Re: リクエスト小説をやってみる。 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/03/06 02:35
- 名前: 李都 ID:u4MSePmE
お題:恋愛物 和物 おっさんが活躍する
こんこんと白雪が降り積もる世界に赤い椿はどこか浮世離れしていて、まるで美しいあなたのようだった。 木の塀で囲われた入り組んだ路地で初めてあなたを見た。音もなく降る雪が赤い番傘を滑って落ちる。その下に見えるゆるく結われた黒髪は艶やかで、口許の黒子が彼女の色香を濃密なものにしていた。旅籠の下で休んでいた私は一気に彼女に魅せられてしまった。 朝になると体を伸ばし、身なりを整えると、周りのヤジも気にせず私はあなたのところへ行く。あなたはいつも庭の椿の花をとりに来るから、私はその時間に合わせて庭が見えるところまで近づいてあなたをこうして見つめにくる。名前は知らない。でも家は知っている。見せられたあの雪の日に後を付けたから。断じてストーカーなどではない。純粋な愛故だということは知っておいてほしい。 通ってはいるがまだ一度だって彼女の眼に私は映ったことはない。会話さえ、挨拶さえしたことがない。 あなたは美しい。しかし、私はどうだ? もう成熟した子供がいたっておかしくない年齢だ。なにより背も低い。あなたはスラっと美しい、白樺のよう。私はよくいってもそれにくっついたキノコのようなものだ。ずんぐりとした体も、太々しいこの顔も私は大嫌いだった。
あなたと出会った冬が過ぎ、桜が舞い始めたある日。私はいつものように家の門の近くまで行った。すると、いつもは居るはずの姿がなかった。おかしい。彼女がいつも漂わせている香の匂いもしない。家の中にいるのだろうか。 諦めてもう少し日が高くなってから出直そうと来た道を振り返ると、彼女の家から物が割れる音がした。籠って聞こえにくくはあったが、怯えるような彼女の悲鳴が聞こえた。 「……っ」 私は無我夢中で駆けだした。あんなに硬く大きな壁に見えた門を一瞬でくぐり、襖の開いていた縁側をよじ登り、和室に入ると必死で目を動かし、耳を澄まし彼女を探した。 「いやぁ! こないでぇ」 今度ははっきり彼女の声が聞こえた。何かに襲われているのか、嫌な汗が出た。また駆けだすと、私は唯一の取り柄である足の速さをこの時は良かったと深く思えた。彼女の声のほうへと進むと、ひどく怯えた様子の彼女いた。彼女の目線の先には一匹の鼠がいた。 私はホッと胸を撫で下ろした。鼠なら私も退治くらいできる。 「え?」 ふと鈴を転がしたような彼女の声が聞こえた。 息を切らした私があなたの美しい目に映る。足が震えた。何度夢見たことだろう。彼女に私の存在を知ってもらえた喜びに体が震えた。 「あなた、どこから入ってきたの?」 首を傾げると乱れた髪が肩から零れた。私はそれを見ただけで胸が脈打ったのを感じた。 不法侵入なのは分かっていた。でも一度でもあなたの眼に映りたかった。意を決して彼女を無視し、私は躊躇いなく鼠に襲いかかった。 鼠はいとも簡単に始末できた。慣れたものだった。 「すごいわねぇ。私は鼠が嫌いなのよ」 彼女は安心したようで柔らかな笑みを私に向けてくれた。天に昇るような気持ちになれた。 「ねえ、あなた、私の家に住む?」 「なーご」 私は嬉しくなって声をあげてしまった。私の返事に納得したのか、彼女はにっこりと笑い、よっこいしょと私を持ち上げて頭を撫でてくれた。 幸せだと言いたくて、ゴロゴロと喉を鳴らして椿のように美しいあなたに愛を伝えた。
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恐ろしいほど雑な仕上がり; 付け焼刃にもほどがある
