メランコリックな林檎 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/01/31 00:52
- 名前: 山田さん ID:2IUr6lrA
夜空を見上げると、真っ赤な林檎がぽっかりと浮かんでいた。 そいつはお月さまよりも大きく、メランコリックに輝いていた。 不吉だ。 不吉だ。 とてつもなく不吉だ。 なんてたってメランコリックな輝き。 鬱病患者が増えた。 不眠症患者が増えた 自殺者が増えた。 すべてこのメランコリックな輝きのせいだ。
「じゃ、皮むいちゃえばいいんじゃね?」 「いっそのことすりおろしちまいなよ!」 「林檎飴にしてペロペロやろうぜ!」
ああだこうだとのたまう人々。 それをあざ笑うかのようにメランコリックに輝き続ける夜の真っ赤な林檎。 「♪わたしはまっかなりんごですぅ~ おくにはぁさぁむいきたのくにぃ~」 歌まで披露しはじめやがった。
「♪いい加減にしろよぉ~」 とおおぐま座が怒った。 「♪わたしはまっかなりんごですぅ~」 負けじと林檎。 「♪調子の乗るんじゃないわよにゃん~」 とやまねこ座が叫んだ。 「♪おくにはぁさぁむいきたのくにぃ~」 負けじと林檎。 「♪林檎なんて……♪林檎なんて……♪林檎なんて……」 プレアデス星団の大合唱が始まった。 「♪り~んごばたけのおじさんにぃ~」 負けじと林檎。 「♪ちょっきんちょっきんちょっきんなぁ~」 意味不明のかに座。 「♪は~こにつめられきしゃぽっぽぉ~」 負けじと林檎。
真っ赤な林檎と真っ白な星座連合軍との紅白歌合戦の始まりである。
たまらないのは地上の人々。 夜空はメランコリック。 夜空はノイジー。 赤勝て白勝て。 視聴率はどうした! 裏番組はどうなった! 格闘技か! 笑ってはいけないスパイか! 猪木ボンバイエェェェェェェ!
そんな折も折。 天の川が氾濫を始めた。 ここ最近の異常気象、特にラニーニャ現象によるダークマターの温度上昇を原因とする長雨の影響によるものらしい。 ザザザー。 ザボーン。 ザザザー。 ザボーン。
林檎は天の川の氾濫に負けた。 星座連合軍の目前で天の川にズブズブズブと沈んでいく林檎。 哀れ林檎よ、林檎よ哀れ。 こんな林檎に誰がした……。
「クラムボンはわらったよ」 「クラムボンはかぷかぷわらったよ」 「クラムボンは立ちあがってわらったよ」 「クラムボンはかぷかぷわらったよ」
蟹の子供らの間にゆっくりと落ちてくる林檎。 メランコリックな輝きそのままに。
「クラムボンは死んだよ」 「クラムボンは殺されたよ」 「クラムボンは死んでしまったよ」 「殺されたよ」 「そんならなぜ殺された」 なぜってメランコリックだからさ。
メランコリックな林檎は美味しそうな匂いを漂わせながら沈んできます。 「どうだ。林檎だよ。よく熟している。いい匂だろう」 「おいしそうだねお父さん」 「待て待て、もう三日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る。それからひとりでにおいしいお酒ができるから。さあ、もう帰って寝よう。おいで」
ということでやっと誰かの役にたった林檎でした。 めでたしめでたし。
*後半は「宮沢賢治 やまなし」の引用になってしまいました……ごめんなさい。 *誤字脱字と最初の一行目だけ、ちょこっと手を加えてしまいました……ごめんなさい。
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