発電少女ミライ(後編) ( No.2 ) |
- 日時: 2011/03/01 01:08
- 名前: ウィル ID:FMdlMn6w
九〇〇種類を超えるメニューのあるラーメン屋(?)に、ミライと名乗る少女が来店。少女は雷の精霊を身に宿す精人であり、同じく氷の精霊を身に宿す主人公、吹雪は彼女を家まで送ろうとする。だが…… あ、それはそうと、九〇〇種類ものメニューが存在するラーメン屋(?)には、定番なところでカレーやステーキ、変わった食べ物としては、のれそれ(アナゴの稚魚)や食用紅葉の天ぷらなどあるらしいが、変わった注文があった時、そのメニューに必要な食材を揃えることができるのだろうか? 仮に揃えられたとしても、客がほとんど来ない店ならほとんどの食材が腐ってしまうのではないだろうか? そんな疑問に答えられるのか? 「発電少女ミライ」(発電少女って、なんかエコっぽい名前じゃね? 自家発電っていいよね? ていうか主人公の吹雪とタイトルって関係ないよね? いろいろ考えさせられる作品だね)後半スタート!
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その子を生んだ母は病気でなくなり、その後、父も同じ病気ですぐに他界したらしい。彼を迎えてくれた親戚も、すぐに山奥の施設へと追いやった。 彼の唯一の救いは、施設の職員全員が暖かく迎えてくれたことにある。 施設は教育機関を兼ねているらしく、彼と同じように引き取られていった子供たちが学年ごとに分けられて勉強や運動をしていた。 その教育機関は子供が十歳になると卒業となり、その時行われる試験で優秀な成績を修めた子供はその施設の職員になれると教えられた。 彼も職員になれるように頑張った。 そして、試験の日。五十人くらいの子供達が集められたホールの中で事件が起こった。ホールは半径百メートルくらいの円形の密室で、周りの壁の一部の窓から、施設の職員が手を振っていた。それに気付いた子供が手を振った。赤い氷柱を腹から突き出して。 何が起こったのか、最初はわからなかった。 何人かが倒れたとき、彼はようやくそれが見えた。 何かが、彼と同じ子供の腹を突き破って飛んで行った。その衝撃で腹部から大量の血が噴きあがるが、その血が一瞬で凍った。そして、飛んで行った何かが再び別の子供の中に入り、その子も同じように腹を突き破られた。 彼は震える足を抑え、逃げて行った。その怪物から、少しでも遠くに行くように。 だが、他の子供は違った。その場に座り込んで泣く子、窓ガラスの向こう側で未だに笑顔でいる職員に助けすがる子、あろうことか怪物のいる方に逃げていく子。 その子たちは全員怪物の餌食となり、そして、それは最後に残った彼にめがけて飛んできた。
そして、三十分後。 彼は医務室に搬送されていた。 「おめでとう。君の名前は今日から吹雪だ」 職員のその時の言葉は六年経った今でもはっきり覚えている。
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「……本当にこっちでいいのか?」 「ええ、間違いないわ」 「言っておくが、俺はあんたを信用したわけじゃないぞ」 吹雪は“研究所のお姉さん”とミライに呼ばれていた女性とともに、ミライのいるはずの場所へと向かっていた。 『ミライちゃん、アイスクリーム買ってあげよう』 なぜ、木崎はミライの名前を知っていたのか。 吹雪も、そしてミライ本人も名前など言っていない。 「少なくとも、発信機なんてつけてる時点で怪しい」 「発信機じゃないわ。この機械は彼女の波長をキャッチしてるのよ。彼女は常に電波を垂れ流している状態で、その電波は特殊だからね。おかげで、あてもなく探し回らないで済むじゃない」 「それはそうだが……」 「それに、私の名前は紺野カエデよ。あんたなんて呼ばないで」 「……ふん。あんたで十分だ」 とりあえず、カエデの言うことが本当なら、道を迷う心配はなさそうだ。 吹雪は足元に力を集中させ、彼女の指示する道を作り出す。氷の道を。 二人の足には吹雪が即席で作った氷のスケート靴がつけられている。 少し慣れたスケーターなら、疲れることなく長い距離を素早く走ることができる。