Re: 即興三語小説 ―GWはゆっくりしていってね― ( No.2 ) |
- 日時: 2013/04/23 19:10
- 名前: 品田 ID:SoZaTF0o
「幻視死体」
パーフェクトアイラブユーについて、おまえはなにか知っている? 街のいたるところでとびかう言葉のしょうたいを、たった一つにこめるとしたら。
十年以上前に出て行ったきり一度としてもどらなかったムシカギが、昨晩この街に帰ったらしい。ムシカギはおれの家の前に死体をこしらえて、どこかに息をひそめている。おれはそれを見たとき、すぐにそれがなんであるか気がついた。なんせおれたちは親友だったからね。まるで一個体のようだった。
パーフェクトアイラブユーについて、五臓六腑と目玉の位置を正しく知るひつようがある。おれの血液が上手く運ばれなくなって、酸素が行き渡らなくなっても、五臓六腑と目玉の位置を、正しく知るひつようがある。
街はパレードで、おおかたそれをねらって帰ったのだろうと口々に言われていた。ムシカギはめでたいことが好きだから、そのたびに死体をこしらえてきたのはゆうめいな話だ。誰もがムシカギを知っている。そして、誰もがムシカギをおそれていた。 「ムシカギの技巧を目にしたことがあるか」 死体をみつけた三日後に、靴屋へ出向いた。靴屋の店先では、パレードが中止になって港へ向かう観光客を見ながら、おとこがクリープを飲んでいる。こえをかけるとおれも見て首を振った。ジオラマだ。 ジオラマはうんと年がはなれているが、ムシカギの弟にあたる。あの頃のムシカギとおなじ年になったジオラマは、見間違えるほどによく似ていた。じっさい、この三日間で、あきれるほど通報されたという。目のいろがちがうことを知っているのは、おれとムシカギぐらいだ。ジオラマの目はあおやかな夜更けににている。 「口をそろえてみんなが言う。左目にブリリアントな玉虫がはめこまれていて、だからムシカギがつくったのだと」 「それで」 「ムシカギが帰ってきた」 「それで」 「でもそんなはずがないんだよ」 ムシカギのこしらえた死体は、すべて同じにつくられていた。美しい目をした人をころして、その技巧で目をぬいたら玉虫をはめこむのだ。虫ならなんでもいいわけじゃない。ムシカギにはこだわりがあった。 美しいものには美しいものを。 「ジオラマ。おまえなんだろ」 「どうして」 「だってムシカギは右目をうばうんだ」 空は群青と橙の複雑なグラデーションで街をおおっていた。ジオラマはおれの言葉にクリープを落とす。昨日の雨でぬかるんだ土が、にじませながら白色の脂を飲んでいた。 ばかだなあ。おまえは知り得なかったのか。おれの右目のいろがほんとうにときどきかわる理由を。ジオラマ、左目ばかり見ていて気づかなかったのか。玉虫の上翅がはいっていると、ムシカギがそうしたと、おまえは。
パーフェクトアイラブユーについて、おまえは誤ってそれを知っていた。ムシカギがおまえの兄弟でなかったら、きっとそんなおかしなことにはならなかった。おまえはおもいちがいをしていたんだ。だからパーフェクトアイラブユーはムシカギのものだよ。 ジオラマ、おまえ、五臓六腑の位置は正しかったのに!
「おれのためにパレードを鎮圧しようとしたのか」 「そうだ。もう十年たったから、いいかげんにあなたは幸福にならなくちゃいけない」 ムシカギはもういないから、パーフェクトアイラブユーはあなたのものになる、と、ジオラマはいう。おれはだれの目玉もうばってないのに、ジオラマはそんなふうに言って笑う。狂っているとおもった。 夜更けがせまりくるのをその目玉に見る。幸福でないのはどちらだよ。おまえはあんまり凄惨だからって、幻視だとおもっているのだろう。ムシカギは街を出ていない。ムシカギは、パレードの終わりに自殺した。おまえだけがなにもかも誤っている。人々の口から出るのは、ムシカギじゃなくてジオラマだった。 「再生しろよ。おまえこそ、幸福になれ」 こんなものは逆戻りの一方だ。ジオラマ。くりかえしてはならない。目の美しい人間をいくらえらんでも、パーフェクトアイラブユーはおまえのものにならない。まして、おれのものにもなりはしない。 「おまえの目は、上翅のないきれいないろだから、きっと再生できるはずだ。おれとちがって、光沢をもったりしない」
パーフェクトアイラブユーについて、おまえはなにか知っている? 五臓六腑と目玉の位置を、たった一つにこめるとしたら。ムシカギの、幻視は。
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昨日のチャットで眺めてますと言ったばかりなのに、気になって仕方がなかったので参加させていただきたく思い切りました。 ひらがなをたくさん使いたいのと、おいてけぼりにさせたくて書いたのですが文句はありがたく頂戴します。三十分弱タイムオーバーしました。すみません。
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