ホセワタナベ(ペルー) ( No.34 ) |
- 日時: 2012/06/17 00:43
- 名前: うんこ太郎 ID:kTy0/CN6
ホセ・ワタナベ(JOSE WATANABE 一九四六-二〇〇七)は、日本人の父親とペルー人の母親を持つ、日系二世のペルーの詩人です。ペルーでの詩人としての評価は高く、一九七一年にAlbum de Famillia(家族のアルバム)でYoung Poet of Peru賞を受賞しました。それから約二十年間詩を発表することもなく沈黙しましたが、一九九四年にHistoria Naturalを出版。二〇〇二年にはコロンビアで、二〇〇四年にはスペインで、詩のアンソロジーが出版されました。 ワタナベはサトウキビ畑で働く家族の、十一人兄弟のなかの五男だったそうです。「いつか家族みんなで日本に戻ろう」そう夢を語る父親自身が、その夢を信じていないように見えたと語っています。
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砂の駅
大きなとかげが 突然、目の前にあらわれた 砂の色に溶け込み、たじろぐこともなく じっと私を観察している 音もなく はやぶさが 太陽のふちをなぞって飛ぶように 音もなく 砂が 突風のなかへと散っていくように
不思議なとまどいで 鼓動が 空気をゆらしてしまいそうだ とかげはきっと逃げてしまうだろう
私はしずけさのなかに 鈴のおとを聞く かんだかく鳴り響く列車の車輪 乗客たちの肩の向こうで めそめそと泣いている羊の群れ
ここはかつて砂漠の駅だった 今では遠くまで続くレールは錆びつき ここに眠るものたちは影もなく つもった落ち葉のようにして かすかにゆれる
この駅の砂は 無花果の実を燃やし 羊の骨にも刺さるような 棘の多い種だけを残した
ここでは砂は 生きているひとつの物質だ この駅のベンチで眠るものたちは だれも 帽子の上の砂を 振り払おうとはしない
私はもうここを離れよう そう思って駅に背を向けたとき 自分のなかにある隙間を意識した この隙間は私が受け継いだもの 母はむかしこの駅で、旅行者たちに 果物を売っていた
母の面影が いま私の背中に ひっそりと 駆け寄ってくるように感じる 情け容赦のない砂が 母が果物を入れていた籠のなかへ さらさら入りこんだようにして
(Historia Naturalより)
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Sand Station
The prodigious lizard darts out of my sight. It conceals itself in the color of the sandbank, unflinching, observing me as a falcon flies off the patch of sun and sand falls evenly through the gusts of air upon no one. No sound stirs it. It would run if the air could pulse with my own strange confusion: I make out a ting, the strident blare of a train and the bleat of a sheep on a passenger’s shoulders. This was once a desert station. A stretch of rail is blurred with rust, A sleeper quivers like a pile of leaves without shade: The desert burned off the ficus and seeded its own thorny plants that torment the skeleton of goat. Here sand is the one live substance, no one who sleeps on these splitting platform benches shakes it from his hat. I abandon this place. Turning, I sense my own porosity, my inheritance: My mother used to sell fruit here to travelers. I feel her run up behind me like a relentless body of sand surging and disintegrating with her basket of wares.
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訳というよりは、自分の汲みとったイメージにそって「作文」してしまいましたが、この詩のなかの死と生のイメージ、喪失感と熱い砂のイメージが伝わってくれればありがたいです…。
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