Re: 即興三語小説 ―計画停電に無計画であたってみようじゃない― ( No.1 ) |
- 日時: 2012/06/18 00:37
- 名前: 水樹 ID:2nq25cz2
お題は、「偏光グラス」「鳥」「砥石」です。 縛りは、 「なにかしら滑稽な場面を出す」です。
マスク海賊団と僕
梅雨の一時の晴れ間、 「天気も良いから釣りをしよう、ねえ、行こう行こう」 と殺人鬼にねだられ、早朝起こされた。時計を見たら三時半だった。まだ夜中だ。 過去の三語に結構登場している、作者もすっかり忘れていた殺人鬼。筋骨隆々の身長二メートルオーバー、繋ぎの作業着でアイスホッケーのマスクを被っている。泣く子はさらに大泣きする外見とは裏腹に心優しい殺人鬼。なんやかんやあって僕の家に居候している。そのなんやかんやは作者もとうに忘れているだろう。思い入れが全く感じない。
「君はそのまま寝ていいさぁ、既に準備万端だからね、全面的に信頼していいさぁ。このアイスホッケーマスクを被って寝てればいいさぁ、ああ、間違えた。アイマスク」 どんな間違いだと頭の中で突っ込みつつも、すぐに僕は眠りに落ちた。
移動中の振動で断片的に眠る僕。途中、砥石を研ぐ意味深な音や、ウミネコや聴いた事のない鳥の鳴き声を耳にした。不安がいっぱいでろくに寝られてないとも言えた。 「起きて、起きて、着いたよ。レッツフィッシングナウ」 アイマスクを取り、眩いばかりの光を眼に入れる。 「外は眩しいからね、これを掛けるといいさぁ」 偏光グラスを掛け、回りを見渡す。 「何これ?」 言葉を寸前で飲み込み、僕は酷く後悔した。いや、今は航海だった。 クルーは全員筋骨隆々、アイスホッケーのマスクで繋ぎの作業着、被ってない僕だけが浮いている。中心のマストの頂上にはマスクの旗が掲げられていた。 何海賊団? 想像するにマスク海賊団だろう。黄金のアイスホッケーマスクを探しているのか? ここはグランドラインなのだろうか。 船長、キャプテン、キャップにマスクと呼ばれている殺人鬼がこの船の主だろう。一人だけアイスホッケーのマスクの上から偏光グラスを掛けていた。もう、突っ込むのに疲れた僕がそこにいた。 なので、釣りを楽しむしかない。 殺人鬼と同じ釣り装備で一投する。 「初心者は釣る事なんて考えなくていいさぁ、海はいいよね、ストレスなんてどこかに流されるよね、この広大な海を眺めているだけで・・・」 すぐに当たりを引いた僕。引きが強い、大物だ! 「焦らずに! リールを巻かずに、弱らせて!」 そんな殺人鬼の忠告を無視し、リールを全快に巻く僕。色鮮やかな二メートルオーバーのシイラが釣れた。 「う、うん、ビギナーズラックさぁ」 それから、金目ダイに、ホッケにサバにマグロにイカタコ、アジにヒラメにニシンにサメ、銀ダラにアンコウ、投げれば釣れた。 僕とは対称に殺人鬼の釣り糸はただ波に揺れるばかり、気不味くて言葉が出ない。なぜ同じ装備で全く釣れない。 「ど、ドンマイ」 と言葉を掛ける僕。なぜ、僕が気を使う。 僕が釣れる度に殺人鬼から舌打ちが聴こえる、気がした。 殺人鬼の日頃のストレスはどこにも流されていない。 「もう! こうなったら!」 釣り竿、偏光グラス、繋ぎの作業着を看板に投げ捨て、海に飛び込む殺人鬼、下は繋ぎの水着だった。浮かび上がる殺人鬼を待つ僕とクルー。特に心配などしなく、僕の釣った魚で、天ぷら、刺身を皆で摘まみ、ビールで乾杯する。コック長のフカヒレスープを絶賛しつつ、殺人鬼を待つ僕達。 ギネス公認じゃないのが残念で堪らない。二十五分三十八秒は潜っていただろう。 勝ち負けで言えば僕の完敗だろう。古代魚のシーラカンスって。僕含めクルー全員、拍手で殺人鬼を称える。殺人鬼はマスクの下で頬を染めているに違いない。 「やっぱり、釣りは素潜りが一番だね」 いや、釣ってないから。
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