しゅしゅしゅ収集がつきませんでした ( No.6 ) |
- 日時: 2011/02/06 15:48
- 名前: 端崎 ID:vFF2EKzQ
ぼうっとする視界のなかでシェナイが手にしたナイフは月にぬれ、冷たいひかりが部屋に閃いた。 果物を剥く、しゃり、しゃり、という音をぼくは小気味よくきいている。ほそながくしなやかな指はよどみなく動く。剥かれた皮はだらだらととぐろをまいて彼女の手元の小鉢に落ちてゆき、果物は、その果肉をしだいに露わにした。 「はい、どうぞ」 とさしだされたまる剥きの果実をうけとると、小ぶりながらしっとり重く、あわくきいろの注した果肉はよく熟れていた。 「こういうときにはよく効くの」 寝台に横たえた身体はだるく、どうやら風邪をこじらせたようだった。風土がかわれば風邪をひきやすいとはいうが、こんな異郷までやってきて、やはり異邦人の身体は融通がきかない。 夕刻、林で嘔吐しているところを心配してくれたのがシェナイだ。近くにあるあずまやまで案内してくれ、看病までしてくれた。 「ありがとう」 「ううん」といってシェナイはあくびをひとつした。そのときちらりとみえた口の中に、鋭くとがった歯をみつけ、どきっとする。けれど 「眠くなっちゃった」 屈託なくいいながらごそごそと寝床をつくりはじめるシェナイをみていると、小柄でかわいらしい。かがんだ背中の下からは、ふさふさと毛並みのよい尻尾が一本揺れている。じっと眺めていると、気づいた彼女は 「食べないの?」 といってこちらへ帰ってくる。 ぼくは果実を眼の前までもってきて、 「ごらんよ」という。 「満月みたいだ」 「そうね」といってシェナイが笑った。「もう寝ましょう」 外はしずかで、虫の音ばかりが耳に届く。
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