梅雨の怪談に出来ませんでした。 ( No.3 ) |
- 日時: 2012/06/11 02:19
- 名前: 水樹 ID:Dumru3sw
濡れ女さんと僕
僕は六月が嫌いだ。雨が長引く梅雨が大嫌いだ。恵みの雨と人は言うだろうけど、僕の半径五キロは雨など無くして欲しいと、神様がいるのなら、本当に神様などと言う当てのない存在がいるのなら、どうかお願いします、お願いしますと願ってやまない。破廉恥極まりない雨乞いじゃなくて、晴天の儀式でも何でも致します、致します。どうか僕だけに干ばつを。どうか日照りを下さいな。僕が梅雨を嫌う最大の理由は、濡れ女さんと親しくなった事でもあった。今年も梅雨を僕は怖がる。
去年の梅雨の最中、彼女は突然僕の部屋、オンボロアパートに入っていた。 「おかえりちゃん、待ってたぜ、ここはかなり居心地がいいな、当分やっかいになるぜ、夜露死苦!」 酒臭っ! それが僕の第一声だったのを覚えている。目のやり場に僕は困った。白のビキニ姿のボン、キュッ、ボンな女性がそこに居たからだ。ウェーブが掛った黒髪は濡れていて恐ろしく長い、脹脛まであるだろう。しかも当然のように横になり、テレビを見ながら裂きイカを齧り、焼酎をロックで飲んでいた。 「フヘヘ、雨漏りなんて直すなよ、直したらお前も五連続三振完封試合にしてやんよ」 尻を掻く彼女、おっさんだったら間違いなく警察に突き出していただろう。 好きなチームが完勝し、上機嫌の彼女は濡れ女さん。妖怪だ。 自己紹介も簡単に、どうして僕の部屋にいるか尋ねる。 「ウヘヘ、ノーアウト満塁からの三者連続三振にはオシッコちびりそうになったんよ、今日は祝杯あげるぜよ、グゥグゥ・・・」 酔い潰れて寝てしまった濡れ女さん、彼女の腰あたり、フローリングの床に水溜りが広がっていた。僕は彼女をベットに運ぶ、彼女の身体は豆腐のように湿っていた。木綿は揉めんと、何とか理性を僕は働かせる。臭いは嗅がずに帰って早々、人様、妖怪の排尿を拭く憐れな僕。翌朝、彼女が寝ていた僕のベットはびしょびしょに濡れていた。
決して目の保養じゃない、そう僕は言い聞かせる、濡れ女さんとの生活が始まった。 濡れ女さんは全てを濡らす。眠る時はかならず酔い潰れる。風邪を引かないと言うので風呂場まで僕が運ぶ。 焼酎と裂きイカと野球が大好き、と言うかそれ以外は口に入れない、なので食費はそれほど掛らない、家事は全くしてくれない、部屋から全く出ないかなりのインドア、洗濯物は全く乾かない、トイレにも全く入らない、好きなチームが劇的に勝つと排尿し水溜りが出来る。逆転負けすると、泣き疲れて愚痴を溢し寝てしまう。外見はスーパーモデル、中身はおっさん。一度理性が吹き飛び、寝込みの彼女を襲ったけど、ある程度の力を加えると濡れ女さんは水風船のように弾けて排水溝に流れる。翌朝には元に戻っている。 梅雨が終わるまで僕は芯棒とともに辛抱していた。
梅雨が終わり、僕の生活は静けさを取り戻した。 水風呂に浸かり、さも水死体のように眠る濡れ女さんがもうじき目を覚ますんじゃないかとビクビクしながら、僕は梅雨を怖がる。
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