しずかという女 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/02/13 17:27
- 名前: ねじ ID:rt.QulDY
あなたを愛していないわけではないのよ、としずかは言った。いつもうつむきがちの顔は、まっすぐこちらを向いている。 「でも、あいつのことも愛しているわけだ」 俺の非難の言葉に、困惑したように眉を顰める。その柔らかで自然な眉の線も、伏し気味のまつげの長さも、いつものしずかだった。雪国に生まれて、日の光にも強い風にも当らず、ひっそりと静かに育まれたような、優しげで清潔な印象の女。俺のものだと信じていた、しずか。 皺一つない首を僅かにかしげ、しずかは言う。 「あの人には、私が必要なの」 その言葉を聴いた途端、俺は不意に、何もかもが馬鹿馬鹿しくなった。しずかのことも、そのしずかを必要だという男のことも、しずかに惚れていた俺のことも、もっと言えば、「愛」という、正体のわからない、けれどすっかり声になじんだ言葉のことも。何もかもが。 しずかはじっと目を見張り、こちらの出方を伺っている。黒い、瞳。俺の考えからはみ出した、「必要」とか「愛」とか、そういうものを凝縮して作った黒い石のような、しずかの瞳。俺はこの女の、この目に惚れたのだった。底の見えない、俺には理解のできないこの瞳に。 俺は得たいのしれない衝動に駆られて、しずかの白い、丸い頬に、手を伸ばす。しずかは目を伏せ、そっと俺の手のひらに、頬を沿わす。そのあまりの柔らかさに、ほとんど恐怖に似た欲望で、しずかの体を抱きしめた。
※ できたよー!
|
|