Re: 即興三語小説 ―GWはゆっくりしていってね― ( No.1 ) |
- 日時: 2013/04/22 01:38
- 名前: 卯月 燐太郎 ID:Qy4RCp4o
妖魔山の対決
妖魔山の妖怪の話を聞きたいてか。お前さんも物好きじゃのう、面白くも何ともないぞ、ただ怖いだけかも知れんのう、それでもいいと言うのか。 テレビ番組で日本の妖怪特集を組むてか。ネットワークで流すから是非聞きたいてか。ふーん、それにしてもお前さん一人でこんな山奥まで来てよくやるのう。だが、お前さんが持っているビデオカメラとか言うのは、なかなかよかもんじゃな、こんなおばばでも美しく撮れるかのう。何じゃと、肌は色白のぴちぴちでむっちりとした体つきはおばばではなくて二〇歳前の娘のようにしか見えないてか。 ふふふ、お前さんも口がうまいのう。まるでこれから話す殿様みたいだのう。 今から八〇〇年ほど前になるのじゃが、この国の殿様が妖魔山に鷹狩りに来たのじゃ。それはもう立派な殿様でのう。わずか一〇年の間に三つの国を鎮圧し、治めたのじゃ。もう近くには殿様に逆らう国は無くなった。それで時間(ひま)が出来た殿様は鷹狩りを楽しむようになった。 殿様の鷹も立派でのう。一里先の子鼠でも見つける眼力があったのじゃ。だから当然みたいに子兎を捕らえてきたのじゃ。殿様はほくほくしてのう、喜んでおった。 ところが薄(すすき)の丘を娘が駆けてきてのう、その子兎は妖魔山の生き物だから殺生してはならん、鷹狩りなどは止めてすぐにここから立ち去れというのじゃ。 殿様はたいそう驚いた、何しろ今までに自分に逆らう者など一人もいなかったからのう。それに娘はなんと言っても美しかったのじゃ。玉虫のような色合いの衣を身に着けていて、光の加減で金緑から金紫に色調が変化するのじゃ。 彼女の美貌はまるで天女のようじゃった。殿様はお前が一夜わしの夜伽(よとぎ)をすればこの子兎は許そうぞ、と言ったのじゃ。 それで娘がどんな所に住んでおるのか興味があったから、娘の住まいまで案内させたのじゃ。 なんと不思議なことに山の奥まった所の滝のふちに朽ちた小屋があり、そこで娘は一人で住んでおった。 ははぁ、もしやこの娘は妖怪ではないかと殿様は思ったのじゃ。だとすると夜伽などをさせて喰い殺されてもかなわん。しかしこのように美しい娘との快楽はこの機会を逃せば、もう一生来ることはないだろうと思った殿様は、その夜二〇人の侍に守られながら娘を抱こうとした。 古い樹木で出来た小屋の周りに一〇人が見張り、夜伽をする小屋の中に一〇人の侍が眼を大きく開いて夜伽は始まったのじゃ。 しかし異変はやはり起きた、いくら見張りが多くてもここは妖魔山だからのう。夜空に出ていた、蒼白い大きな満月が雲に隠れて次に出て来たときには金紫色になっていた。月からの金紫の光を浴びた侍たちは見る見る砂のように風化していったのじゃ。 外の異変に気が付いた侍達が戸を開けると金紫の月の光が差し込み、小屋の中の侍たちの姿形が掻き消えていった。 殿様も例外ではなくて、自分の身体が風化し始めるのを見て、もはや逆戻りは出来ぬと思った。 それで娘に、わしが消える前にお前の正体を見せてくれと頼んだのじゃ。すると娘は金紫の月の光を浴びながら、「わらわは月の女神じゃ」と述べた。 どうだ、少しは怖かったか。 ほう、雲に隠れていた月が金紫になって出て来たな、これでお前の身体も砂のように風化するのじゃ、残念だったのう。 なんだと俺は大丈夫てか、目の前の美しい娘を見て狼に変身するてか、それは困ったのう……。
お題:「逆戻り」「鎮圧」「玉虫」
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