Re: 即興三語小説 ―「秋風」「盆栽」「保存」― ( No.1 ) |
- 日時: 2015/08/31 21:45
- 名前: マルメガネ ID:lf6LepWw
盆を過ぎると、それまで暑く湿ったような風から爽やかな秋風に変わったことを感じる。夏空に沸き立つ入道雲もいつしか流れるような雲に変わり秋めいているが、その去りゆく夏を惜しむかのように蝉が鳴き騒いでいる。 形見としてもらった盆栽は、種の保存、という目的ではないが庭に鎮座している。青々と茂っているさまを見れば、いつしか剪定してやらねばならないだろうな、と思いつつもその手法、管理についての知識は全くなく途方に暮れる。 いずれにしても処分するには忍びなく、そのまま飾っておくべきか、庭に植えるべきか、ということになりそうだが、庭に定植するとなれば暑さが和らいだ時期とはいえ、冬を待たねばなるまい。 時間を少し巻き戻せば、初盆を迎えた外戚のおじいさんのものだった。 生前は猫の額ほどの狭い庭に様々な木や植物を植えて、なおかつ流木で作ったものらしい鉢をつりさげていた。 それらの世話をしながら、時には愛でていた。 形見としてもらった盆栽もそのうちの一つで、かなり手入れがなされていて、それはみごとなものだったのだ。 たくさんあったそれらは、愛好家などに引き取られていったが、最後の一鉢だけはどういうわけか巡り巡って自分の家に来た。 物好きねぇ、と言われるけども来たものは仕方がないことだし、返すこともできない。 ただ、あの猫の額ほどの狭い庭に暇をみつけては入って、なにかの作業をしていたおじいさんの姿を思い出せば、そうそう簡単に処分できなくなる。 そこまでの愛情があると思えば。 縁側に座り、秋の様相を見せ始めた空を見上げ、缶ピースの缶から一本煙草を取り出して、火をつける。 香りを含んだ煙が秋風の中に消えていくのを眺めつつ、私は盆栽の保存を決めた。
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