Re: 即興三語小説 ―連休なんて幻想とです― ( No.1 ) |
- 日時: 2012/07/17 03:24
- 名前: 水樹 ID:zH2lCF5Q
お題は、「銀色」「カビの生えた羊羹」「カラスもカラスで堂々と盗み食いを働いておった」です。
貞義ちゃん
食後の日課、縁側で羊羹を摘まみ、お茶を楽しむ老婆の前に、ばさりと小さなカラスが落ちてきた。雀と思うほど黒光りの小さいカラス、よたよたと歩くと血の跡がついていた。 「あらあら、あなたどうしたの? じっとしてね、暴れないでね」 カラスに喰い込んだ銀色の針金を、爪切りでパチリパチリと解いていく、うっかり真ん中の足指を切り落とすと、小さなカラスは絶叫し老婆の頬に嘴を刺し、穴を空け、すっぽりと口に入っていった。 人の気配を察し逃げ込んだとも言える。 「よう、ここにちっこいカラス落ちなかったかい?」 唐突に庭に男が現れる、パンツ一丁の半裸の男が老婆に尋ねた。近所に迷惑な情緒不安定な男。面倒だからと老婆は寝た振りを決める。 「いてて、あん畜生、おいらの左キ○玉食いちぎりやがった」 男の縞パンは血で滲んでいた。入れ歯を立てず、れろれろと舌で口の中でカラスの傷を舐めまわす。カラスの傷は思った程軽く、自分の出血の方が多く喉に流れ込んで行く。 「この間は左目ん玉で、今日は左○ン玉、右の玉が無くなって、もうたまんねえよ、親父だけじゃなく、カラスもカラスで堂々と盗み食いを働いておったんよ、ああ、いてていてて、羊羹いただくよん」 老婆の羊羹を平らげ、ぶつくさと立ち去る男、老婆は小さいカラスの傷が治り、飛び立つまで飼ってみるのも面白いなと、飲み込むのは止めにした。 小さいカラスには貞義と名前を付けた。既に他界した夫の名を付けた。 貞義ちゃんは老婆の口の中が大好き、腐った鰯臭い老婆の涎が大好物、お構いなしに糞尿も老婆の口内に排泄する。 楽しい日々もつかのま、突然老婆は息絶える。 涎の出ない老婆の口に貞義ちゃんは直ぐに興味を失った。 そこは畜生、貞義ちゃんは老婆を啄み、口内から左眼孔まで貫通し、腹を満たすとカアと一鳴きで飛び去った。 テーブルの上には、カビの生えた羊羹がいつまでもありましたとさ。
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