Re: 即興三語小説 ―一気に秋めいてきましたね― ( No.1 ) |
- 日時: 2012/10/09 02:15
- 名前: 水樹 ID:jMqFvSqc
お題は、「ぺらぺら」「だらだら」「ぷらぷら」です。
駅のホームをぷらぷらと歩く私だが、一応は気を使っている、目前の遅刻を自身のせいにしないで気を使わず、忙しなく歩いている人には触れたくはないから。 人ごみの中でタナカさんを見つけると私は安心する。相手も私に気付く。距離を縮める事はしないで、目を合わせるだけでいい。おはようと、無音で挨拶を交わしてくれる大切な仲間。他の人達にも同じように目を合わせ、挨拶をする。 タナカさんだけじゃなく、掛け替えのない仲間達に私は支えられていると言ってもいい。お互い声は決して交わさないが、私の存在を明確にしてくれている、と実感している。 大袈裟な事じゃなく、私が仲間と信じて疑わないのは、毎朝の挨拶然り、いざとなったら助け合って手を取り合ったからだ。 自分一人では、何の為に存在しているか? 誰もがそれに付き当たるに違いない。仲間と呼べる人達がいて、初めて自分が認識出来るのではないか? と思う。
声音を気にもしないで、ぺらぺらと早口でくっちゃべる女子高生を怪訝な顔で見る私。煩わしくて五月蠅いのは嫌いだから注意はしない。まあ、私に限らず、誰も関わろうともしないでいる。別段、いつもの光景だから腹は立たない為、眼を瞑って過ぎ去るのをただ待つ。
夕刻を過ぎるとだらだらとした人達が目に着く。帰れる家があるのに帰りたくないか、明日を少しでも遠ざけようと、小説やスマホに没頭している。缶ビール片手にベンチで時間を潰している。 人は皆、悩みや忘れたい出来事を消し去りたいと願いつつ、胸に理由を抱えている。唯一後悔する生き物。ここに居る私がそうであったように、あれ? 私は何に悩んでいたんだろう。仲間に囲まれた日々に満足していると、不思議と悩みなど、どうでも良くなっていた。
ぺらぺら、だらだらよりも、ぷらぷらが一番良い。そう! 私は胸の高鳴りを抑えつつ、ぷらぷらしている彼の背後でその時を窺う。 仲間達に伝達は要らない、すぐ様私達黒い影は一つになり膨らむ。後押しの憎悪の塊りの言葉を囁き、仲間へといざなう。それこそは一致団結一心同体。 「楽になろうよ」 「死にたくないっ!」 「一瞬で楽になるよ」 「怖い怖い怖い怖い怖い」 「怖くなんてないよ、私達が待っているよ」 「私達?」 「みんな貴方の仲間さ」 「仲間?」 「そう、みんな仲間さ、今死なないと後悔するよ」 「後悔したくない」 「じゃ、一歩踏み出して」 「一歩でいいんだ・・・」 「勇気を出して一歩前に!」 「うん、ありがとう、俺、死ぬよっ!」 「いっちゃえ、いっちゃえ」 「カモンカモン」 「喜怒哀楽天狗座禅食い南無南無、貴方を私達は歓迎します」 「座禅食い? さらば人生、お疲れ様、とーちゃん、かーちゃん、先立つ息子を許して下さいっ!」 人々の嬌声、私達の歓声が湧き上る。黒い影の私達は、肩を組んで飛び散った彼の部位を囲っては歌って喜ぶ。 ようこそ。 私の時と同じように、タナカさんがミンチと化した彼の躯に手を差し出す。 私の時は頭部だったが、彼は下腹部だった。 私達の黒い影に彼は入り込む。 一言、ありがとうと彼は言い、私達は無言のまま、彼の意思を称賛して分裂し、日常に戻る。
おはようと、私は新しい仲間に目で挨拶をする。彼は表情を変えず、虚ろな死んだような目を合わせる。ああ、既に死んでいる。 それを確認すると、私はぷらぷらとしている人の背後に立って、仲間へと誘う言葉を優しく耳打ちする。 私達が待っているよと。
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