ワンセンテンスじゃ無理だった三語 ( No.1 ) |
- 日時: 2013/07/20 12:21
- 名前: 星野日 ID:acOUPd7Y
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雷鳴神社に行って帰ってきた友人が「あれはただの古い家屋じゃ」と言っていた。 その神社は選挙の後に取り壊される予定だ
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雨だというのに、選挙カーが雷鳴に負けじとスピーチを垂れ流し、街を走っている。 なにもこんな日にやらなくてもと思い、苦情を言いに立候補者の事務所を尋ねた。 そこは古い家屋で、誰かが住んでいる様子もない。 そう言えばあの選挙カーは、雨の日にしか見掛けない。
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ばあちゃんの住む古い家屋には、狸が時々遊びに来るそうだ。 「次のぽんぽこ選挙じゃ、どんだけ派手な雷鳴に化けられるかを争うみたいよ」 切った西瓜を弟と二人で食べながら、ばあちゃんのはなしを聞く。 午後は、怪我をした天狗が薬を分けて欲しいてやってきた。 ***************
選挙に行こうとする若者の拉致事件が相次いでいる。 俺も今、古い家屋の中で荒縄で縛りつけられ、転がされているところだ。 外で雷鳴がなった。おしっこが漏れそうだ。
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私の住む夢が丘荘は、古い家屋であり、うさぎ小屋のように部屋は狭く、すきま風はひどいし、壁が薄く、つまり選挙演説や雷鳴の音に紛らわせてセックスをしなければならない。 ある日、隣の住人のうどんをすする音が聞こえてきて、私はそれにひどく興奮してしまった。 しかし、空は晴天で、選挙は当分先だ。何もかもが憎い。
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田中雷鳴は、名前もそうだが、まるで漫画の主人公のようだ。 貧乏で、野球が上手い。母子家庭で、さる大物政治家の隠し子だそうだ。 彼の住む古い家屋に遊びに行くと、儚げな美しさの母親が、手作りのゼリーを出してくれる。 彼女の部屋にはどこからか盗んできた選挙ポスターがズタズタに裂かれて壁に張り付いており、それが田中雷鳴の父なのだろう。
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中学生の頃、生徒会選挙に立候補したことがある。 立候補者は三人いて、開票結果では、私の獲得票が一番少なかった。 その夜は大雨で、雷鳴がひどかった。 そんな思い出を話すと、兄は「いや、あの日は晴れだったよ」と答えた。
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祖父のつくるうなぎの蒲焼が美味しいです。 古い家屋の庭に七輪を置いて、炭に火をともし、暑い時期にも関わらず、一時間近くうなぎに向き合って五人分のうなぎを焼く祖母が好きです。 夕立はこの時期の風物詩です。 雷鳴がなって、祖父が家に駆け込んできて、豪快に笑って「俺の分のうなぎ、焼けなかったよ」と言ったら私の出番です。 焼いてもらったうなぎを、祖父とはんぶんこで食べる時が、とても好きです。
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ボクの友達のダイスケ君は運動が苦手なのだけど、魔法が使えるすごいやつだ。 彼が右手をちょいちょいと振ると、ヨシコちゃんのスカートが掻き消え、先生のズラが飛び、雷鳴が鳴り響き、昼がまたたく間に夜となり、選挙で盛り上がる国会も古い家屋とかわり、太陽がピンク色になり、馬が人間の主人となる。 「ここまで世界が変われば、明日の運動会もなくなるよね」 と、ダイスケ君は照れ隠しにはにかんだ。 ボクも「ここまで世界が変われば」と言いながら、彼にキスをした。
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結婚してから、妻の猟奇趣味に気がついた。 可愛らしい人形の首を吊って部屋に飾り、骨製や血を思わせるアクセサリーを好む。新築の家は、あたかも古い家屋のように飾られ、玄関の傘立てをどかすと血が飛び散ったような後がわざとらしく付けられている。雷鳴の轟く日には、どこかの島でだけで祀られるおぞましい神に祈りを捧げるなど、しょっちゅうだった。 妊娠してからは、その傾向も少し薄れた。 しかし、この嬰児が流れてしまうと、彼女の悪癖が再び戻る。 ある日、夕食に親子丼が出た。 彼女はシャレコウベの丼にそれをよそり、「器も親子なのよ」と二人分のどんぶりを指さす。 彼女流の悲しみ方なのかも知れないし、でも多分ただの趣味なのだろう。
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柱にかじりつくと、付着した砂がジャリジャリと口の中で歯にこすれた。古い家屋の味だ。塩辛さも、まろやかさも、ほろ苦さもない。ぼそぼそとした食感に近い。
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先生は選挙に落選したショックで、部屋に篭ってしまった。ドアをノックし、「夕飯置いときますね」と声を掛ける。「いらない……」と返事があって、やや安心した。 この日は夕方から雨で、「先生、カビ生えますよ。雨シトシトお化けがでますよ」などとドア越しに話しかけると「お化け、いないもん」と声が帰ってきた。 真夜中に雷鳴がなり始めると、私の寝室のドアから、そろそろと先生が入ってきて、布団の中に潜り込んできた。
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雷鳴と共に、閃光が窓から飛び込んできて部屋を白くした。視界が戻ると、ベッドの上に見知らぬ卵があった。リンゴほどの大きさで、茶色い。 姉が育てようと提案して、僕ら家族は協力をした。交代で温めたり、教育に悪いからと、ちり紙交換や選挙の音を聞かせないようにしたり。 とうとう卵が割れた。「当たり」と書いてある紙が入っていた。
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駅から、いつもとは違う道を使って帰る。理由はない。 見知らぬ駄菓子屋の前を通り、珍しい花を売る花屋を見掛け、初顔の選挙ポスターを見つけ、古い家屋ばかりが立ち並ぶ道を歩いた。 家に帰ると、いつもの道で帰ってきた自分が今でお茶を飲んでいた。「おかえり。あの道はどうだった?」と聞くので、出会った猫の話をした。
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古い家屋の中で壊れかけたテーブルに突っ伏す。酒瓶にはもう一滴もない。雷鳴に溺れる。
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稲光に遅れて雷鳴が轟くように、刺激に遅れて感情は沸き起こる。怪物博士の父はそんなことを話しながら作業をしている。ガラスの向こうにある部屋には、まだ命の吹きこまれていない怪物が横たわっている。私と弟となる予定だ。 あとはレバーを下ろすだけという時になって、父が「あいつの名前はお前が決めてみろ」と言った。私には何かを決定できる知性はありません、選挙権もないし、と答える。 父は苦笑してレバーを操作した。ガラス室の中に光が溢れ、その光の向こうで怪物が起き上がる影が見えた。「いつ見ても感動的だ」と父はつぶやく。私も眼前の光景に見とれながら、父とその思いを共有し、そしてまた、かつて自分が古い家屋で目覚めた時もこの想いを父に感じさせたのかと誇る。 「名は、ケンとしよう」と父は言った。「名付けのセンスがないのは我慢して欲しい。私にもまた、選挙権はないのだ」と言った。
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