Re: 即興三語小説 ―特別な業務をあげよう― ( No.1 ) |
- 日時: 2015/01/29 17:18
- 名前: マルメガネ ID:ArVVMI.o
「号外! 号外!」 少年たちが声を張り上げ鐘を鳴らしながら、もうもうと黒煙を吐き続けるお化け煙突が名所となっているスチームバンクシティのメインストリートを駆け歩き、刷り上ったばかりの号外新聞を売る。 「坊主。その号外をくれ」 「おれにもくれ。いくらだ?」 道行く人が呼びとめ、号外を求める。 「二シリンダー四ギアです」 少年はそう言って渡す。 「売らなければ、帰れないんだから」 それが彼らの合言葉である。 号外は瞬く間に売れた。 「ヨシュア。売れた?」 片目が白く濁っている少年が最後の一部を売りさばいた亜麻色の髪をした少年に声をかけた。 「こっちも売れたよ。ライト」 ヨシュアと呼ばれた亜麻色の髪をした少年は、片目が白く濁っているライトにそう答えた。 二人は親友でスチームバンクのダウンタウンに住んでいて、家も隣同士だった。 二人が売りさばいていた号外新聞には、北の超大国であるルシアと極東の小さな島国であるフソウ大帝国が戦争をしていて、戦艦アカザを旗艦とするフソウ大帝国海軍が戦艦カラザイフを旗艦とする大艦隊のルシア海軍第三艦隊を打ち破り海に葬り去った記事が書かれていた。 それは世間を驚かせるニュースだった。極東の小国。しかもその存在を一部の人間しか知らない新興国が超大国相手に戦い勝利したことは到底信じられない出来事であり、大スクープ記事だった。 「それにしてもすげぇよな。極東のフソウ大帝国って国」 「うん。そうだね。極東のどこにあるのかは知らないけど、いつか行ってみたいね」 二人がそう話しながら、メインストリートから裏路地に入った。 裏路地には野良猫がいて、のんびり昼寝をしている。 その中のボス猫の存在である黒猫は、ライトになついている。 「名前、適当に呼んでいたけど。どんな名前がいいかなぁ」 ライトが白く濁った片目を輝かせながら言うと、 「ねぇ、アカザにしない?」 と、ヨシュアが提案した。 「アカザかぁ。フソウ大帝国の戦艦の名前だね。いいかも」 ライトが目を細めて喜んだ。 その日からそのボス猫はアカザと呼ぶことになった。 それから十数年の月日が流れた。 「どうしても行くの?」 成長したライトが親友のヨシュアに聞いた。 「うん。長旅になるけどね。時々、電報をよこすね」 ヨシュアが言う。 「すこしさみしいな。でも帰りを待っているよ」 ライトが残った目を伏せた。 少年期に裏路地にいたボス猫の黒猫にアカザと名をつけて以来、彼の白く濁っていた片目はどんどん悪くなってとうとう見えなくなって、眼帯をしている。 「ああ、大丈夫だ。心配は要らない。行ってくるよ」 ヨシュアはそう言って、波止場から極東行きの船に乗り込んだ。 彼は少し寂しそうにしているライトが気になった。 船の野太い汽笛が鳴り、煙突からはお化け煙突を負かすほどの黒煙をあげて船が動き出した。 ヨシュアが向かうのは極東の島国フソウ大帝国だった。 少年期に抱いた夢がそのまま実現したのだ。 それまでは働きに働いて、語学も学んだ。 彼を乗せた船は南洋を回り、熱帯地方を経由し、東の大陸の港に寄港し、ようやく極東の島国に到着したのは出発してから半年近く過ぎていた。 船を降り立ったヨシュアは、憧れだった極東の小さな島国に何ヶ月かとどまって、各地を旅行し、見て回った。 そこで彼が見たものは、つましい生活をしていながら勤勉に働く人々の姿だった。しかし、それでいて気さくで謙虚だった。 「これが、フソウ大帝国なんだ。あの超大国を破った国とは思えない」 ヨシュアはそう思うと同時に、故郷であるスチームバンクシティがだんだん恋しくなってきた。 ライトはどうしているか、と思う。 彼は電報をライトあてに送り、帰国することにした。 そして何ヶ月もかかってようやくスチームバンクに帰ってきた。 「お帰り。ヨシュア。いろいろフソウ大帝国で見たことを電報でありがとうね」 約二年ぶりに会ったライトがそう言った。 二人はその後、夜がふけていくのをものともせず、語り合う。 「ライト。どう思う。これからの僕らの町は」 「聞いたところからの予想は、たぶんいつかフソウに追い越されるだろうね」 ライトはそうヨシュアに答えた。 「僕もそう思うな」 極東を旅したヨシュアはそう言って、つましくも勤勉で気さくで謙虚な人々を思い出していたのだった。
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あまりうまくまとまりませんでした。 珍しく自分としては長文です。
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