一応最初書いていた途中のものも載せておきます… ↓
仕舞いこんでいたビー玉が弾けたような音がした。志穂は、またか、と思った。 先程まで頬を染めていた女子(おなご)は顔を歪め、ぽろぽろと泣いている。その顔を見ると志穂の耳には薄い和紙がくしゃくしゃに丸められるような音が聞こえるのだった。 座敷が二卓とカウンター席が六つしかない、狭い店内で女子のすすり泣く声はひどく響いた。現にさっきまで話し声にあふれていた茶屋の中は、奥に座る二人の男女に意識が集中し静まり返っている。ふと、お抹茶とぜんざいの乗った丸いお盆を握る手に力が入る。 志穂はこの時間が嫌いだった。人々の顔が複雑に歪むこの時は苦痛だった。耳の良い志穂にとって沈黙は沈黙ではないからだ。 志穂は通常の人間では感じないことを感じる、音に関する共感覚を持っていた。目に入ってきた情報が聴覚と連動し、風景に音を感じるというものだった。それに別に霊的な意味とか真理とか、魔法染みた事ではなかった。ただそう感じる。砂糖を舐めて甘いと感じる、ただそれだけの意味しかなかった。ただし人の表情は特殊な音が聞こえる。悲しそうな顔をしていれば悲しい音が聞こえるし、癇癪を起こす人を見れば激しい音が鳴り響いた。彼女の感覚は人の理解が得にくいものだったので、志穂は説明も面倒だからと家族以外にはそのことを秘密にしていた。だが、今はそれを言いたくてたまらない。 「本当にうるさい」 志穂がぽつりと虫のような声でそう言うと、奥に座っていた男と目があった気がした。 凛とした切れ長の鷹のような眼をしたその男は、テーブルの上にお茶代を置いて立ちあがった。壁に寄った志穂を見ることもなく、男は店を後にした。 「ありがとうございましたー」 引き戸の音に反応したのか、厨房から響く父の声が彼を見送った。それを合図に店内は再び話し声で溢れだした。 「御待たせいたしました。お抹茶とぜんざいでございます。ではごゆっくり」 品物とともに営業スマイルを置いてくると、志穂は厨房の暖簾をくぐった。 「全く何なの、あの人。毎度毎度女の子泣かせて帰って行くなんて。お客さんの顔がうるさくてたまらないわ」 厨房に入るや否や不機嫌そうないつもの顔になった志穂を見た父は苦笑した。白あんを丸めていた手を止めると、漆塗りのお盆に半紙を乗せ、その上に季節物の上菓子を品よく盛り付け、志穂の前に差し出した。 「またあの色男が来てたか。ほれ、これを娘さんに出してやれ。お茶はお菓子を食べ終わってからだぞ」 木綿の手ぬぐいを頭に巻き、藍の着物の上に白の前垂れを着た父は、がっちりとしていて、手も大きく顔もどちらかといえば厳つい。とても上菓子を作っているようには見えない人だが、誰よりも心優しく繊細なことは志穂が一番よく知っていた。 「わかったわ」 志穂は慣れた手つきでそのお盆を受け取り、まだ肩を震わせている女子の元へと向かった。 「季節の上菓子でございます」 「……え、え? あの、頼んでいません」 まだあどけなさの残るその泣き顔は戸惑っているようだった。志穂の耳にはざわざわと風の強い日の葉擦れの音が響いていた。桃色の上菓子をそっと女子の前に出し、志穂はゆっくり安心させるように微笑んで見せた。 「サービスですのでご心配なく。お客様の頬が乾く頃にお茶もお持ちしますね」 女子は俯き、小さく「ありがとう」と言った。お茶が届くころには元気が戻っていた。帰り際、ご迷惑をおかけしました、と志穂に頭を下げ、ごちそうさまでした、と外の夕日と混じって美しく笑っていた。
序盤で終わってしまったもの ふえぇぇ 精進します;
とりあえず楽しかったです ではまた
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