Re: 三語だドンの一時間 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/11/13 23:57
- 名前: 弥田 ID:B5W4/fgY
石礫を投げて女を追いやっている。逃げる先には野狐の扮装をした友人が待ち構えていて、僕を含めた三人でそこへと誘導している。手頃なつぶてをポケットいっぱいに詰めてあるので重い。走るとがちゃがちゃなってうるさい。やけに明るい満月が澄清で、女の肌を青白く照らしていた。風に吹かれた草木が鳴る。車を走らせること一時間。都市から離れたちいさな丘で、僕たちは狐狩りをしている。女の悲鳴と、荒い息と、蒸発した体温が白くけぶっているのが鮮やかで、思わず「充血」して走りづらい。左を走るTが雄叫ぶ。たうたうたう。と微震する歓声がこだまし、遠景の山脈に跳ね返った。たうたうたう。たうたうたう。 Yが女の足を狙う。執拗に狙う。心配しながら見守っていたが、案の定直撃して、女が派手に転んだ。ふくらはぎから出血している。傷が痛むのか、それとも僕らがおそろしいのか、悲鳴が一層うるさくなって、這いつくばる女のひきつるようにあがく様子が綺麗だった。なにより、この光景を独占していられるのがいい。TはYを制裁していたから、YはTに制裁されていたから、お互いにそれどころではなかったのだ。ナイフで肌を刻まれている。Yはみるみる血まみれになって、僕はそれとなく目を背ける。男の血液なんて、みたくない。Tや友人はそうでもないみたいだが、すくなくとも僕は違う。 女が立ち上がる。僕は二人にそれを告げ、さきにその後を追った。遅れて二人も走り出す。風がしみるのか、Yがひいひいあえいでいる。耳障りで仕方ないけれど、指摘することもできないまま、やがて狐の潜む場所にまでたどり着いてしまった。
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事後の気だるさ。粘りつく夜の底のような。したたる血しょうの凝固したもののような。とにかく動きたくなくて、女の脚を枕に、くさはらへ寝そべっている。こうして見上げると星が視界いっぱいに満ちて、心の浄化されるような、銀河の白銀に染まっていくような、美しい心持ちになれる。Tと友人も似たような心地らしく、Yだけがいまだに肋骨をもてあそんでいた。がじがじと噛みついてみたり、反吐をつくまで喉の奥まで突っ込んでみたり、なんとも楽しそうな様子だった。 友人が横に座った。もう獣の面は外していて、手巻きの煙草をぼんやりと吸っている。 「よう」 と言うので、僕は片手をあげた。 「今日も楽しかったな」 うなずく。 「知ってるか?」 なにが。 「なんでも今夜は月食があるらしい」 へえ。 「見ようぜ」 見るか。 そういうわけでしばらくそこにじっとしていたが、結果見ることあたわず、陽の昇る前にそうそうと退散した、日曜日。
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