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RSSフィード [3] 新サイト突発一時間三語・斬
   
日時: 2010/12/18 23:02
名前: 片桐 ID:a1xijYQ2

 新サイト一回目の突発三語ということで、少し説明させていただきます。
 突発一時間三語というのは、一時間で三つのお題を含んだ小説を書いて投稿しよう、というミニイベントです。
 三つのお題はチャット上で集められます。スレッドが立ち上げられると執筆開始となり、その後一時間以内にこのスレッドに返信する形で投稿してください。
 別板で行われている一週間内に書き上げて投稿する三語は、構想時間は自由で、書き上げるまでの目標時間を一時間としているのに対し(この制限はあまり守られていませんがw)、こちらは一時間以内に構想執筆をするものだとお考えください。
 もちろん、あくまで楽しむことを目的としたイベントなので、多少の時間オーバーは問題ありません。また、仮に作品が完成していなくても、一時間たった時点の成果として投稿するのもありです。
 とにかく一番重要なことは書くことを楽しむことです。一時間で自分がどこまでできるのか、焦ったり、頭ひねったり、変なテンションになったり、楽しんでみてください。
 
 では今回のお題です。
 「アンティーク」「茜色」「木目金」
 以上の三つのお題を使って作品を書いてください。

 一応の投稿締め切りは十二時。参加は自由なので、興味のある方は是非ご投稿ください。
 

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Re: 新サイト突発一時間三語・斬 ( No.4 )
   
日時: 2010/12/19 00:02
名前: 杜若 ID:a1ll/PMA

次の春に私は嫁ぐ頃になりました。
八畳の自室には花嫁道具として、着物がたっぷりとつまった桐のタンスと
祝言の時に私が纏う白無垢が飾られています。
きっと嫁ぐ日には、今は細い枝だけを薄曇りの空に向かって伸ばしている庭の桜が満開になっていることでしょう。
それはそれは見事な花を咲かせる木ですから、白無垢を着てその下を通ったら薄紅色に染まってしまうかもしれません。
そんな事を考えながら、ぼんやりと庭を見つめていますと
「どうしたんだい、何だかうれしそうだね」
と父が声をかけてきました。
どうやら知らないうちに笑っていたようです。
私は今考えていた事を父に話しました。私の明るい口調に比べて父の顔は寂しそうです。
私は一人娘ですから、きっと嫁ぐのが寂しいのでしょう。
「大丈夫よ、お父さん。嫁ぐといってもすぐ近くだもの。ちょくちょく顔を出すわ」
慰めの言葉を口にしても、父は小さくうなずいただでした。
ああ、こういう時にかぎってなぜ母がいないのでしょう。
買い物だ、町内会だと母は大した用もないのに最近はよく家を空けます。
まるで家にいることをいやがるかのように。これも寂しさの表れでしょうか。
「そうだ、お父さん。木目金の文箱あれを頂戴」
胸の前で両手をパンと打ちあわせて私は話題を変えました。
「木目金の……文箱?」
首をかしげる父に私は頷きます。
「ほら、昔お父さんが手紙入れに使っていた物よ。大切にするから、ね、いいでしょう」
木目金とは幾つかの金属を重ね合わせて圧を加えた物を叩いて伸ばし、更に掘ることで
模様を浮かび上がらせたものです。まるで木目のような複雑な模様ができるのでそうよばれているとか。
指輪のような小さなアクセサリーにされる事が多いのですが、父のもっているそれはA4サイズの封筒ですら
すっぽりと入るくらいの大きさがありました。
小さい頃は光の加減で変わる模様をいつまでも飽きずに眺めたものです。
「ああ、いいよ」
父は頷いてやっと小さな笑みを見せました。

             ※

季節は巡ります。桜の花は芽吹き、蕾を膨らませ、可憐な花を咲かせました。
ああ、ついに私は嫁ぐのです。
白無垢に袖を通しましょう。髪をくしけずり簪で結いあげましょう。これは隣町のアンティークショップで
一目で気に入って買ったものです。サンゴの五分玉。血のようだと父は嫌がりましたが白一色の着物の中で
丁度いいアクセントです。それにどうせつの隠しでほとんど隠れてしまいます。
白粉も塗りましょう。桜の下をとおっても薄紅色になってしまわないように少し濃いめに。
さあ、すっかり支度が整いました。
花婿の迎えを待ちます。黒塗りのハイヤーでやってくるはずです。少し照れながら私に向かって逞しい手を伸ばし
新しい生活へと連れて行ってくれるでしょう。
時計の針が少しづつ進んでいきます。くるり、くるりと長針がまわり、かちり、かちりと短針が進んでいきます。
私はだんだんそわそわしてきました。
どうしてこんなに遅いのでしょう。いえ、どうしてこんなに家は静かなのでしょう。
祝言の日ならば親戚や、近所の人がお祭りのように賑やかにこの家にやってくるはずなのに。
そういえば、母はどこに行ったのでしょう。父は向こうの御両親のお相手をしているので、姿が見えなくても
あたりまえですが、母が娘の着つけの手伝いもしないなんて。
白無垢の裾を翻し、私は母を探して家の中を歩きまわります。
六畳の茶の間と台所、客間と父の書斎、そして寝室、水回り。小さな家ですからかくれる場所もほとんどありません
「お母さん、お母さん」
しかし何度呼びかけてもかえってくるのはしんとした静寂ばかり。
台所には火の気もなく、茶の間の小さなちゃぶ台の上にはお祝いのお菓子ひとつもありません。
私はだんだん不安になってきました。なぜ? 今日は私の祝言なのに。
「何をしているんだい」
玄関を開けて帰って来た父が私の姿を見てなぜかとても悲しそうな顔をしました。
私はやっと少し安心して母がいないことを父に告げました。
「何の支度もしていないのよ、このままじゃお迎えが来てもはじをかくわ」
きりきりと奥歯を噛みしめる私に、父は益々悲しそうな顔をしてポツリとつぶやきました。
「もう、やめよう。その子」
その子とは母の名です。なぜ、と口を開きかけた私に父は黙って書斎の方を指さしました。
そこには茜色の夕日に照らされた鏡が置かれておりました。
そこに写っていたのは、顔を真っ白く塗った老婆……。
「亜由美は、20年前に死んだじゃないか」
カラン、と足元に固い音が響きました。
いつのまに手にしていたのでしょう。金木目の文箱が足元に転がり
複雑な模様があざ笑うかのように私を見つめておりました。


終わり

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