カエデもスケートは苦手ではないらしく、しっかりと吹雪の後をついてきていた。 「吹雪君は上手に精霊を使いこなしているみたいだけど、どうやってそこまで覚えたの?」 「……そんなこと聞いてどうするんだ?」 「ミライと関わる以上、私も精霊についてはしっかりと知っておかないといけないのよ」 「……復讐のためだよ」 六年前。吹雪が目を覚ました時、彼は職員に泣きついていた。「怖かったよ」「先生、助かったんだよね?」などと、自分を実験動物にして殺そうとした人間に対して泣きついて安堵した……フリをしていた。その時の彼は泣きわめく表の中に、冷たく残酷な裏が存在したから。《わざわざ医務室まで運んで治療したんだ。ここで殺されることはない》《今は体力も無い。機を待つんだ》などと冷徹に観察していた。その時、吹雪の心は完全に精霊に乗っ取られていたのかもしれない。 そして、彼は三日後に計画を実行に移し、研究所にいた職員を残らず凍らせた。その後みたのは、とらえられていた子供達の遺体と、吹雪の中にいる精霊の研究レポートの山だった。 吹雪の中にいるのは、氷の精霊であり、集められた子供は氷の精霊に適応する可能性のある者たちだったこと。氷の精霊の適応者が見つかったため、他の子供は用無しとなり全員処分されたこと。そして、この研究所にはいない他の研究者の名簿だった。 その時、彼は誓った。この名簿に載っている全ての人間に、こんなくだらない研究の犠牲となった者たちと同じ目にあわせてやると。 「そのためには力が必要だったんだ」 「そう……」 カエデがつらそうに言う。 「でも、復讐なんて辛いだけよ」 吹雪は何も答えない。 そうこうしているうちに、二人はある場所へとたどりついた。 「ここ……うちも使ってる倉庫街だ」 吹雪の父のラーメン屋(?)には九百種類ものメニューが存在する。それだけの材料を保管する場所として、倉庫は欠かせない。 ちなみに、冷凍手段は、吹雪の力による急速冷凍。素材を痛めない素早さが命だ。 「この倉庫よ」 そこは、吹雪の食糧倉庫の横にある倉庫だった。 「気をつけてね。木崎は、おそらく最初はあなたを狙っていたはずだから」 「……かもしれないな」 ミライがラーメン屋(?)に訪れたのは偶然だ。とあるエセ霊能力者がいうには、精霊同士は引力があって一か所に集まろうとすることが多々あるらしい。 なら、木崎の狙いは最初から吹雪だったのか、もしくは…… 「ただ、そんなのは関係ない。俺がするのは――」 鍵穴に水を入れて凍らせ、無理やり倉庫の扉の鍵をあけ、吹雪は中に入った。
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ミライは悪い人と出会ったことがない。少なくとも、ミライが生まれてから三週間目の先ほどまでは。 そもそも、ミライには三週間以前の記憶がない。理由はわからないが原因は知っている。 ミライの頭の中には、爆弾がある。 生まれた時から、彼女が気付いていたことだ。 ミライの頭の中に複雑にからめられた電気回路が、彼女の中で使ってはいけないと指定されたプログラムを作動させた時に自動的に発動するウイルスのようなものだ。 おそらく、いや、確実に三週間前、ミライのそれは役目を果たし、彼女は記憶を失った。 唯一それが爆弾と違うのは、役目を果たしてもなお彼女の頭の中に居続けているということだ。 そして、彼女は思う。 記憶を失う前の彼女も、おそらくこんな状態だったのだろうと……。 体中から伸びた電極が、大げさな機械につなげられ、ガラスケースに満たされたよくわからない液体の中に閉じ込められ、口にあてられたマスクから呼吸する以外に身動きすらできない (そっか……) どうして彼女は記憶を失ったのか考えていた。 彼女の頭の中のウイルスが発動するためのプログラムは、ミライの意思とは無関係に悪用されるというプログラム。そんなことをする人がいると思わなかった。 少なくとも、ミライの知る、カエデお姉ちゃんや、その妹、三週間前にミライを助けてくれたあのヒトや、その友達、そしてラーメン屋の店主も、ミライと接してくれた全てのヒトが彼女に優しくしてくれた。 (どうして、あのお兄ちゃんは、私をこのヒトに渡したの?) 