Re: 即興三語小説 ―新年度を迎える準備は終わったか?― ( No.1 ) |
- 日時: 2014/03/27 20:49
- 名前: マルメガネ ID:lQF93tUw
幻の町
何をするわけでもなくぶらりと外に出た。 うららかな春の日差しは暖かく、膨らんだ桜の蕾がちらほらと咲き始めている。 猫の額ほどの庭のある家庭からは、ほのかに沈丁花の香りが漂い、水仙が風に揺れていた。 このままぶらぶらするのもなんだか味気ない。 そうだ、町の通りに出てみよう。 そう思い立って足を進めてみたものの、みごと道を外れ、見知らぬ界隈へと出てしまった。 古式な古書店が立ち並ぶその通りに出てしまったらしい。 特段急ぐわけでも、また最初からあてもなかったし、えいままよ、とばかりに、とある古書店に入ってみた。 歴史を感じさせるたたずまいの中に陳列されたこれまた古い書籍。 ひよこの飼い方を解説したものから山菜についての本など多数だ。 暇を持て余して物色し、いざ買おうとした書籍があるにはあったが、懐の財布はさみしい風が吹いていることを思い出して結局買わずにその店を出た。 店を出ると、まったく気づかないでいたのだが日が傾きかけていた。 急いで帰らねば、と来たときと同じような足取りで進んだが、また道を間違え、当初に行こうとしていた町の通りに出た。 さてどうするかと言うこともなく、たまたまバス停に差し掛かったところで来たバスに飛び乗り、自宅の近くのバス停で降りた。 後日、迷い込んだと思われる古書店の町を探してみたが全く見当たらなかった。足を棒にして探してみたが、それと思しき店はなかった。 あれはいったいなんだったのだろうといまだに不思議でならない。
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