Re: 即興三語小説 -大人になったら夏休みがないことに驚いた人は手をあげること― ノ ( No.1 ) |
- 日時: 2012/07/23 03:20
- 名前: 水樹 ID:2tnBwOWw
お題は、「熱」「刺激」「しゅうまい」です。
縛りはRYO様の三語を使う、です。
シュウマイマイ
熱にうなされると、頭痛の刺激さえ心地よく思えるのかもしれないなんて、きっと脳みそがしゅうまいみたいに蒸されているに違いないんだから、これくらいまだまだ! ――熱中症対策の基本は、「自分の感覚を信じるな。気温と湿度を信じよ」と言われているとかいないとか? とりあえず思考が破綻していることは疑いようもなかった。二時間後、ようやく自分を取り戻せた気もする。今になってようやく冷静に自分を見つめてみようと思える、身体が動かない以上僕は考える事しかできない、布団の中、天井をずっと見つめると、見下ろしている錯覚に陥ながら、この不幸な身の上の自分を思い出す。 シュウマイが怖い、恐ろしく怖い、あのシュウマイさえ無かったら、僕は熱中症などに掛らなかった。シュウマイシュウマイシュウマイシュウマイ、頭の中で連呼していると、シュウマイという言葉が独り歩きし、シュウマイ本来の姿形が消えて別物に生まれ変わる。変な所で区切ってみると、シュ美味いだの、臭舞だの宗魔位だのと自分のおかしな発想に感服してしまう、これも熱中症の症状の一つに違いない。 「あのお店のシュウマイをたらふく食べたいな」 彼女は誕生日のプレゼントにシュウマイを選んだ。お安いご用さ、庭一面シュウマイを敷き詰める気満々で僕はシュウマイを買いに出掛けた。 が、甘かった。カラシ抜きのシュウマイなど甘いに違いない。 そこは名店、長蛇の列、僕は当然最後尾に着く。 前には千二百二十八人はいるだろう。皆熱中症対策は万全で僕以外、飲み物や、暇潰しの携帯ゲームやら、ラジオやら、僕の前の人などはこの日の為にハリポタ全巻持ってきていた。僕も何かと思ったが、今更だった、すぐに後ろに並ばれ、地味に前進して行った。 ほとんど立ちっぱなしだった。昼の十一時から二時の一番辛い時間帯に脳天から日差しを浴びる僕。それでも待った甲斐もあり、ようやくゴールが、やっとこさの終着駅が、三万円を握りしめている僕に栄光の? あれ? 何を買おうと並んでたんだっけ? 僕はシュウマイを目前に倒れ、救急車で運ばれて、現在に至る。 そのまま三万円は治療費に消えるだろう。病室の白い天井をずっと眺める僕。彼女になんて言い訳しよう、愛する人の願いも叶えてやれないなんて、僕は何て不甲斐ないんだろう。シュウマイの悪夢に取り憑かれ、シュウマイ恐怖症の僕を見て彼女は幻滅するに違いない。 色んな想いに更けているとドアが勢い良く開き、シュウマイ人間が入って来た。いや、良く見ると彼女だった。 点滴を打っている僕に諸悪の根源は泣きついた。 「もう、馬鹿、馬鹿、馬鹿、アホ、アホ、アホ、へたれ、へたれ、へたれ、このすっとこっどこいのろくでなし! あなたがこんなになってまでシュウマイなんて食べたくないんだからっ! 2chでナメクジやら鼠やらカピパラやら人肉使ってるって噂流して、あなたの仇は必ず取っちゃる」 涙を流しながら恐ろしい事を言うもんだ、シュウマイよりも彼女の方が恐ろしい。 流石にそれは止めてもらった。 後日、通販で買える事を知った僕は、三万円分買い、改めてシュウマイをたらふく彼女に御馳走する。 それでも十個でお腹一杯って、満足そうな彼女の笑みと引き換えに、冷蔵庫はシュウマイでパンパンだ。 シュウマイオソロシヤ。
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