真夏のドーナツ ( No.1 ) |
- 日時: 2012/08/14 19:39
- 名前: マルメガネ ID:cg.m.aRs
「あー。だりぃ。いまどきドーナツなんて、なんで買って来ねばならんのだ」 倦怠感全開でタツキがこぼす。 外は暑く、路面から陽炎がぬらぬらと湧き上がっている。 そればかりではない。折込のチラシにも期間限定販売、と書いてあったりもする。 これを逃すとキリトから遺憾の意を表されると同時に、悔恨を残すことにもなる。 自宅を出ると、あまりの暑さに卒倒しそうになった。 果たしてたどり着けるのかどうかもわからない。 しかし、文句を言われるのは嫌だ。 ぬらぬらと陽炎が立つ路上はまるで砂漠のようだ。出歩いている人などほとんどいない。 汗だくになってショップに行くと、炎天下のさなかにもかかわらず行列ができていた。 行列が極遅で進む。そして一人が倒れ、二人目が倒れた。 脱落者が続出してもショップに進む人々。 卒倒しそうな暑さに耐え、どうにかカウンターにたどりついたとき、それは売り切れていた。 最悪な気分だった。 しかたなく、すごすごとショップから撤退して、近くのスーパーに入る。 冷房が天国か極楽に感じる。 そこで物色して、限定販売のドーナツ似たものを探し当てた彼はそれを買い求め、またぬらぬらと陽炎が揺らめき立つ路上をふらふらになりながら自宅に戻ると、キリトが沸き立った麦茶を冷やしていた。 痛恨の一撃を食らった気がしたが、クーラーの効いた部屋は涼しさを通り越して肌寒ささえ感じる。 ぐったりしながら、スーパーで買ったドーナツの包みを開けると、外の熱気で炙られて出来立てを少し過ぎたような生温かさだった。 それをキリトはおいしそうに食べていた。 生温いドーナツと沸き立って間もない麦茶の組み合わせの妙な夏の午後のおやつになった。
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Re: 即興三語小説 ―金メダルじゃないといけないんですか? 銀メダルではダメなんですか? ( No.2 ) |
- 日時: 2012/08/17 01:30
- 名前: 水樹 ID:zH2lCF5Q
お題は、「倦怠」「ドーナツ」「悔恨」です。
ドーナツ化現象
火照った身体をアイスコーヒーで冷まし、甘さを抑えたドーナツを齧る。冷房が効きめを顕わにさせると、汗で滲んだ私の背中を乾燥させる。今日も暑いねと思うが口には出さない、聞いてくれる人が居ないのもあった。
一人でいるのに若干の飽きを感じ、かと言ってただ騒がしいだけのテレビを見る気にもなれない、耳に音を入れたくないのもあり、ふと何かを思い出したかのように小さい世界を覗くが、当たり前にドーナツの穴の先には誰もいない。買い過ぎたかなと食べきれない半分は冷蔵庫に仕舞う。こうして残りの半分は明日にし、無味無臭の簡素な一日を私は繰り返す。 ドーナツの穴の中にいる人、買い過ぎたドーナツを食べてくれる人は私の前から消えてしまった。
少しの間、距離を置こう、そう言って彼はこの小さな空間から出て行った。悔恨の情念も湧かない私は彼を引き留めなかった。些細な口論すら、彼との生活には生じなかったのを覚えている。何が倦怠なのかなと、日常を巻き戻すといつも思い当たるのは、過剰にお互いを求め合う事をしなかったせいだなと、それに突き当たる。 触れ合う事など決して出来ないのは最初から分かっていた。所詮はドーナツの穴からお互いを窺う関係。
彼とは違い、私は何かを諦めきれないのだろう。 私は未だ彼に依存し、心は脆く穴の空いたドーナツと化している。 それを仕舞う小さな紙の箱の中、この狭くて静かな空間に身を置いている。
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