化している。 それを仕舞う小さな紙の箱の中、この狭くて静かな空間に身を置いている。
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