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RSSフィード [43] ひさしぶりに三語だった
   
日時: 2011/10/10 22:38
名前: 弥田 ID:sEdlNfjo

「爆音」「女の子が描いたホワイトボードの落書き」「TSUTAYA」
 です。

 しめきりは0時です。きばってください。

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とある地方の片隅で ( No.4 )
   
日時: 2011/10/11 00:11
名前: ラトリー ID:Vn7Bggc6

 ――事実は小説より奇なり。
 っていうのはよく言ったもので、偶然にしてはあまりにもできすぎた都合の良い話が時には起こったりするもんだ。
 現にこの俺も、つい最近、実際にそんな体験をしてしまった。
 せっかくだし、それを今から話してみることにしよう。
 ん、なぜそんな話をしたがるのかって?
 ハハ、簡単なこと。単に暇でヒマで仕方ないから話すまでのことさ。

 さて、話は今から一ヶ月くらい前のことだ。
 俺は学校からの帰宅途中、電車を待つために駅のホームに立ち尽くしていた。
 そこそこ頭も悪くなかったから、私立の進学校に電車通学してたんだ。授業を終えて、部活をして、さあそろそろ帰るかってんで、最寄の駅にたどり着いて電車を待ってたわけだ。
 十二月半ば。季節はとっくに冬だったから、寒くて仕方なかった。吐く息は白く凍りつくかのようで、空からはチラチラ雪が舞っていた。あんまり寒かったものだから、早く電車来い、来いって、俺はコートのポケットに入れた指でこっそり手招きしてたくらいだった。
 その時だ。ふと気づくと、俺の割と近くに一人の女が立っていた。
 だいたい三メートルくらい離れていただろうか。年は見た感じ三十歳手前くらいで、やたら派手だが安っぽそうな毛皮のコートに厚化粧をしている。右手にはブランド物のバッグ、左手にはTSUTAYAの文字が記されたビニール袋。だから目立つのは確かだけど、あんまり見ばえが良くない感じの女だった。
 で、あんまり見続けるのも良くないと思ったんで、俺は女をちらっと確認してからすぐに目をそらした。そうして、ホームの先にある線路だけをじっと見つめ続けるふりをしたんだ。そうすれば、横目でかろうじて女の姿が入るくらいの視界は確保できた。
 すると女、右手に持ったバッグからかなり古い型式の携帯電話を取りだして、ボタンを押し始めたんだ。もちろんスマートフォンじゃなくて、折りたためるやつでもなくて、取りだしたらそのまま電話をかけられるヤツ、あれな。
 俺のいるすぐ近くで通話かよ……と少し嫌な気分にはなったけど、他人の話を堂々と盗み聞きできるチャンスでもあったので、俺は気にせずその場に立ち続けることにした。
 女の眉がぴくりと動いた。どうやら相手との通話がつながったようだ。と思いきや、途端に女は火のついたようなどぎつい声で、通話機に向かって怒鳴り始めた。
 会話の内容から察するに、通話の相手は男。でもってそいつは女の夫、あるいは同棲相手といったところか。怒り狂った猛獣みたいな爆音で、ヒステリックにわめき立てているのが俺の耳に次々と飛び込んできた。
 どうやら、その二人はケータイを介して夫婦喧嘩を繰り広げているようだった。何も俺が隣に立っているところで喧嘩なんかしなくても……と思いつつ、俺としては今さら逃げ出すこともできないといった感じだった。
 ホームの反対側にまで女の叫び声は届いていて、数人が何事かといった様子で向こう側からこちらを眺めていた。まるで俺が見られてるみたいで、何だか後ろめたかった。
 話を聞くに、男は現在無職。女だけが仕事をしているようだった。つまり、家計を切り盛りしているのは女の方ということだ。そして、二人の間には子供もいるらしい。自分が不在の間、男が子育てさえ満足にできていない現状に、女は怒り心頭のご様子だった。
 男が言ったことに対して、
「何もできへんくせに偉そうなこと言うな」
 と容赦ない一言。その言葉に続けて女、
「子供に代われ」
 と言い放つ。その鋭さときたら、声だけで姿の見えない通話先の男を刺し貫こうかといわんばかりの調子だ。
 で、代わったと思った瞬間。女の表情が一変した。それだけではなくて、声の変化も著しかった。ドスの効いたヤクザのような調子でしゃべり続けていたのが、明らかに優しい声音に変わったのだ。たとえるなら、ゴジラからミッフィーちゃんだ。
「ミヨコちゃん、もうすぐ帰るから、ネンネして待っててなぁ」と。
 しかし、その会話が終わり、通話相手が男になると状況は最初に逆戻りした。その時の彼女の表情は、まさに鬼の形相だった。その頃にはもう我慢できなくて、俺は軽く首をひねっちゃったりなんかして、女の顔に注意を向けていた。まあ、こちらに振り向かれると怖いから、ほんの少し首を傾けていただけなんだけど。
「なんでこんな遅い時間までミヨコちゃん起きてるの!」
 となじる女。夫が通話口で何かしらの反応を見せると、
「あんた、もう父親失格や。親権よこせ」
 など言いたい放題。左手のTSUTAYA袋を怒りに任せて振り回し、この場にいないはずの夫を目の前で殴りつけてでもいるかのようだ。
(いや、それさすがに言いすぎやろ……)
 と心の中で、さすがに彼女にツッコミを入れる俺。正直、一方的に罵詈雑言を浴びせかけられている男が可哀想でならなかった。男が役割を果たしていないってのがどういうことなのか、具体的には分からなかったのだが。

