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RSSフィード [39] 今日も今日とて60分三語! 今週は一週間三語とのコラボです
   
日時: 2011/07/31 22:21
名前: HAL ID:F2q05RQ2
参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/

お題: つぎの中から任意で3つ以上選択
「謝辞を考えて」「こんな嫁に誰がした」「リンク」「遠い空」「ビームサーベルは装備したか?」「このくらいにしといてやる」「嵐」

縛り:なし

投稿期限: 本日23:30

 ということで、今日も元気にいってみましょー!

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終末の夢 ( No.2 )
   
日時: 2011/07/31 23:19
名前: 片桐秀和 ID:3VouuYiU

 ありふれた光景といってよいのかはもはや誰にもわからない。
 街に子供がいる。多くの子供たちがいる。当然のことながら、しかしそれを目にし、その中で暮らしていれば、事態はやはり異常なのだと思わざるをえない。問題のひとつはその数なのだ。どこを見渡しても子供がいる。赤レンガが広がる街の、通りに、角に、路地裏に。一体どんな催しが開かれているのかと思うが、街にあるのは活気とは程遠い、生活に困窮する大人たちの恨み言や、溜息ばかりだ。
 もうひとつの異常は子供たちの表情にある。皆虚ろな目をし、結ばれているかさえ疑わしい焦点の先に、遠い空を見ている。私が目にする子供がそうだったというわけではなく、このアウネルの街に暮らす子供のすべてが精気とはかけはなれた表情で世界を見つめているのだ。笑顔を失い、感情を失い、育つことなくいつまでも子供のままで生きる存在。庇護するものがいなければ、たちどころに路頭に迷い、餓えて死に絶えるだろう。そのような子供たちは虚児と呼ばれ、このアウネルの街だけでなく、今や世界中に虚児はあふれているのだという。
 私が酒瓶片手に公演のベンチに腰掛けていると、一人の老夫と、一人の虚児が手をつないで目の前を通り過ぎようとしていた。祖父と孫といった構図ではおそらくない。虚児の表情に色はなく、老夫の表情は沈痛なまでに暗い。おそらく彼らは親子なのだ。いつまでたっても育たぬ子を育て続け、若かったはずの父親は老人となった。いつか育つ、いつか報われる、そう信じて虚児となったわが子を手放さずに育て続けたのだろう。しかし子は育たず、死期が迫り始めた老夫の支えになるどころか、生活の負担と、最大の心配の種となって、今なおそこにいる。
 彼らは何も特別な親子ではないのだ。虚児の数だけ親子はあり、世界を困憊の渦に落としている。いつか報われると信じ、それでも生き続けているのだ。
「いつだっていうんだ」
 手を繋いだ二人の背中が離れていくのを見ていると、ふいに呟いている私がいた。声にしていたことに気づいて、やるせなくなり、琥珀色の液体を一口あおった。彼らは決して特別ではないのだ。その証明のように、私にもまた虚児となった娘がいる。
 私は仕事を終えると、安酒を買って街のどこかで時間を潰す。理由はひとつだ。少しでも帰宅を遅らせるため、少しでも娘の顔をみないですませるためだ。
『あなたがもっとこの子を、サアラを愛してくれていれば、虚児になんてならないですんだんだわ』
 妻の悲鳴にもにた泣き言を思い出して、また私は酒をあおる。
 そんなことがあるものか。与えられるものは与えた。赤ん坊の頃は可愛がってやった。私なりには愛していた。本当に十分な愛情だったのかと問われるなら、自信をもって返答するにはためらいがあるにしても、それが私にとっては精一杯だったのだ。
 どれほど逃げて、遠ざけても、日が落ちれば帰宅せねばならない。私は空になった酒瓶を放り投げると、安息の場所とは程遠い我が家へと足を向けた。
 虚児たちが眺める遠い空。酔って歩いているとまるで私自身もそれを目指しているかのような気分になる。風が強い。嵐の前兆かもしれない。普通の子供であれば、嵐がくるとはしゃぐものだが、そんな気配は街のどこにもなく、私はただひた歩く。

 夢。夢を見ている。帰路へついていたはずが、私はどこかに倒れこみ、寝入って夢を見ているのだろうか。
 それはこんな夢だった。子供だらけの街に、ある晩、嵐がやってくる。不思議なことに大人たちは皆寝入り、子供たちだけがクスクスと笑い声を上げて、ベッドから起きだすのだ。子供たちは街の広場に集まって、両手をつないで大きな円をつくる。歌だ。歌を歌っている。それはたとえば子守唄。それはたとえば童謡。子供たちはそしてつないだ両手を空に掲げ、風吹きすさぶ夜空に大きな気流をあげる。するとどうだろう。子供たちは、まるで世界が反転したように、空に向かって浮かんでいく。空に向かって落ちていく。しかし子供たちは慌て怯えるどころか、笑みを浮かべてそれを楽しんでいるようなのだ。
 
 瞬きをする。一瞬だったか、長い時間だったか、私はおかしな夢を見ていたらしい。すべてを酔いのせいにして、残りわずかとなった帰路を歩く。私は少しばかり考える。虚児となったものたちは、みなが遠い空を眺めるようになる。まるで世界の果てをみるように。それぞれがリンクしあっているかのように。では子供たちが動き出すときとは一体いつになるのだろう。それはもしかすると、世の大人と呼ばれる私たち人間が老い滅んで、世界に子供ばかりとなったときではあるまいか。古いものは去り、子供たちはその時にこそようやく育ち始める。一体なんのためかはわからない。しかしそれは人間にとって新しい局面の始まりを告げる瞬間なのかもしれない。私たちはそのためだけに彼らを育ち、そのために死んでいく。
 全ては妄想だろうか。私はやはりそれさえ酔いのせいにして、我が家の玄関を叩いた。

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