Re: 即興三語小説 ―バレンタインなんてないよね?― 締切を2/22に延長しました ( No.1 ) |
- 日時: 2015/02/21 19:20
- 名前: マルメガネ ID:8dQp0wRM
それは再びやって来た。その気配を察知した猫が尻尾を膨らませ、果敢に唸りを発して威嚇することでその存在を知った。 再びやってきたのは疥癬にかかりすっかり毛が抜け落ちてしまった狸。たぶん、餌を捜し求めてやってきたらしい。しかも、誰にも悟られず、まるで忍者のように物音もほとんど立てずに家に侵入してきたのだ。 もはや珍獣の域に達してしまったそれはとても哀れを誘うばかりの姿。 さりとて、このまま家に侵入してきたのを放ってはおけず、汗をかきながらそれを追い回す。 野生のあの走りは見えず、よたよたしているが意外にすばしこく、禿げている狸は侵入して上がってきた二階から階段を降り、やがて廊下を走り、そして玄関のわずかに開いた引き戸の隙間から外へ逃げ出した。 興奮からさめないのか、猫はしばらく尻尾を膨らまし、またやって来はすまいか、とばかりに家中を駆け回り、においをたどりひとしきり騒いでいた。 かの騒動はこれで一件落着をみた。 それ以降、かの禿げた狸の姿は見ていない。 重篤なダニの寄生による疥癬の症状が悪化したのか、はたまた寒さによりただでさえ弱った体をさらに弱らせて死んでしまったのかはわからない。 こうした事例は調べてみると全国でかなりあるらしいことが分かり、いかにすべきか、ということを考えさせられる。 山中に住まう身としては、いささか残念な気がするがどうしようもない。捕獲して保護をしようにも夜中のことであって、保健所に連絡できず、捕らえたとしてもそれを入れておく檻すらもなかったからだ。
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