 と、以上のごとくである。
 会話の一部始終を聞いていた俺は、不謹慎ながら「面白い!」と感じていたのであった。

 その後、家に帰宅した俺を待っていたのは、母からの予想外の連絡だった。
「明日から優子おばさんがウチに来るから、少し狭くなるけど我慢しなさいね」
「優子おばさん? 誰なん、それ」
「ああ、あんた知らんかったね。私の妹や。旦那さんと別居することになったんやって」
「はぁ。別居ね……」
「私もさっき聞いたばかりやから、詳しいことは分からん」
「突然な話やなぁ」
 洗濯物を取り込むので忙しく動き回っていた母は、去り際に付け加えるように言った。
「娘の美代子ちゃんも来るらしいから、仲良くしたってな。ま、まだ小さいらしいけど」
「美代子……ミヨコ?」

 翌日は休日だったが、朝っぱらから俺の家にやって来たのは、他でもないあの女だった。
「こういうの、世間じゃ『できちゃった離婚』とか言うんやろかね」
「あんた、まだ離婚してないでしょ。ウチにそのまま居着くとかはナシやで。分かった?」
「分かってるって、姉さん。あいつが不甲斐ないからこうなったんや。旦那がしっかりしてくれたらすぐにでも戻るから、心配せんでええよ」
 昨日見たままの格好で女の子を抱いてリビングに乗り込んできた女は、俺を見て少し首をかしげた。
「はて、あんたどこかで見たことがあったような……?」
「気のせいちゃう? 俺、優子おばさん見るの初めてやし」
 ぷいと顔を背けると、俺は自室にこもったのであった。
(よりによってこんな展開かよ……)

「おー美代子ちゃん、すっごいねー。よくこんなの書けるねー」
「がおおおおう」
 自室。女の子が描いたホワイトボードの落書きにしては、ちょっと勇ましすぎるゴジラの絵を見ながら考える。衝撃の出会いから一ヶ月、俺もすっかり子守り生活に慣れてしまった。暇でヒマで仕方ないからって、ついやる気を見せてしまったのが運の尽きだった。
 まあ、世の中にはいろんな出来事があるってことだ。
 ――そう、事実は小説より奇なり、ってな。

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