Re: 即興三語小説 ―消去法の選挙になっている時点で、負けている― ( No.2 ) |
- 日時: 2013/07/29 02:41
- 名前: 星野日 ID:hXnnZyuw
「インプラント」「働いたら負け」「プリン!」
魔法少女という言葉がある。 広義には文字通り魔法を使う少女を意味し、狭義としては、魔法を使って悪と戦う少女を指し示す。 一般には秘されているが、我らが住む日本にはワルイーダと呼ばれる悪の組織が暗躍している。そしてそのワルイーダの戦闘員を打ち負かせるのは、魔法適性を持ち、かつ清らかな心と体を持つ少女だけなのだ。 しかし我が国際労働法には「健康、安全又は道徳を損なう恐れのある業務につかせることができる最低年齢は、18歳を下回らないもの」とする取り決めがあり、すなわち悪との戦いを社会的に強いる魔法少女というシステムは、国際的に違法なのである。 世界会議にて日本治安省が「ワルイーダに対抗するため万全のサポートのもと魔法少女を導入することは、やむを得ないことである」と発言したところ、各国のロリコン共から猛反発があった。曰く「少女を危険に晒すなど言語道断」「日本は第二第三の白虎隊を作る気か」「少女は花のように愛でるべきであり、手折ることがあってもそれはぜひ私の手で」などなど。ともかく、この会議での承認が降りない以上、ワルイーダ対策に魔法少女達を狩りだすわけにもいかず、日本は窮地に陥ったのであった。 もちろん日本やその他各国が手をこまねいているだけであったわけではない。日本は、自国を守る責任があり、他国にとっても日本の経済が傾けばその余波に当たることとなる。 研究の末に開発されたのが、乙女回路である。F*ck'in。 この乙女回路はもともと、インプラント・ブレイン・ハック、すなわち埋め込み型洗脳装置として亡国で開発され、禁制品となった装置を元にして作られている。心も体も清らかでなければいけないのならば、体が清らかな大人の心を無理やり綺麗にブラッシングしちゃえばいいじゃんという、腐ったロリコン共の歪んだ人権思想に基づいて作られた恐るべ装置だ。 つまり、畜生、彼氏いない歴三十なんとか年の私のようないわゆる喪女ちゃんの脳味噌をファブリーズしてキャピるん乙女思想にすることで、擬似的少女を作り出し、本物少女たちを保護しようという魂胆なのである。 いや、まだ私に危険は迫っていない。私が喪女であることは羞恥の、いや周知の事実であるのだが、魔法の適性があることは漏れていまい。これまでの身体検査でも、毎度巧妙に魔法の適性が無いように思われるよう策を張り巡らせてきた。 このインプラント手術を一度受けてしまったらもう目も当てられないほどにひどいのだ。 例をあげよう。このあたりの番を張っていた硬派な先輩が私にはいた。気に食わない奴は、老若男女構わず殴る。甘いものはほとんど口にせず、キシリトールガムを5個くらい一度に口に含み、下品にクッチャクッチャ噛んでいるようなどうしようもない女だった。それでいいのか四十歳独身。 それがインプラント手術を受けた後は、転べば「いたい」と言って泣きそうに成るのを我慢し、雑誌の甘味特集を読んでは「喪女ちゃん!美影屋のプリン美味しそうだと思わない? プリン!プリン!」と体を揺らしてお出かけさいそく。もう何この可愛い生き物。でも今年で四十歳。 一方、対ワルイーダ作戦でこの先輩は、魔法少女デビューの初戦から目覚しい結果をあげ、業界では期待の新人(40)と話題になっているそうだ。「キューティクル☆スプラッシュバスターぁ!」とちょっと舌足らずに叫び、キラキラした演出と共にワルイーダ戦闘員達を竜巻のようなデンプシーロールで血祭りに上げる様は、正に地獄絵図だった。これまで先輩が来に食わないと思った相手にこの技が放たれていたのかともうと、いやー、政府もたまにはいいことをしますなって思っちゃうよね。 と、かのように恐ろしい政府の陰謀をのらりくらりと私が交わしつつ、情報をあつめられているのも、私の魔法能力のおかげだ。いわゆる千里眼。この能力に、魔法少女としてのワルイーダ対抗力が備わればとても強力だろうと自分でも分かる。しかし、あんなアホみたいな人格に変わってでも日本守りたいかというと、そんな愛国心無いっす。働いたら負けだ。日本とか政府とか、そんなものに大して義理も感じない。 手術によって変わる前の先輩は、そりゃあもう恐ろしい人だったし、正直クソ女だし、へそ曲がりだし、頭も悪いし、いや手術後も頭は悪いんだけど、ともかく人間としてダメな人であったのは確かなのだが、私はそんな先輩が嫌いではなかった。積極的に好きだったかと言われると難しいが、少なくとも嫌いではなかった。 先輩は自分には甘いが、他人には厳しい人で、不誠実や嘘を見逃さない人だった。私が先輩と知り合ったのも、オヤジ刈りをする不良を見咎めた先輩がやつらをボコボコにし、そのテンションで被害者のオヤジと、通りすがりの私含む他三名ほどの通行人をボコボコにしてくださったからだ。 その先輩が、「敵さんを殴るなんて…そんなのサリーにはできないよ!」とか言ったり、「サリー。その気持ちはわかるわ。でも、私達がやらないと、みんなが苦しむの!」とか言われて、「う、うん……」とかころっと説得されてという回りくどいプロセスを毎回踏まないとワルイーダ戦闘員をボコボコにできないような性格になってしまったのである。恐ろしすぎる洗脳装置だ。 その先輩が「ねえねえ喪女ちゃん。この服かわいいよね」とか言いながらティーンズ向けの雑誌を開いて見せてきた。ふりふり、ひらひらな服をきた若々しい娘たちの写真が載っている。未だ正気を保っている私にとって、このみずみずしいパワーは目の毒だぜ…… あのね、あのね、と先輩がもじもじして何か言いたそうにした。「よ、よし言っちゃう!」だからなんなんのだそのあざとらしい可愛さ。「最近ね、私好きな人ができちゃったの」なんと。 曰く、先輩がとあるクラシックライブに出かけたら(耳を疑って三度聞き返した)、そこで素敵な男性と出会ったそうなのだ。いくつかのライブで再開するたびに親しくなり、今度一緒に出かける約束をしたのだという。 「割井田さんっていってね。とっても紳士的な方なの」 と、頬を赤らめる先輩。あーはいはいよかったねと思いながら私は先輩の買い物につきあうことになった。下着も派手なの買っといたらいいんじゃないですかと茶化したら「そ、そういうのは結婚してからなんだから! もう、喪女ちゃんってば!」と恥ずかしそうにデンプシーロールでボコられてしまった。
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まとまらなかった!!
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