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RSSフィード [236] 即興三語小説 ―特別な業務をあげよう―
   
日時: 2015/01/25 22:46
名前: RYO ID:tWXSVbwo

 ため息をつきながら社員が、私のところ、屋上にやってきて言った。
「年度末、忙しいのはわかっている。だけど、――」
 ……仕事でも増えたか。ベンチであくびをしながら聞いてやる。見飽きた夜景を綺麗などと思うことはない。見上げたところで、星空は見えない。遠くでサイレンの音がなっている。日常茶飯事だ。
「皆忙しいなか、こんなことを言えるのはお前しかいないんだってどの口が言う?」
 ……サービス残業の命令でもくらったか。
「スチームバンクさえ実現していれば、こんなことにはならなかったんだがな」
 スチームバンク? 専門用語?
「社運がかかっているって何回聞いたっけ」
 何事にも社運がかかるだろうよ。何もしないならリスクもないだろう。
「お前の手でも借りたいところだ」
 この私の、猫の前足など借りてどうするつもりかね?
「増税ってなんだ? 残業ってなんだ?」
 生活でも苦しいか? 人間というものは、仕事がすべてなようだ。たまには自分をいたわってやれ。この私のように。
「特別な業務って……」
 そろそろ昇進とか、結婚とか――どうやらないらしいな。
「正社員ですらないってのに、帰れないんだから」
 そりゃ辛いな。
「お前にはわからないか」
 この会社をブラックにしたのは、私の飼い主かもしれないが、諦めんな――ニャーと声をあげたところで激励にもなりはしない。この国はちょっと不景気かもしれないが、私もお前が稼がないと飯にはありつけないかもしれないからな。社畜よ、本当に疲れたやめてもいいんだぜ。
 屋上を後にする社員にもう一度ニャーとないてやった。

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●基本ルール
以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。
▲お題:「スチームバンク」「猫」「帰れないんだから」
▲任意お題:なし
▲表現文章テーマ:なし
▲縛り:なし
▲投稿締切:2/1(日)23:59まで 
▲文字数制限:6000字以内程度
▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません)

 しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。

●その他の注意事項
・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)
・お題はそのままの形で本文中に使用してください。
・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。
・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。
・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。

●ミーティング
 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。
 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。

●旧・即興三語小説会場跡地
 http://novelspace.bbs.fc2.com/
 TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。

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○過去にあった縛り
・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)
・舞台(季節、月面都市など)
・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)
・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)
・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)
・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)
・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)

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Re: 即興三語小説 ―特別な業務をあげよう― ( No.1 )
   
日時: 2015/01/29 17:18
名前: マルメガネ ID:ArVVMI.o

「号外! 号外!」
 少年たちが声を張り上げ鐘を鳴らしながら、もうもうと黒煙を吐き続けるお化け煙突が名所となっているスチームバンクシティのメインストリートを駆け歩き、刷り上ったばかりの号外新聞を売る。
「坊主。その号外をくれ」
「おれにもくれ。いくらだ?」
 道行く人が呼びとめ、号外を求める。
「二シリンダー四ギアです」
 少年はそう言って渡す。
「売らなければ、帰れないんだから」
 それが彼らの合言葉である。
 号外は瞬く間に売れた。
「ヨシュア。売れた?」
 片目が白く濁っている少年が最後の一部を売りさばいた亜麻色の髪をした少年に声をかけた。
「こっちも売れたよ。ライト」
 ヨシュアと呼ばれた亜麻色の髪をした少年は、片目が白く濁っているライトにそう答えた。
 二人は親友でスチームバンクのダウンタウンに住んでいて、家も隣同士だった。
 二人が売りさばいていた号外新聞には、北の超大国であるルシアと極東の小さな島国であるフソウ大帝国が戦争をしていて、戦艦アカザを旗艦とするフソウ大帝国海軍が戦艦カラザイフを旗艦とする大艦隊のルシア海軍第三艦隊を打ち破り海に葬り去った記事が書かれていた。
 それは世間を驚かせるニュースだった。極東の小国。しかもその存在を一部の人間しか知らない新興国が超大国相手に戦い勝利したことは到底信じられない出来事であり、大スクープ記事だった。
「それにしてもすげぇよな。極東のフソウ大帝国って国」
「うん。そうだね。極東のどこにあるのかは知らないけど、いつか行ってみたいね」
 二人がそう話しながら、メインストリートから裏路地に入った。
 裏路地には野良猫がいて、のんびり昼寝をしている。
その中のボス猫の存在である黒猫は、ライトになついている。
「名前、適当に呼んでいたけど。どんな名前がいいかなぁ」
 ライトが白く濁った片目を輝かせながら言うと、
「ねぇ、アカザにしない?」
と、ヨシュアが提案した。
「アカザかぁ。フソウ大帝国の戦艦の名前だね。いいかも」
ライトが目を細めて喜んだ。
 その日からそのボス猫はアカザと呼ぶことになった。
 それから十数年の月日が流れた。
「どうしても行くの?」
 成長したライトが親友のヨシュアに聞いた。
「うん。長旅になるけどね。時々、電報をよこすね」
 ヨシュアが言う。
「すこしさみしいな。でも帰りを待っているよ」
 ライトが残った目を伏せた。
 少年期に裏路地にいたボス猫の黒猫にアカザと名をつけて以来、彼の白く濁っていた片目はどんどん悪くなってとうとう見えなくなって、眼帯をしている。
「ああ、大丈夫だ。心配は要らない。行ってくるよ」
 ヨシュアはそう言って、波止場から極東行きの船に乗り込んだ。
 彼は少し寂しそうにしているライトが気になった。
 船の野太い汽笛が鳴り、煙突からはお化け煙突を負かすほどの黒煙をあげて船が動き出した。
 ヨシュアが向かうのは極東の島国フソウ大帝国だった。
 少年期に抱いた夢がそのまま実現したのだ。
 それまでは働きに働いて、語学も学んだ。
 彼を乗せた船は南洋を回り、熱帯地方を経由し、東の大陸の港に寄港し、ようやく極東の島国に到着したのは出発してから半年近く過ぎていた。
 船を降り立ったヨシュアは、憧れだった極東の小さな島国に何ヶ月かとどまって、各地を旅行し、見て回った。
 そこで彼が見たものは、つましい生活をしていながら勤勉に働く人々の姿だった。しかし、それでいて気さくで謙虚だった。
「これが、フソウ大帝国なんだ。あの超大国を破った国とは思えない」
 ヨシュアはそう思うと同時に、故郷であるスチームバンクシティがだんだん恋しくなってきた。
 ライトはどうしているか、と思う。
 彼は電報をライトあてに送り、帰国することにした。
 そして何ヶ月もかかってようやくスチームバンクに帰ってきた。
「お帰り。ヨシュア。いろいろフソウ大帝国で見たことを電報でありがとうね」
 約二年ぶりに会ったライトがそう言った。
 二人はその後、夜がふけていくのをものともせず、語り合う。
「ライト。どう思う。これからの僕らの町は」
「聞いたところからの予想は、たぶんいつかフソウに追い越されるだろうね」
 ライトはそうヨシュアに答えた。
「僕もそう思うな」
 極東を旅したヨシュアはそう言って、つましくも勤勉で気さくで謙虚な人々を思い出していたのだった。

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 あまりうまくまとまりませんでした。 珍しく自分としては長文です。

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