確かに、あの吹雪という人は無愛想で優しい言葉をかけてくれるようなことはなかった。だけども、ミライはあの吹雪という人の中に何か暖かいものを感じていた。 だが、吹雪はこのヒトに私を引き渡した。おそらく、このヒトと仲間なのだろう。 ガラスケースの向こうにいる白衣を着た――木崎となのるこの男性の。 「おや、目が覚めたのか? 精人。いや、そもそも精人という呼び方は……いや、どうでもいいか。今の私には……」 (バ○タン星人なの?) そういえば、吹雪もそんなことを言っていた。もしかしたら、本当に宇宙人なのかもしれない。彼女は気付いていた。自分の力が普通の人には持ちえないことを。 「君は素晴らしい。君の力があれば、世界中の機械にアクセスできる。アメリカの核の発射さえ可能だ。もっとも、人の命を失わせる仕事に興味はないがね」 人にはない力など素晴らしくなんかない。ミライは幸せになれないのだから。 「大丈夫だよ、君の力をちょっと使わせてくれたら、本当にアイスクリームを買ってあげるからね。全てが終わったら、あの人ともう一度話すことができたら」 (たぶん、嘘だと思うの) ミライは思う。 それが本当でも嘘でも彼の願いも叶わないと。 なぜなら、すでに彼女のウイルスは起動しつつある。それはもう誰にも止めることができない。なぜなら、ウイルスはすでにミライの中にない。近くの場所にある数十カ所もの家庭用パソコンに時限付きウイルスを置き、時間がきたらミライの頭の中に浸食してくる。徐々にミライの記憶をくいつぶしていき、さらにはミライから伸びた電極を通じ、木崎の機械も使い物にならなくなる。 木崎が使い物にならなくなったミライのことをどうするのは、今の彼女にはわからないから。 今見ている景色ももう無駄なのだろうと、ミライは目を閉じた……が目を開け、その光景を二度見する。 「俺がするのは、ミライを助ける。それだけだ」 そこに、吹雪が経っていた。
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「ミライ、無事か!」 「なんだ、お前ら……私の邪魔をするな!」 木崎が拳銃をこちらにむけた。 「……いつから日本は拳銃大国になったんだ?」 日本での拳銃入手はそう簡単にはできないはずだ。 「彼女のためなら、私は鬼にも悪魔にもなる」 木崎は邪悪な笑みを浮かべて言う。 「それに、吹雪君。君の能力は触れたものを冷やすことだ。遠くにいる私に攻撃などできないだろう」 「……それはどうかな」 吹雪はそういうと、手を上に掲げた。 すぐに吹雪の手の中にそれが現れる。 玩具のように小さな氷の槍。ただし、水を凍らせたものではない。 「気体を凍らせてる。触れたら凍傷くらいじゃすまないぞ」 「君はゲームのしすぎのようだ。氷の槍だって? じゃあ、アイスランスとでも名付けたらどうだ? それをどうする? 投げるのか?」 「もっと大きくするのさ」 その間にも、氷のやりはどんどん大きくなっていく。といっても、せいぜい数百グラム程度の重さでしかない。 「お前、科学者なら知ってるだろ。空気っていうのはとっても軽いんだ。だから……」 吹雪は氷を少し口に含み言う。 「……どれだけ酸素の氷を作れば、部屋中の酸素が無くなるかな?」 酸素は三十二グラムで二十二・四リットルの空間に存在するという。 「バカな。空気の中から酸素だけを選んで凍らせるなんて芸当、お前にできるわけがない」 「そうかな? だんだんと苦しくなってきたんじゃないか?」 「ふん、知らないのか? この倉庫の天井には通気口がついてるからね。酸素には困らない」 木崎は再び銃口を向ける。吹雪はそれに対抗して、ライターを取り出した。 「いいのか? 俺が死んだらこの氷はどうなると思う? 一気に気化して……これに引火するぞ。なら、この研究所はどうなるかな」 これはまさに命をかけた取引だった。 だが、それに木崎は笑って答える」 「…………ハハハハハハハ墓穴をほったね。それが酸素の氷なら、なぜライターは燃えている? もしも酸素だけを凍らせているのなら、君の周りの酸素はかなり薄くなっているはずだ。なのに、どうしてライターはそうどうどうと、揺れもしないで燃えていられる?」 「そんなの決まってるだろ」 そして、吹雪も笑った。 