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RSSフィード [11] ふわふわ浮かぶそれは、確かに、確かに三語なのでした。
   
日時: 2011/01/22 22:59
名前: 片桐 ID:Opo0UrvM

今日もありますやります。一時間三語。
お題は、「煎茶」「ダウジング」「手のひら」。
多少の時間オーバーはかまいません。作品の未完結だって問題ありません。
楽しめるように書いてください。
十二時あたりまでに、あ、やってみたいかも、と思う方は投稿してください。

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Re: ふわふわ浮かぶそれは、確かに、確かに三語なのでした。 ( No.9 )
   
日時: 2011/01/23 00:09
名前: 片桐 ID:HG2F1jOg

 週末に出かける商店街はほどほどに活気がある。人と肩をすれ違わせるほど混みあっておらず、うら寂しい気持ちにならないほどには行きかう人がいて、それが妙に心地よかった。
 月曜から土曜まで工場で働き、日曜は毎週外にでる。小さな本屋に立ち寄り転職関連の書物を一、二冊買い、喫茶店でタバコをくゆらせながら本を開いてコーヒーを飲み、金にゆとりがあるならパチンコ屋によって、一万使って当たらなければ帰り、当たれば玉がなくなるまでだらだらと打ち続ける。そうしてときが過ぎれば、アパートに帰って寝入り、また一週間働き続ける。そんなものだ、と誰にでもなく呟く癖がついたのはいつからだろう。
 その日、商店街のアーケードの下を通りながら、不意に、しまった、と思った。またやってしまった、まったく俺という奴はいつもこんな呆けた真似をする、と自分にあきれた。しかし私はそこで頭が真っ白になる気分を味わった。ガスの元栓は締めた、鍵の掛け忘れはないし、財布はズボンのポケットに入っている。では――、では私が忘れたものはなんだろう。
 幼馴染の名前をど忘れした時のように、思い起こそうとする気持ちと裏腹に、いっこうに答えは見つからず、頭に掛かった負荷にいらつきが募る。タバコを吸おうと商店街の路地裏へ入る通りに置かれた灰皿に歩み寄り、ライターで火をつける。紫煙を吸っても気分は落ち着かず、深く吸い込んで咽せ、出掛かった答えを吐き出してしまったような気分が嫌だった。
「探し物かい」
 そう呼びかけられて、振り向いた先に老婆が座っていた。「占」と手書きしたダンボールを電信柱に立てかけ、その前に椅子を置いて、腰の丸まった老婆が置物のようにこちらを見ている。その口調はそっけないようで、無視できないような人懐っこさを含んでいた。
「いや、それが」
 私は言葉に窮する。そもそも何を探しているかがわからないのだ。焦りはつのるが、一向に自分が何に対して不安を抱いているかがわからない。
「探しものならダウジングなんかもあたしはするよ。糸に五円玉ぶらさげて揺らすとさ、その人の探し物がどこにあるかわかるんだ。どうだい?」
「それが、いや、恥ずかしい話なんですが、何を忘れているかがわからない。探し物だったような気もするが、では何を探しているかと言われると、頭が真っ白になるんだ」
 そう言ってばつの悪い表情を作る私を、老婆は静かに見つめていた。
「そういう人がたまに来るよ、ここにはさ。どこにいったかわからない、何を無くしたかもわからない。それが不安で、でもどうしようできない自分に腹が立つ、そんな人がね。そうさね、お代は見てのお帰りってやつでいいさ、あんたの無くしたもの、あたしが占ってやろうか?」
「そんなことが?」
「言っておいて出来ないとは言わないよ。あたしは占いで食ってんだ。まあ、最近は年金で喰ってるって方が正しいかもしれないけどね。さ、こっちに来て、あんたの顔をよく見せてくれ」
 私は老婆に近づくと、背の丸まった彼女に合わせて腰を屈め、皴が刻まれた顔の中から覗く小さな黒い目を見た。
 ああ――、と老婆は漏らす。
「あんたが失ったもの、無くしたもの、教えてやることはできる。でも、それであんたはいっそう辛い気分になるかもしれない。それでもあんた知りたいかい?」
「教えて欲しい。仮にどんなことがあっても、今みたいに不安な気分でいるよりはましだと思うんだ」
 老婆はしばし逡巡し、私の右手を指差した。
「手のひらを開いてよく見りゃわかるよ。あんたが無くしたもの、失ったものが何だったかさ。でもね――」
 老婆が何か言い掛けているのをよそに、私は右手を目の前に持ち上げ、握った手をゆっくりと開いた。
 どれだけ見つめても、何もない。いや、正確には、あるべきものがないという痕跡があった。
 結婚指輪の跡だけが、薬指に残る。
 気づけば私は慟哭していた。
「俺は、そうか、彼女は、もう、だから、俺は忘れて、捨てて、すべてをなかったことに――」
 懺悔でもしているように、言葉をこぼす私を老婆は変わることなく見ている。
「たちどころに楽になる魔法なんてどこにもないもんさ。耐えて耐えて、とにかく生き延びる。そして自分なりに納得するもんが見つかれば、そこからまた歩けば良いじゃないか」
 私は老婆の言葉に何度も頷きながら、ありがとう、と言った。
 老婆は小脇に置いた魔法瓶から煎茶を注ぎ渡しに差し出す。
「ありゃま」見れば小さなコップの中に茶柱が立っていて、老婆は笑顔を見せる。「ほら、こんなもんさ」
 私は手渡された茶を一息に飲み、もう一度ありがとうと告げた。

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