Re: 即興三語小説 ―第110回― 締切りは8/7だ。何のことかは分かるよね? ( No.1 ) |
- 日時: 2011/08/01 22:17
- 名前: はしずめ まい ID:Miq53A.Q
使用したのは、必須お題の「リンク」「遠い空」「嵐」だけですが、よろしければ。
遠い空から、嵐の気配が流れてくる。 浮かない顔で街を歩けば、橋に行きあたるたびに飛び込まんばかりにまで気落ちしていることに気づかされる。昼ご飯にと買ったメンチが一つ少なくても、文句を言ってやる気力もない。テンションが落ちている、だなんてそんな軽い言葉で済ませたくない。感情のうつろいをつくるのが億劫で、怒ることさえ面倒だ。 家に帰れば、無口な母がいる。「ただいま」と言っても、どうせ「おかえり」は返ってこないから、わざとそっと家に入ればいい。 「メンチ、二つでよかった」 母と兄とわたし。ほんとうは三つのつもりだったが、最近のわたしは食べてもすぐ戻すから、気力をふりしぼって怒らなくてよかった。兄さえいれば母は満足に思うから、わたしが飯を食おうが戻そうが何しようが、さして関心はないだろう。 家も近いし、あったかいメンチのこともある。わたしは走って帰ることにした。 鍵を開けて家のなかに入ると、母と兄がリビングでテレビを見ているらしかった。わたしは無音で二人のもとに近づき、黙って昼のおかずをテーブルに置いた。そうして自分だけ部屋に行って、床に寝転がった。 「リンクしてぇ。リンクしてぇよなあ」 男口調になるのは、小学生のころからだった。他人と話しているときは気をつけてはいるが、それでもときどき口をついて出てきてしまう。それは、兄の口調に知らずに合わせているのかもしれない。むかし兄に「おまえが弟だったらよかったのに」と言われたことも、たしかに、男として生まれていたらもっと兄と心親しくなれるのではという幼少の思いも影響しているのかもしれない。 だが近頃は、そこに別の理由、潜在的な思いがあるような気がする。すなわち、こうだ。わたしも、男として生まれていたらもっと母に構ってもらえたのではないだろうか。 「男の子のほうがかわいい、か」 つぶやいて、ふっと笑う。もし男として生まれたら、この優柔不断な性格は変わっただろうか。 また、ふっと笑う。 「無理な話だ。そんなことわかるはずない。だいたい、生まれついちまったもんは変えられない」 わかるのは、うじうじした性格が変わらないかぎりは母とは永久にリンクできないわけで、男に生まれようが女に生まれようが関係ない。
外が、騒がしく音を立てはじめた。どうやら雨が降ってきたようだ。 「……やっとか」 すぐだからと思って、さっきは傘を持たずに出かけた。こんなことなら、メンチを冷まして濡れて帰ればよかったと思った。 わたしは、がばと起き上がると、部屋を出てリビングに顔を出す。 「外、行ってくる」 ア然としている二人を差し置いて、わたしはこの身ひとつで外に出た。 「いい降りしてんじゃん」 しばらく暗雲を仰いで佇む。それから、ゆっくりと歩きだすのだった。
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