「全部ウソだからだよ」 吹雪が言ったとき、銃声が響いた。 「ぐっ……」 うめき声をもらしたのは木崎だった。拳銃が吹き飛ばされる 「ナイス、カエデさん」 「本当に無茶な作戦を思い付くわね、あなたは」 「まぁ、倉庫の作りなんてどこでもいっしょだからな」 カエデは、熱斗が借りている倉庫の天井から木崎の倉庫へと侵入した。先ほど木崎が言っていた通気口だ。そこからカエデが入って天井から木崎の銃めがけて撃った。 「たく、たまたまワシが倉庫にいたからよかったものを」 カエデと一緒に、熱斗が倉庫へと降りていく。確かに、彼がいなければ天井から侵入する方法など思い浮かばなかった。 「まさか当たるとは思わなかったわ」 天井から縄をつたっておりてきたカエデさんが呟く。 「…………まぁ、とにかくお前の負けだ」 「そんな……せっかく、彼女に会えると……精人のプログラムさえ組めば、死んだ彼女を電子世界に生み出すことさえできると思ってたのに」 「…………バカなこと言わないで」 カエデは言う。 「あんたのいう彼女って、昔のギャルゲーのデータでしょ。そんなの、精人の力をかりなくても簡単に……」 「違う! あの時の彼女は僕の中にしかいない! 新しくゲームをしなおしたって全く同じ彼女ができるわけが……」 「バカ野郎っ!」 「お前が愛したその女は、人の不幸の上にたって喜ぶような女か! そうじゃねぇだろ! お前がすることは死んだ彼女を救うことじゃねぇだろ! 彼女はそんなこと望んでねぇだろ」 「……くっ……そうだよ。俺もわかっていたんだ。たとえ思考が全て同じでも、彼女は……もう戻ってこないことくらいわかってたんだ」 「……いや、ホント……カエデさんに聞いた時は信じられなかったけど、すんげぇ最低のバカだな、こいつ」 その間にも、カエデはミライを助け出していた。 これで全てが解決だ。 「ミライっ! ミライっ! 大丈夫なのっ!」 カエデが叫んだ。水槽から救い出されたミライはぐったりして動けない。 「まさか、プログラムが……」 カエデはミライを置き、木崎のパソコンを操作する。 「くっ、だめ。もう作動してる。このままじゃ、ミライの記憶が」 「どけっ!」 熱斗がカエデをどかし、機械のボードを操作する。 「な、半径三百メートルの全てのパソコンからウイルスが送られてきてるじゃねぇか」 カエデはあっけにとられていた。熱斗の指が光速でキーを叩く 「何者なの、あなたのお父さん」 「元精人の研究者。俺の殺す標的の一人だ」 「本当なの?」 カエデが信じられない、という口調で訊ねる。 「親父、行けそうか?」 「あぁ、なんとかしてみせるさ」
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あの日。吹雪が熱斗を殺そうとしたとき。 「腹、減ってねぇか?」 氷の刃をむける吹雪に彼は言った。 それに吹雪は何も答えない。 熱斗は黙ってラーメンを置いた。 「終わったら食え」 その瞬間、熱斗は手刀で氷の刃を叩きおり、自分の腹を突き刺した。 「いいか、俺は自分で死ぬんだ。お前に殺されたんじゃねぇ」 「な、何のつもりだ!」 「いいか、復讐なんてつまらないマネは……やめろ。それより、お前は幸せに生きろ!」
次の瞬間、吹雪は熱斗の傷を氷でふさいでいた。
「たく、荒っぽい治療だ」 「文句をいうな。それより、ラーメンのほかに食いものはねぇのか?」 「うちはラーメン屋だ」 「俺はハンバーグが食いたい。俺に幸せに生きろって言うんだから、食いたいものくらい食わせろ」 「……ちっ、わかったよ。ハンバーグだろうとなんだろうと、客が望むものならなんでも作ってやるよ」
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「はぁ、うちで何か食べてくか」 倉庫からの帰り道。 「じゃあ、私はナポリタンで」 「ミライはモンブランが食べたいかも」 「たく、ラーメンを注文するやつはいねぇのか」 熱斗が笑いながら言う。 「俺は、久しぶりにハンバーグが食べてぇな」
ーーーー 大幅に遅刻&大重量申し訳ありません。 まだ、まとめきれない感があります。
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